十二之巻:聖女らしい活躍にござろう
翌朝、寝床の上で腹筋をしているとカチューシャがやってきた。
「お嬢様、ミルクをお持ちしました。昨晩は大活躍だったようですね」
某は寝床の上で彼女に向き直る。
「ふふん、魔族の四天王という大物を討伐し、怪我人も全員治して帰ったのだ。まさに聖女らしい活躍でござろう」
「ええ、旦那様より伺いました。
ドレスを脱ぎ捨て下着一枚の破廉恥な姿で、机の上で飛び跳ね大立ち回りなさり、ドヤ顔キメられたとか。まさに淑女の鑑ですわね」
ヤベえ、めっちゃ怒ってるでござる!
と言う訳でその日は朝からカチューシャとお袋殿からの説教地獄でござった。
その日の昼下がり、殿下がやってきて説教を止めてくれた。いや、殿下は素晴らしいお方でござる!
「昨日の舞踏会は半端なところで終わってしまい残念だった。もっとシルヴィアと踊っていたかったのに」
当家の応接間にて殿下は溜め息をつかれた。お疲れの表情にござる。
某や貴族達は帰されたが、王宮では後始末に大変であったであろう。寝る間も惜しみ働かれ……でもここには来たと。
「殿下、お疲れならば某との歓談よりもお休みなされよ。ただ遊びに来た訳ではありますまい。疾く本題を」
「いや、君に会えて疲れも癒えると言うものだ」
「目に隈を作って言う科白ではござらん」
某は手を差し伸べる。殿下は優しく手を握った。
む?
「手を握っても良いと言うことでは無いのかい?」
「いや、手などいつ握って頂いても構わぬでござるが……」
某は手にしていたものを殿下の手に置いた。
殿下はその親指の爪程の黒い丸薬を眺める。
「兵糧丸にござる」
「ヒョローガン」
「手早く栄養がとれ、聖女の力で疲労も抜けるでござる。カチューシャ、毒味を」
カチューシャは思いっきり顔を顰めて某の手から一粒兵糧丸を取り、口へと放り込んだ。
「……クソまずいですね。人間の食べ物とは思えません。ただ確かに疲労は抜けます」
と淡々と口にした。
殿下もそれを食し、うえっという表情をするも元気になったように見える。
「して、本題は」
殿下は人払いをすると、真面目な顔をして言った。
「魔王の封印を調査した」
ふむ、昨日ヒューイなる魔族が言っておったものか。
殿下によると王宮裏手の地下深くに封印があるらしい。
その封印は健在であり、魔王の遺骸も残っていたがそれがおかしい。封印故に魔王は生きて封じられていなくてはならぬと。
「空蝉にござるな。死骸を残し、魂は抜け出してどこぞに憑依し、復活したのであろう」