少女アイリーン・ド・アイシャブレ
今回の主役は不潔娘アイリーンです。
暖かく見守ってやってください。
我が名はアイリーン・ド・アイシャブレ。
強くなりたい、叔母のように……ただそれだけを望む、ただの女だ。
叔母であるベルベッタは凄い方だ。前々回の王国一武闘会、魔法ありの部で並み居る強豪を蹴散らして優勝を決めたほどだ。ローランド王国中から猛者が集まったのに、しかも当時まだ二十代前半だったにもかかわらず。
その上、その時の叔母の服装は王都に流行を生むまでになった。
私もそんな叔母に憧れ、槍と魔法を駆使して強くなるべく、王都を遠く離れ辺境フランティアの学校に入学した。辺境には強者がいくらでも存在するし、魔物も多い。強くなるには最高の環境だろう。
私が入学したのはフランティア魔法学校。入試の結果、席次は首席。高位の貴族は魔力が高いのが常識だが、私に敵う者はいなかった。我が家はしがない下級貴族でしかないのに。
それから二年間、私はずっと首席だった。そして三年生になり周りの状況も変わってくる。十二歳から十三歳になるのだから色気付くのも当然かも知れない。
「アイリーン、週末はケスラー子爵家でダンスパーティーがあるわよ。」
「行きましょうよ!」
「たまにはアイリーンもオシャレして行こう?」
「アンタって意外と人気があるのよ? 他所の学校の男の子にはね。」
「すまんな。週末はいつも通り道場だ。」
毎週末は王都発祥の槍の流派、破極流の道場に朝から夜中まで通っている。ダンスパーティーなど行く気はない。なのにこいつらはいつも何かある度に誘ってくる。毎回私の返事は同じなのに。平日だって夜遅くまで似たようなことをしているのだから。
「もったいないよねー。アイリーンってかわいい顔してるのに。」
「そうそう。いつも汚い格好してるけどさ。お風呂ぐらい入りなさいよ。」
「アレクサンドリーネ様を見習ったら?」
「服だってたまには着替えなさいよね。」
「週に一回は入ってるし、その時に着替えている。では私は行く。昼休みも残り三十分だからな。」
アレなんとかって誰だ? こいつらの名前すら覚えてないのに。私より強い人間なら喜んで見習いたいのだが。魔法学校に教官や首席の先輩以外でそんな人間はいない。
そして昼休みの残り時間。私は校庭で槍を振りながら魔法を使う。槍だけではダメだ。魔法だけでもダメだ。両方を同時に使いこなせるようにならなければ……
先ほどから私を睨みながら魔法の稽古をしている女がいるようだが、用でもあるのか? 豪奢な金髪だな。先ほどの子達も私ではなくあのような者を誘えばよかろうに。
そして週末。私はいつも通り破極流の道場に向かう。
「アイリーンさんおはよう。今日は負けないよ。」
「おおスティード。私も負けないさ。」
「おうアイリーン。早いな。ガンガンやるぜ!」
「バラドの方が早いではないか。さあ準備運動をしよう。」
この準備運動というやつが大事らしい。当初は時間の無駄にしか思えなかったものだが、スティードは妙なことを知っているものだ。
この二人の男。私と歳は同じだが学校も出身も違う。
一人はスティード。スティード・ド・メイヨール。フランティアで最も辺境に位置する危険な街、クタナツ出身。私より少し高い背、強靭な足腰、厚い胸板、強い男だ。
もう一人はバラド。ターブレ・ド・バラデュール。フランティア領都出身。スティードには及ばないもののそれなりに強い。スティードよりだいぶ大きいクセに私と同程度の腕だ。
こんな週末の朝から道場に来るなんて私達ぐらいだろう。
そろそろ昼だな。腹が減ってきたか。
「アイリーン、昼飯行かないか?」
「ああ、行こう。私も腹が空いている。スティードはどうする?」
「僕はこのまま帰るよ。昼から別の用があるんだ。」
「そうか。明日も来るのか?」
「うん。明日はいつも通り夜までいるよ。」
「おう、じゃあまた明日な。行くかアイリーン。」
「ああ、行こう。ではなスティード。」
「お先に。ターブレ君もアイリーンさんも頑張ってね。」
スティードの奴……一体何の用で……
アイツだってフランティア中の子供で一番の剣の使い手。それなのに週末だけ破極流道場で槍の稽古をするほどの向上心を持っている。スティード……
「おい、何ボーッとしてんだよ。行くぜ。」
「あ、ああ。いつも奢ってもらってすまんな。」
「なーに、お前だって女だからよ。」
ふ、私が女。強くなることしか興味がなく、髪に櫛すら通さない私が。そもそも櫛など持ってもいない。バカな男だ。
昼からは他の人間、先輩方や師範代もやって来る。こんな時に帰るとは、スティードもバカな奴だ。
「アイリーン! 引きが遅い! 槍を掴まれるぞ!」
「押忍!」
「アイリーン! 腰が安定してない! 外を十周走ってこい!」
「押忍!」
師範代の稽古は厳しい。叔母ベルベッタから私のことを頼まれているらしい。ありがたいものだ。私などに時間を割いてくださるとは。
「おうアイリーン。俺も走ることになっちまったぜ。負けねぇぞ。」
「ふん、私に勝てるか? 残り五周、勝負だ。」
「はぁ、はぁ、私の勝ちだな。夕食はお前の奢りだ。」
「ふぅふぅ、はぁ、もちろん奢るさ。何が食べたい?」
「任せる。強くなるものを食べさせてくれ。」
「あ、ああ任せろ。」
来週は実技のテストがあるからな。気合いを入れておかねば。首席の座などはどうでもいいが、私は……勝たねばならない。




