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 林の中にある小さな広場、溢れた水が下に零れ落ちるタイプの小さい噴水とベンチが2つある。あまり人が寄らない所なのかベンチに膝を抱えて小さく座っている女の子がいるだけだ、白い木綿のワンピースを着ている。辺りはとても静かで『ピチャンピチャン』と水の音がリズミカルに聞こえてくる。


「……また殴っちゃった……。あの人また気絶しちゃったかな、怪我させちゃったかな……」

 しおらしく『しゅん……』としているアイラ。

 悪気があって幸造がアイラの胸を触ったわけじゃない、のと同様に、アイラも危害を加えたくて幸造を殴ったわけではないのだ。


「私も最初は足がふわふわして歩けなかったもの」

 膝を抱えるのをやめて足をぱたぱたさせる。

「そうよ、わざと触ったんじゃないんだから殴るなんてやりすぎですよね。私から謝らなきゃ」

「ようし!」と勢いをつけて立ち上がるアイラ。

 右手だけ小さくガッツポーズしてから上に「えいっ!」と振り上げる。

「素直で真っ直ぐなところが私の長所なんですから!」

 悪い事をしたら謝るのが当然よね、と考えながらふと気付く。


「あの人……わざと触ったんじゃなくても、すぐに手を離さなかった……」

 今までは怪我をさせたかもしれないという罪悪感が勝っていたのか、単に思い出したくなかったのか。だが気付いてしまったのだ。

「手を離さなくて……そのまま胸を揉んでいた? ……胸を、揉まれた!?」

 アイラは『かーっ』と赤くなり、涙も出てきた。


 両腕で胸をかくしながら。

「誰にもそんなことさせなかったのに……胸を、も、揉まれるなんてー! しかもあんな……レンチマンに! うえ~ん、もうお嫁に行けないですー! はっ!? 行けないならレンチマンに責任を取ってもらってあの人のところに……いやいや、ダメよアイラ! 落ち着いてアイラ! 正気に戻って! そんなことするくらいなら死んだほうがマシです! ならいっそのことレンチマンを抹殺して全て無かったことにすればいいんじゃないかしら? そうよ、それが一番の解決方法です! 私ってば冴えてる~♪」

 自分の両手を結んでウキウキとダンス踊っている。


「もしもし、アイラさん」

「こんなことをしている場合じゃないです! そうと決まれば早速実行に移さなきゃね♪ あんなやつ闇に葬り去るなんて簡単です、私の長所は素直で真っ直ぐなストレートパンチなんですからっ、シュッシュッってね!」

 見た目は可愛いネコパンチ。だが音は『ブンブン』恐ろしい。


「おーい、アイラさーん!」

「なんですか? うるさきゃーーーーーーーーーー!」

 振り向くと幸造がいた。引きつった笑顔で。

「なんであなたがここにいるんですかー!」

「お前を探しに来たんだけど」

「今の……聞いてましたか?」

「う、うん」

「なんで聞いてるんですかー!」

「大声で独りごと言ってるのが悪い」

「気を使って鼓膜くらい破って下さい!」

「無茶言うな!」

「どのあたりから聞いてたんですか?」

「えっと……レンチマンを抹殺? ってあたりかな」

 嘘である、ほぼ全部聞いていた。前半は聞かなかった事にする方が良いと判断した。

「もっと早くに声を掛けて下さいー! 恥ずかしいですー!」

「だって怖いんだもん……抹殺するとか言ってるし」

「そ、それは、じょ、冗談に決まってます!」

「本当? ウキウキだったじゃん?」

 アイラはウキウキダンスを思い出し赤くなった。

「……冗談です」

「そっか、良かった~。あの、ゴメンね」

「う、うん」

 アイラは顔を伏せたまま、耳まで赤くして付け加えた。

「私も……殴ってゴメンなさい」

「うん」


 コロニー内の昼夜は中心部の擬似太陽によって管理されている。17時30分からゆっくり暗くなり始め18時30分に一番暗い状態になる。もちろん安全の為真っ暗では無く満月相当の月明かりに切り替わる。朝は5時30分に明るくなり始めて6時30分に最大明度となる。


 現時刻は17時30分、暗くなり始めていた。

 広場に設置されている電灯が心許なげに点灯する。


「暗くなってきますよ、帰りましょう?」

「そうだね」

 幸造はリチャードの事を思い出す。

「ちょっと待って、リチャードに電話しておこう」

 幸造は手を前に出して「ステータスオープン」と言いながらケータイを浮かび上がらせた。

「何ですかそれ?」

 不思議そうな顔でアイラに聞かれる。

「こうやって取り出すとなんか良いじゃない? 異世界っぽくてさ」

「そ、そうですか……良かったですね」

 残念な奴を見る目でアイラに言われる。


 リチャードに電話を掛けようとしていると広場の奥の方から、『ガササササササバキバキバキ』と大きな音が聞こえてきた。何か大きな動物が林の中をこちらに向かって動いて来ている。


「うぅ……何です?」

 アイラは身体を小さくして幸造の後ろに隠れる。

「リチャードだったりして」

「そんなわけないです!」

 背中を小突かれる。

 現代日本人である幸造に危機感は少ない。


 ガサガサガサッ!

 擬似太陽の光が弱々しくなっていくなか音の主がのそりと姿を現す。それは黒くヌメリとした外皮で赤い目をした大きなトカゲだった、尻尾の先まで入れると優に5メートルは超えている。黒い外皮は薄い油膜が張ってあり鈍く虹色に光を反射していた。新しいアスファルトに水を撒いて、そこに浮く油の様な感じだ。


「そんな……まさか……」

 幸造の後ろに隠れていたアイラが恐怖に震えだした。

EIGエイジ……」

「エイジ?」

 アイラの怖がり方が尋常ではない。それもそのはずだ人類はEIGによって絶滅の憂き目にあい、地球から追い出され逃げて来たのだ。このコロニーに住む人は少なからずEIGの脅威と恐怖を身に沁みて知っている。知らないのは幸造だけだろう。


 大トカゲがその巨体に似合わないジャンプ力を見せ、二人に向かって飛び掛ってきた。

 ドーーン! バキバキバキ!

読んで頂きありがとうございます。

頑張って更新していきますので宜しくお願いいたします。

感想等々ご自由にどうぞ。


だんだんと物語が動きだしてきますよ。

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