二十六之巻:うむ、壮健にな
しばらくこの城に滞在することとなった。瘴気は祓ったと言えど、こびりついているのだ。釜の底の米粒のように。
そして領内の魔族も多ければ、食糧に病にと困窮する領民たちもいる。
某は朝に領主館の物見の塔の上で南無南無と祈りを捧げ、昼は城の庭で領民たちの病を癒す仕事を始めた。
後ろでは兵士やカチューシャたちが炊き出しの準備を行っておる。
某の前に病人たちが並ぶ。
「婆様、どうしたにござる」
「はぁ、腰が痛くてたまらんでなぁ」
きょろきょろと見渡すが付き添いはいない。この城まで一人で坂を登って来られるなら元気なのではと思わんではないが、まあ良かろう。
婆様の腰に手を当て、光を放つ。
「それ」
ぴかー。
「おお、わしの腰が!ありがたやありがたや聖女様!」
「うむ、壮健にな」
噂を聞きつけて、遠方からも豪商や貴族が訪れるようになった。
「最近、一物が元気がなくて……」
「ほほう、どれ」
スパァン!
豪商の股間に手を当てようとしたらすっ飛んできたカチューシャに頭を叩かれた。
仕方ないので兵糧丸を作る際、精力に効くものを集めたのを丸めたものを出す。
「飲むと金精に効くでござる」
「はぁ……」
「ま、夜にでも試してみるでござるよ」
首を捻りつつ帰った豪商であったが、翌朝ものすごい勢いで走ってきて、某の手を取って振り、対価に金子や絹、希少な珍味など置いていった。
ちなみにその日から『聖女じるしの金精ぐすり』という名で評判になり、目の眩むような高値で飛ぶように売れた。
某は貰った菓子を摘まみながら、半分を殿下に渡して軍事費の足しにさせ、残り半分は神殿の従軍している坊主に渡す。
「多少懐に入れても良いぞ。だがきちんと民を救うのに使うでござる」
坊主は平伏した。殿下は呆れたように言う。
「シルヴィアは無欲だね、でも感謝する。このお金はきっと有用に使おう」
「ふむ、そうであろうか?」
「シルヴィアの力により得たお金なのに、自分で使わずに民のために使うのを無欲と言わずにどう言えば良いのだい?」
周囲から見るとそうなのであろうなぁ。今も周囲の騎士や平民からは拝むような視線が送られている。
ただ、聖女の力は授かり物であり、自身の力という気がしないというのもある。これは某の内に眠るシルヴィアも同意しよう。
そこに辺境伯が近付いてきた。
「聖女シルヴィア、重ね重ねあなたに感謝を」
「うむ」
「そしてご厚意に縋るようで申し訳ないが、我が息子クリストフに会って頂けないだろうか」