俺の彼女はヤキモチ妬き?
「まーくんジュース持ってきて~」
まーくんと呼ばれた俺は、気力無さげにソファーに寝転がっている彼女を冷ややかな目で見る。
「えー、自分で取りに行けよー」
のんびり屋で甘えん坊な彼女のことだ。何としても俺に行かせる気だろうが、一応反論してみる。
「ねーお願い~。今度何でも言うこと聞くから~」
「はいはい、分かったよ……。ちょっと待ってて」
こうしていつも、駄々をこねる彼女に対してすぐ折れてしまう俺であった。
しかも、彼女が「何でも言うこと聞く」と言って聞いてくれた試しはない。まぁ、別にいいんだけどね。
俺はリビングからキッチンにある冷蔵庫に向かう。その時、ブー、ブー……と、どこかで携帯のバイブ音がするのが聞こえた。
「電話か?」
「んー、そうみたい。まーくんの携帯みたいだよー。どれどれ……」
彼女はそういうと、気だるげに起き上がり、ソファーのすぐそばにあるテーブルの上にあった俺の携帯を手に取る。
「あ、こら。勝手に見るなよ」
「いいじゃん別にー。お、璃子さんっていう人からだってー」
「あー、すまん。ジュース持ってくるの、電話の後でいいか?」
「仕方ないなー」
リビングに戻り、携帯を返してもらって電話に出る。
「あーはい、了解です。お疲れ様でしたー」
数分で電話は終わり、携帯を机の上に戻す。
「それじゃ、ジュース取ってくるよ」
「うんー」
俺は再度冷蔵庫に向かい、缶ジュースを二本手に取る。
「はい、ジュースをお持ちしましたよお嬢様」
「うむ、苦しゅうないぞ」
ふざけたやり取りをしながら缶ジュース一本を渡し、それぞれソファーに座り、ふたを開けて飲み始めた。
「ぷはー、このジュースは誠に美味しいなー。まーくんよ」
「さようでございますか」
まだこのくだりを続ける彼女に適当な返事をしながら、俺はまったりとジュースを飲み進める。
「ねーねーまーくん」
「なんだ?」
しばらくまったりしていると、彼女に話しかけられた。さすがにもう飽きたのか、普通の話し方に戻っている。
「さっきの電話、女の人からだよねー?」
「え、うんそうだよ」
「仕事の人?」
「うん。仕事先の上司だけど、どうかした?」
どこか気になるところでもあったのだろうか?
「んーん、何でもないよ~」
「はぁ? 何だよ急に?」
彼女の意図が知ろうと俺は、彼女の様子をうかがう。しかし本人は、本当に何でもないような様子でジュースを飲み続けていた。
なんだ、女の人かって聞くってことは、もしかして嫉妬か? だとしたら反応が薄すぎるな。そもそもこいつ、俺に嫉妬なんかするのか?
気になった俺は、直接聞いてみることにした。少し恥ずかしいが。
「なぁ、お前って嫉妬とかするのか?」
「んー? 突然だねー。もしかして心配なのー?」
彼女にニヤニヤされ、恥ずかしさが込み上げてきたが、なんとか表情にでないように取り繕う。まぁ普通こんな質問恥ずかしくて言えないし、からかわれても仕方がない。
「そんなんじゃないって。単純に気になっただけだよ」
「そうなの? んーヤキモチかー。しないことはないかな~」
「え、マジで!?」
こいつでも嫉妬とかするのか!?
「うんー。まじまじ」
「いや、でも妬いてるお前なんて見た覚えないぞ? 一体いつだ?」
「んー最近はこれといってないけど。付き合う前、高校のときは結構あったかなー」
「そうなのか!?」
付き合う前か。それなら見覚えがなくても仕方がない。
「うん、ちょくちょくあったよ。ヤキモチなんて」
「へぇ、お前がか……。ちなみに、どういうときに妬くんだ?」
普段そんな様子を見せない彼女だが、果たしてどんな時に妬いたりするのだろうか。こういうことを聞くのも変だと思ったが、気になってしょうがなかった。
「えー、ちょっと恥ずかしいけど。まーくんが女の子と仲良くしてたり、手とか腕とか触られてたりしてるのが見えると、いいなー、羨ましいなーって思ってた」
「っ……! なんだよそれ……」
恥ずかしさと愛しさが一気に俺を襲う。こいつ可愛すぎるだろ……!
「えへへ、やっぱり恥ずかしいなー」
そう言う彼女は珍しく、頬を赤く染めながら微笑んでいた。そのあまりの愛くるさに、動悸が治まらなくなる。顔も多分真っ赤になっているだろう。
「そっか……。なんかありがとな」
無理矢理普段通りに話そうとするも、どうしても照れ隠しをしきれない。
「うん……。」
何だろう。むずむずするような、心地いいような。そんな雰囲気だ。これが俗に言うところの「良い感じ」なのだろうか?
「ねぇまーくん、私がヤキモチ妬くの、意外だったー?」
「あーうん、そうだな。だけど嬉しかったよ、ちゃんと妬いてくれるんだって思って」
「そ、そうなんだ……。今だから言うけど、大変だったんだよー? まーくん結構モテるから、ずっと妬きっぱなしだったんだから」
「っ……! そっか……。それはごめん、って言えばいいのかな?」
「うん、じゃあこれから私を不安にさせないように、愛してるのキスしてよ。そしたら許してあげる」
「な、なんだよそれ!」
「ねー、お願い?」
「う……。分かったよ。ったく、やっぱりお前は甘えん坊だな」
そうして俺たちは互いを見つめあう。彼女が目を瞑った。俺はその艶やかな唇に向かって顔を近づけていく。
そしてついに、その二つの唇は重なった。
「んっ……ちゅっ……」
俺たちのキスはだんだん濃厚になっていき、さらに舌を交わらせる。彼女が好きだという気持ちが溢れ、いつもより激しくしてしまう。
「んんっ……! あぅ……んぅ、ちゅっ」
彼女から、いやらしい声が漏れる。それは脳がとろけそうになるくらい、魅力的だった。心が幸福感に支配される。
「んっ……あふぅ、ちゅっ…………、ぷはぁ……」
唾液の線を引きながら唇を離す。キスが終わっても幸せの余韻に浸りながら、俺たちはまた見つめあった。
「……これで許してくれるか?」
「……んー、まだ不安だなー。続きもしてくれたら許してあげようかな?」
「続きもって……。はぁ、分かったよ……」
こうして俺たちは、朝まで楽しみましたとさ。もしかしたら、いやもしかしなくても、端からみれば俺たちは「バカップル」と呼ばれるものなのかもしれない。
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