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少女に想いが芽生えたら

「アイリーン様ぁー!」

「すごい情報を手に入れましたぁ!」

「一聴の価値あり」


「何だ。私は忙しい。手短に頼む。」


「それがぁ騎士学校にぃバラデュール君っているじゃないですかぁ」

「そいつ何とソルダーヌ様に懸想してるらしいんですって!」

「恐るべき身の程知らず」


「バラドが? それが私に何か関係あるのか?」


「いーえぇもちろんあるわけないですわぁ」

「あのような身の程知らずがアイリーン様と釣り合うはずもないですしぃ」

「辺境伯のご令嬢は王族に嫁ぐことが相応しい」


「関係ない情報で私の手を止めたのか?」


「い、いえ、その、バラデュールめがアイリーン様に手を出しかねないって……」

「私達親衛隊は心配なんです! アイリーン様にはどこまでも孤高を貫いて欲しいのです」

「心配故の老婆心」


「ならもういいだろう。稽古の邪魔だ。私はバラドなど眼中にないのだから。」


「ですよねぇ」

「失礼しました」

「脳筋男はアイリーン様に釣り合わない」




辺境伯家の四女ソルダーヌ。彼女も私ですら知っている辺境の英雄の血を引く高貴な姫だ。今は王都にいるんだったか……

ふっ、また王都か……

私は王都からこの辺境に来たというのに。


スティードの女、サンドラは通称『辺境一の頭脳』だとか。

バラドの想い人、ソルダーヌは辺境で最も高貴な血を引く女。


私のような無骨な女は、いや私など女ですらない。櫛など要らない。

強くなる、そのために必要なのは……敵だ……櫛などではない。


アレックスは強い。

バラドもまあまあ強い。

スティードはもっと強い。

師範代は訳が分からないほど強い。

奴らを全員殺せば、私は叔母様に、勝てる……






私は女子寮の一室を訪ねる。他人の部屋を訪れるなんて初めて、だ……ノックをするんだったな……


「はい? あら、アイリーン。どうしたの?」


「アレックス。勝負をして欲しい。本試験ルールでだ。」


「いいわよ? でも先日の仕返しには遅いんじゃない?」


「いいから来い。本気で装備を固めてな。待っているぞ。」


「へえ……どうなっても知らないからね。」


「望むところだ……」


先日の試験と違い本試験ルールは開始こそ円の中だが、一度始まれば武器だろうが魔法だろうが何でもアリの勝負と化す。このルールでアレックスに勝てば……




「教官もいないことだし、このコインが落ちたら開始でいい?」


「ああ、来い!」


「あれ? 後ろ、スティード君が来てるわね。」


「なっ!?」


ス、スティードがこんなとこ……ぐうぁっ!


「アイリーン。勝負の前になぜよそ見なんかしてるの?」『落雷』


「ま、待て……ひきょ……」







「ひきょっ!」


はぁ……はぁはぁ……


「やっと起きたのね。じゃあ勝負は私の勝ち。今度夕食でも奢ってもらうわ。ベイルリパースでね。」


なっ!? 学生にそんな金があるわけ……いや、それよりも!


「アレックス! あの戦い方はなんだ! 開始前に卑怯ではないか!」


「アイリーン。もしあれが決闘なら、あなたはもう死んでいたのよ? 文句を言う間もなくね。そしてスティード君なら隙なんか見せなかっただろうし、私の最愛の男ならきっと褒めてくれるわ。そしてベルベッタ様なら、私に同じことをしたかも知れないわ。『愛しのカース君が来てるぞ』ってね。」


「ぐっ……その通りだ……」


本当にその通りだ。私は何を勘違いしていたのだ……


「でも良かったわ。あなたが言ったのが『勝負』で。『決闘』でなくて本当に……」


これが本物のクタナツの民……

今のアレックスからは、自分の血を吸ってる蚊を叩く程度の意識で私を殺す、覚悟を感じる。いや、蚊を叩くことを覚悟する者などいない。私は決闘のつもりだった。しかしアレックスに分かりやすく説明するために本試験ルールで勝負と伝えた。そんなことで私は命拾いをしたのか……


「ねぇアイリーン? 何を焦っているの? スティード君のことはどうにもならないけど、話してみて。女ってね、それだけで解決するのよ?」


何をバカなことを。ましてや私は女などではない。無駄だ……



そうか無駄なんだ……



どうせ無駄なら……






「アレックス……私には分からないんだ……スティードがサンドラからの手紙を嬉しそうに話した時、頭が真っ白になってしまった。バラドに髪を梳いてもらった時も何も考えられなかった。その時の私はまさしく隙だらけだっただろう。」


「あのね。それは女なら当たり前なのよ。私が好きなのはカースのみ。カースから『かわいいね』とか『大好きだよ』って言われると、それだけで顔は真っ赤になるし、体温だって上がる気がするわ。でもね、私だって女なんだからカース以外の男性にドキドキしてしまうことだってあるのよ?」


「そ、そうなのか。お前ほどの女でもか?」


「ええ、剣鬼様よ。知ってるでしょ? ベルベッタ様が見事手傷を負わせることに成功した方。あの方に傷を付けるなんてベルベッタ様ってやっぱりすごいのね。」


「知っている! 知っているとも! お前は剣鬼殿と知り合いなのか!」


「少しだけね。あの方からドレスを褒められた時にはね、カースが側にいたのに嬉しくて照れてしまって、大変だったわ。」


「そうか……それなら私はどうすればいいんだ?」


「さあ? 知らないわよ? 欲しい男がいるなら両方手に入れたらいいんじゃない? それこそサンドラちゃんのように。」


「私は……男が欲しいなどという感覚が分からない……」


「じゃあ一つだけ。あなたを熱くしてくれる男の子は誰? 宿題よ。今度聞かせてね。夏休みの後でもいいわ。」


「分かった。夜分にすまなかった。ありがとう。」


結局実のある話はできなかった。しかしなぜだ……妙に心が軽い気がする。今なら朝まで稽古ができそうだ。風呂に入ろうかと思っていたが、来週でいいだろう。

危うく性悪4人組とおバカ3人組の陰謀が成功してしまうところでした。

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