少女が女に変わる時
そして夏休みがやって来た。アレックスは例の男と遠出をするらしく夏休みの終わりまで帰ってこないとか。
私はバラド、スティードの三人で領都の北、カスカジーニ山に来ていた。師範代から、たまには道場の外で魔物を狩って実戦経験を積むように言われたのだ。
「ターブレ君! 右のやつをやって! アイリーンさんは左を!」
「おう! 任せろ!」
「ああ!」
スティードは魔物討伐の経験もあるようで指示が的確だ。やはりクタナツ者は同じ辺境でも、領都の者とは一味違うらしい。
「ケルピーだ! 水の魔法が厄介だから注意して! 僕が正面から行く! 二人は援護を!」
「「おう!」」
そうやって大小様々な魔物を狩り続け、時刻は昼。狩った魔物を解体して旨そうなやつから食べるのが狩りの醍醐味。特にオークの新鮮な内臓はすぐに傷むため狩りたてでないと旨くないらしい。
「おいアイリーン、そこを切ったら内容物が溢れちまうぞ。そしたら丸ごと食えなくなっちまうぜ。」
「あ、ああ。意外と難しいものだな。」
「アイリーンさん。魔物の解体は大事だよ。僕の先生の先生が解体をしっかり出来るようになれば、生きてる人間を斬るのも死んだ魔物を解体するのも変わりがなくなるって言ってたよ。」
「ほう。さすがはスティードの師筋だけある。剣の深淵が見えるかのようだ。」
「それによ、血抜きをしなきゃならねーが、無駄に血を流しすぎると他の魔物が寄ってくるしよ。手早くやんねーとな。」
バラドはゴツゴツと無骨な指をしているくせに……やけに器用に魔物を解体していく。あの指で、私の髪を……
「おい! バカ!」
なっ!? いきなりバラドが私を木に押し付けてきた。バラドの腕が私の顔の横に……そして奴の顔は、私の目の前……
「危なかったね。解体中だからってボケっとしてたらだめだよ。」
魔物だったのか……スティードがあっさりと斬り捨てている。バラドは、私を守ってくれたのか……
「何をボーっとしてんだよ。お前らしくもねーな。もう少しでソリチュードポイズンフログの毒をくらうとこだったぞ?」
「ああ、すまないバラド。助かった。」
「よし、じゃあお昼にしようか。アイリーンさん、この辺の肉を焼いてくれる? 僕とターブレ君で警戒しておくから。」
「分かった。任せてくれ。」
「おい、アイリーン。こりゃなんだ?」
「オークの肉だ。食え。こんがりと焼いてあるだろう。」
「アイリーンさん。これは食べられないよ。焼き過ぎだね。もしかして料理とかできない?」
「食事なんて腹が膨れればいいだろう。お前達が食べないなら私が食べる。」
「待てよ、俺も食べるぜ!」
「僕はいらないよ。他の肉を適当に焼いて食べるね。アイリーンさん、強くなりたいなら料理も頑張ろうね。」
アレックスは強くなるにはミニスカートを穿けと言う。
スティードは強くなるには料理を頑張れと言う。
なぜだ……稽古以外に己を強くするものがあるのか?
「くそぉマジぃな……」
「バラド、無理して食べる必要などないぞ。」
「うるせぇな。お前が焼いた肉だろうが。食いたくて食ってんだよ。クソっ、不味いぜ。」
バカなやつ……
狩った魔物はそれなりの値段で売れたので、夏休みの小遣いには不自由しないだろう。アレックスをベイルリパースに連れて行くには到底足りないが……
魔物を売った帰り道。私はバラドと二人で歩いていた。
「なあバラド。私がミニスカートを穿いたら、おかしいだろう?」
「……お前の口からミニスカートって言葉が出たことに驚いている。いや、ベルベッタ様のことを考えたら当然、か?」
「どうせ私に似合うはずもない。叔母様とは違うのだからな……」
「似合うかどうかの話をするなら、そりゃ似合うに決まってんだろ。言うまでもねー。」
「そ、そうか!」
「でもよぉ……」
「で、でも何だ!」
「うーん、困るんだよな……」
「何!? そうか……見苦しいものを見せられても、困るということか……」
「見たことねーけどよぉ。お前の足、きっときれいなんだろうぜ。それをよぉ……」
何だ? こいつは何を言っている?
「他の、他の奴らに見られたくねーんだよ!」
「何だそれは? もっと分かりやすく言ってくれ。恥ずかしい思いをするのは私なのだぞ?」
「クソ! ここまで言っても分からねーのか! この鈍感女! お前のことが好きだから! 誰にも見せたくねーって言ってんだよ! いい加減分かれや!」
隙? 好き? 私に隙がある? いや、私が好き? だめだ……分からん、好きとは何だ?
はっ、そうだ! バラドは確か……
「バラド、お前ソルダーヌが好きだったそうだな……」
「あ? 何でソルダーヌ様が出てくんだ? いくら俺でも身分の差ぐらい分かるぜ? 憧れと好きは違うぞ? お前だってベルベッタ様と結婚したいと思うか?」
「あ、ああ、なるほど、そういうものなのか……つまり何か? お前は私と結婚したいのか?」
「バ、バカやろう! いくら何でも話が飛びすぎだ! スティード達じゃあるまいし! で、でもよ、そうなったら……いいよな……」
ドクン……
今のは?
はっ、バラドに肩を掴まれている。私としたことがここまで接近を許すとは!
「聞かせてくれ。返事を。」
返事とは? 何と言えばいいんだ? 勝負ならば、受けて立つと答えればいいが……
バラドが触れてる肩が熱い。アレックスが言ったのはこのことか? この熱さこそが私に必要なのか? ならば……私は……
「行くぞ。付いて来い!」
「あ? この状態でどこに行くってんだ?」
「買い物だ。ミニスカートをな。喜べ。お前に奢らせてやる。そしてお前だけに見せてやる!」
「ア、アイリーン!」
アレックスの言う通りなら、これで私はまだ強くなれる。ミニスカートを穿いてバラドと稽古だ。夜だろうと知ったことか。今のこの感覚、この熱い感覚があるうちに朝まででもやってやる。これはきっと私の体をしっかりと動かしてくれるに違いない。
何とも不思議な熱があるものだ。でも、妙に私を高揚させてくれる。ふふ、バラドの奴、何を張り切って歩いているんだ。私に手を引かれるのが、そんなに嬉しいのか? 子供でもあるまいに。




