十八之巻:どわぁふとやらのやり方か!
ドワーフとの友好関係が!などという大臣がいるが知らぬ!
「魔族を討伐に赴くという某に、このような華美であるだけの鋳物の剣を用意するのがどわぁふとやらのやり方か!これであるなら宝石屋に頼めば良い!」
某は懐剣を抜き放つと石の床に突き立てる。
そして某はその場でくるりと回って勢いをつけ、足で懐剣を叩き折った。
おお、と驚く声。
ふふん、どうだ。見事なものであろう。
ふと脳裏にカチューシャの姿が浮かび、怒りの表情を見せる。……ううむ、黙っておこう。
「せ、聖女殿は剣を扱うのか」
「無論。片刃のものを好むが」
「聖女殿は剣の良し悪しが見ただけで分かるのか」
「ある程度なら」
まあ、忍びの里こそ鍛冶屋は必要にござるしな。良く出入りはしておったし、専門では無いが手伝ってもいた。
どわぁふは慄き崩れ落ちるように地に膝をつき、額を地面に突いた。
ゴン!
見事な土下座というか、凄い音したけど大丈夫にござるか。床に罅入っておるが。
「申し訳ありませぬ聖女様ぁ!武器の良し悪しも分からぬ国の小娘と侮ったことをお許しください!」
なんぞ、と話を聞いてみると、人間共はどわぁふの良い武器と悪い武器の区別も碌につかず、今回聖女の武器をと依頼された時も使者が武器の装飾についてのみの話ばかりしていたのに苛ついたと。成る程。
「某の如き小娘を侮るのは構わぬ。だが己の腕前に誇りを抱かぬのは如何なものか」
「ははー、全くその通りに御座います!」
某は屈み、へし折った剣をどわぁふに渡した。
「聖女様!十日……いや七日いただけませぬでしょうか!儂らに新たな剣を鍛えさせていただきたい!汚名返上の機会を!」
某は殿下の方に視線をやる。
「軍との出立は五日後だね」
「二日の遅れならその日のうちに走って追いつけよう。待とう」
殿下は苦笑して頷いた。
「はっ、聖女様!陛下、御前失礼致します!」
呼び出しっぽい人が止めようとするが、どわぁふは「煩い!直ぐに炉に火を入れねば!」と叫びながら出て行った。
その六日後、当代のドワーフの族長、それは鍛冶場の長でもあるが、彼が不眠不休で打った剣が聖女シルヴィアの元に届けられる事となる。
それは片刃の短剣で、ドワーフの族長が銘を告げようとしたところ、シルヴィアは笑って感謝を伝え、剣の銘は不要とし、こう答えたという。
「うむ、某が生きて帰った時、どのみちこの刀の銘は魔王斬丸になる故にな」
同銘の剣は帝国の国宝として、この話と共に受け継がれている。




