十五之巻:うむ、あれで奴らも邪魔はすまい
「某が魔王討伐に向かうのに、とやかくは言えぬだろう?」
猊下は椅子の上で唸った。
「女神の祝福受けし聖女の意思を、神殿は違えられぬということか」
「王家も彼女の後ろ盾になろう」
殿下もそう告げる。
「神殿も後援しろと?」
「しないでも構わぬが、それで某が魔王を討伐した場合、面目が保てるのでござるか?」
そう言って唸る猊下を置いて席を立った。
「あれで良かったのかい?」
「うむ、あれで奴らも邪魔はすまい」
神殿からの帰りの馬車の中で殿下が尋ねる。
うむ、別に某は生臭坊主が嫌いな訳でもない。あれでよく働いてくれるであろう。万一それでも後ろから刺そうとするなら殺してしまえばよいでな。
そんなことを話して家へと送り届けて……貰う前に殿下のお忍びでーとなるものにつきあわされ、町を巡ってから帰ったのである。まあ菓子は美味かったにござるよ。
明朝、某が目を覚ますと身体が動かぬ。……むくりと起き上がって布団の上で座り、ぼうっとしていると扉を叩く音がしてメイドが入ってくる。
「お嬢様、おはようございます。ミルクをお持ちしました」
「カチューシャ!」
某の顔が笑みの形に崩れ、身体は布団を蹴り出すと彼女に突進した。
「お嬢様……シルヴィアお嬢様!」
カチューシャがミルクを乗せた台を脇に投げ捨て、初めて見る満面の笑みを見せる。
彼女は走ってきた某を抱き上げると、持ち上げてくるくると回った。
「ああ、お嬢様、なんという無茶を……良かった」
「心配かけてごめんね、カチューシャ!」
シルヴィアはカチューシャの頬に唇を寄せ口付けると、そのまま頬を擦り合わせた。
暖かく柔い感触。
ぬふぅ、百合百合しよって!いいぞ、もっとやるにござる!
スパァン!
後頭部が引っ叩かれた。
「カチューシャ?」
「すみません、シルヴィアお嬢様、邪気が漏れていたもので」
某の意識はあれども動けぬ状態。シルヴィア殿がこの身体の主導権を握っているようにござる。
昨日の女神像からの光、祝福とやらで目覚めたのであろう。
「シルヴィアお嬢様、あの忍者とやらはどうされましたか?」
抱き合ったまま、視線を合わせて尋ねられる。
「おいしそうさん?わたしの中にいるよ」
……おいしそうさんではない!しかし、声にはならぬ。
「なぜあのような男を召喚したのです、それもお嬢様の身体に」
「知ってるみたいだけど、魔王が復活したの。女神様からそのお告げがあったんだけどね。
魔王と戦うのに、わたしはほら、運動神経壊滅的だから」




