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幸造とアイラがひとしきり騒ぎ終わった頃。
「騒いだらお腹減ったろう? ご飯食べに行こう」
リチャードが2人に声を掛ける。
そう言われるとお腹の減り具合が気になってくるものである。2人共胃の辺りを摩る、アイラは小さく『クー』とお腹を鳴らせてしまい恥ずかしそうにモジモジする。
幸造は聞かなかったフリをして少し大きな声で「ラーメンがいいです、ラーメン!」とアイラのお腹の音をかき消す様に言った。
「お! いいね、ラーメン。そうしよう」
リチャードが賛同する。
「日本では仲の良い友人を『同じ釜のラーメンを食べる』って言うんだろ?」
「違うぞ!」(飯だぞって意味で。)
「違います!」(仲が良く無いって意味で。)
2人同時につっこむ。
「ははは、まいったなぁ」
勿論まいってなどいない。
リチャードは愛用の黒い中折れ帽を被り「さあ行こう」と玄関を開ける。まず幸造が先に出て、その後にアイラが続く。
玄関から一段降りた所が小さな庭になっているのだが、そこに出て幸造は気付く。広大なスペースの横と上にも建物が建っていて、360度、横からは垂直に上からは逆さまに建物が生えているのである。遠くに人がいるのも確認出きる。中心部分は芯が通っている様な形で、そこが太陽の代わりに光と熱を供給している。形状を例えるならカットしていないバウムクーヘンやトイレットペーパーに近い。所謂シリンダー型のスペースコロニー、オニールの島3号だ。違いは中心の芯と宇宙空間が見える窓が無いことである。
幸造は横や上に建物がある事に戸惑い、平行感覚を失ってしまった。宙を浮いている様な感覚になりよろけてしまう。物を掴もうと腕を伸ばす、右手に柔らかい物が触れてとっさに掴む。アイラのおっぱいだった。
アイラは一瞬何が起きたのか分からなかったがだんだん顔が紅潮し頭と目がぐるんぐるんしてきた。@_@ な感じだ。
『しまった!』と思ったが極上の触り心地に手が離れてくれない。『離さなきゃ』と『離したくない』という気持ちが入り混じり、アイラのおっぱいをモミモミしてしまう。……最高だ!
アイラはすでに何が起きているのか理解し怒りマックスだ。漫画なら『ゴゴゴゴゴッ』と飾り文字が書かれるだろう。
アイラ渾身の右ストレートが幸造の顔にヒットする直前、幸造は時間がゆっくりになる様な止まっている様な感覚を覚える、まるで走馬灯の様な。
だがそれも一瞬の事で、アイラの怒りの鉄拳は幸造の顔面に穿たれる。幸造は悲鳴を上げる間も無く3メートル程を吹き飛び、庭と歩道の境に立てられた木製のフェンスに激突し、それを破壊して歩道に転がって止まった……。
「ばかレンチマンー! 粗大ゴミー! 鉄クズー!」
そう叫びながらアイラは砂煙を上げながら走って行ってしまった。
「……まいったなぁ……」
惨劇を目の当たりにしたリチャードは呟いた。さすがに今回は笑顔が硬い。
「おーい、コウゾウー、生きてるかー?」
地面に転がっているボロ雑巾……もとい幸造に声を掛けるリチャード。
「はっ! ……一瞬天国に行ってた!」
バチッと目を開ける幸造。
「現実は地獄だけどな」リチャードが現実を思い出させる。
「ぎゃあー、痛てえぇぇぇええー!」
痛さが追いかけて来たようだ。
「でも、この右手だけは確実に天国だった!」
幸造の目には右手が光輝いて見えているようだ。
「うん、その右手のせいで今が地獄なんだけどな」リチャードが今を思い出させる。
「ぎゃはー! 痛てぇよおぉぉぉおおぉー!」
激痛からは逃げられないようだ。
「さてと、アイラちゃんを探しに行かないとな」
幸造を引き起こしながらリチャードが言う。
「……うん」
「へぇ、もしかしたら探すのを反対するんじゃないかと思ってたよ」
2人はアイラが走って行った方へ並んで歩き出す。
「まあムカつくけど、謝らなきゃいけないからな……」
「わっはっは! いいねコウゾウ、気に入ったよ」
幸造の肩に手を回し力強く揺さぶる。
「慣れるまで上は見ないようにしろよ、よろけるからな」
「先に言ってくれよそういうのは」
「俺の胸を触っても天国には行けんぞ」
「誰が触るか!」
「まいったなぁ」
この男がまいる事は一生無いのだろう。
読んで頂きありがとうございます。
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困ったらとりあえず殴らせる。