二十四之巻:祝詞を捧げようかと思った次第
「ああ、お殿様お姫様。へへーっ」
農夫は平伏しながら思う。
(ぐむむ、聖女どもがここまで来るとは。ハルパリシアめ、やられよったか)
実はこの農夫、魔王軍四天王の一人が変化したものであった!
(俺は魔王軍四天……)
「ああ、構わぬ。それよりこの田畑の様子はどうしたことだ」
鈴の鳴るような声で問われる。
「へ、へえ。この領の小麦はみんなこんな有様でさぁ。領主様の奥方も病でお亡くなりになられております」
「ふむ、瘴気にござるな。殿下、この地は陰の力が強すぎるが元々こうでござるか?」
「いや、そうではない。恐らく魔族の仕業だろう」
隣の美丈夫が答えた。ハルトヴィッヒ皇太子である。
彼らは空を眺めた。太陽は空高く、雲に覆われているわけでもないのにどことなく薄暗く感じる空。
(そう、俺様の邪法よ)
この魔族、直接的な戦闘力は低いものの、超広範囲に影響する邪法の使い手であった。
(そう、この魔王軍四……)
「うむ、浄化するにござる」
「へ?」
パン!パン!
聖女は二度、柏手を叩いた。それだけで魔族の背にぞくりと寒気が走る。
「それは?いつものじゃないの?」
「うむ、逃げる必要もないし、聖女らしく祝詞を捧げようかと思った次第にござる」
聖女は背後に控えていたメイドから煌びやかな長い杖を受け取ると、それを振り地に立てた。
頭を下げ、厳かに祝詞を唱える。
「掛けまくも畏き、なんとかかんとかうんぬんかんぬん、祓へ給ひ清め給へと、なんちゃら、恐み恐みも白ーすー」
パン!パン!
再び柏手が打たれ、爆発的な光の波動が領土を覆っていった。
(バカな!この俺、魔王軍四天王が一、疫病風の……ぐあぁーっ!)
この地にかけられていた呪いが全て浄化されていく。
魔族は全身より邪気を放出しないように体内に廻らせ、耐えるのが精一杯だった。
心なしか景色は明るくなり、麦も僅かに元気を取り戻したかのように見える。
「凄いな!さすがシルヴィア!」
「えへへ、祝詞ちょっと忘れてしまったにござる」
皇太子が嬉しそうに称賛する。聖女は照れた様子だ。
「む、百姓よ。どうか」
「へ、へぇ……。明るくなったような……」
「うむ。ん?お主顔色が悪いな、それに酷い汗ではないか!」
「い、いえ。安静にしておれば」
「何、遠慮するな。こう見えても某は聖女でな。治癒の力も大したものぞ」
「む、ムリムリムリ!」
魔族は激しく手を振る。
「ええい、遠慮するなというのに!」
ピカー!
(この俺、魔王軍、四天、王の……ぐふっ)




