二十一之巻:忍法!口寄せの術!
水中へと落とされた某であるが、目の前には鮫と共に落ちたハルパリシア。
某の身体には聖女の衣が纏わりつき、ハルパリシアもまた翅が邪魔をしてなかなか身動きが取れぬ様子。
某は泳ぎ、鮫が襲いかかるのを払いつつ衣と水蜘蛛を脱ぎ捨てる。一方、奴は自身の翅を捥ぐと周囲に風を生み、水流を作り浮上した。そして新たな翅を生み出して空へと逃げたのでござる。
うぬう、再生するか。こうして水中には某と鮫のみが残された。水中で人が鮫に勝てぬは道理。
さらには下流よりさらなる魚影も。
某は水中で急ぎ印を結ぶ。くっ、どうしても印を結ぶのが遅い。その間に某の腕や脚を鮫の牙や肌が掠め、水中に血煙が舞う。
(……臨兵闘者皆陣列在前!忍法!口寄せの術!)
鮫に抗するはやはり水の生き物でなくては!
(大海鼠の術!)
水中に巨大な黒い塊が現れた。
全身を疣に覆われた黒き塊はそう、身の丈が三丈、太さが五尺はあろうかという大海鼠。それは緩慢な動きで水中に揺蕩う。
目の前に出た大海鼠を鮫は敵と思ったか獲物と思ったか。がぶりと噛み付いた。
だが海鼠は自ら噛みつかれたところをどろりと溶かすと噛みつきより逃れる。
(やれい、大海鼠!白糸の華!)
海鼠はその尻より無数の白き糸を放つ。鮫は糸に触れると嫌がるように身を捩るが、決して取れぬ。糸は極めて強い粘性を持ち、どんどんと放出され鮫を絡め取っていくのだ。
そして段々と鮫の動きが緩慢となり、某はその鰓に刃を突き立てた。うむ、この糸は魚にとって有毒なのだ。
腹を見せてひっくり返る鮫。下流より遡上してきた別の魚の魔物共も、毒の糸を見てこちらに襲い掛かるのを躊躇しておる。
残すはハルパリシア。
大海鼠の口元に生える髭が如き触腕を一本水面へと向かわせる。
すると風の刃が水を揺らし、触腕を斬り落とした。
ううむ、やはり水面から出てくるところを狙っているか。
このままでは息も持たぬしな。
(……忍法、水遁の術)
某はそっと懐剣の鞘の端を水面から出した。
うむ、鞘の先端を外すと管状になるよう細工されているのである。某はふうと一息ついた。
ハルパリシアは空中に留まりつつ舌打ちした。
聖女を水中に落とすことは成功した。だがまさか水中で鮫の魔物を破るとは。
彼女は水面の影を見て風の刃を放つ。
黒い影を斬り飛ばしたが、聖女では無かった。
いかな聖女とて人間。いずれ息継ぎせねばならない。そこを斬れば良いこと。
すると、ぶくぶくと泡が昇ってきた。
「そこよ!」




