第10話 強さへの理由
初めての一発成功でテンションが上がったまま、今度は【ダークウェア】を応用した変身にチャレンジする。
目を閉じ、エマやセイバ、父や母の顔を思い浮かべる。だか、どうしても変身できなかった。
「成功は長続きせんか……」
少し落胆する。
「私ですら、マリアさんくらいにしか変身できませんから…意外と難しいんですよね、他人の顔を正確に思い浮かべるのって」
親の顔より見た顔は流石にないしな、それが厳しいとなると……
考え込みながらエマの顔をじっと見つめる。よく見ると、いや見なくてもそうだが、エマはかなり可愛い方だろう。ぱっちりとした優しい目に、肌は美白で顔も小さい。それに注視すると、普段何気なく見てた顔がよくわかるもんだな。
「……」
これ、アイドルとか女優やったら売れるな、この世界にそういうのあったら、俺は自信を持って売り出す。
「……あのー、そうやってマジマジと見られると恥ずかしいんですが」
エマは顔を赤らめ、背ける。
「動くなッ!!!」
「は、はい!」
背けた顔が反射的に正面へ戻る。そして鼻先が当たるぐらいまで、顔を近づける。
「あ、あの、今度は、近すぎです……」
見つめ合う2人。耳から聞こえる風邪の音と、体の内側から聞こえてくる鼓動の音が、やけに大きく聞こえる。思わずエマは目をつむった。
「おいエマ、開けてくれないと顔がよくわからないだろう」
「そ、そう言われても……うわ!?」
目を開けると自分の顔が目の前にあり、エマは仰け反る。
「お、できた?」
顔をペタペタと触る。エマの姿になれたみたいだ。肌がツルツルだなぁ、てか感触も再現されてるのか。
「実物見ながらなら、できるなこれ」
「やられるほうは色々と心臓に悪いですよ!
それに、私に変身したら追われるだけですよ……」
「要課題かぁ、使えたら便利そうなんだがなぁ」
逃げるのに。後、楽しむのに。
「とりあえず、今は光の騎士団方達にバレないのが1番ですから、街からいなくなるまで大人しくしてましょう」
「あぁ、なるべく俺も接触は控えるよ」
そして2人は街へと帰っていった。
〜〜〜〜〜
「と言ったものの……」
街へ帰り、宿屋の廊下でセイバと会って、結局空き地で稽古をすることになった。しかし今回は打ち合うことはせず、素振りを一緒に行っていた。
「無駄のない攻撃をするには、正しい型を体に覚え込ませるのが1番だ」
凛とした表情で軽く汗が流れるセイバ。
「ぜぇ、そうなんですか、ハァ」
息絶えそうな顔で水をぶっかけられたぐらい汗が吹き出る俺。
「む、.一旦休憩しよう。ちゃんと水分はとったほうがいい」
そう言ってセイバはセンに水筒を渡す。それを一気に飲み干した。
よかった、死ぬかと思った。
「辛くはないだろうか?」
「えっ、いやまぁ俺は全然体力ないもんで……」
「そうか。どうも私はやりすぎてしまい、他の人はついていけないことが多いのだ」
あ、よかった。俺だけじゃないのか。
「そりゃあセイバさん半端ないから……どうやったらそんな強くなったんです?」
「目的がある……魔王や魔族、闇の力を持つ者の根絶だ。そのために剣を振るう」
やば、対象に入ってる。
「その理由を聞いても?」
「私が住んでた村は、生まれつき光の力を持つ一族だった。それを目につけられ、魔王の大軍に襲われたのだ。当時、その村で1番幼かった私は優先的に逃がされ、なんとか生き延びた。しかし、私以外は助からなかったのだ」
セイバは悲しげな目をして話を続ける。
「その話を聞ききつけた先代の騎士団長が、私の身を引き取り、鍛えあげてくれた。騎士団の中には友もできた…だが今はもういない。
先代騎士団長も1年前、魔王の四天王の1人と相討ち、命を落とした。大切な人達の命を奪われ、私怨もある。そして何より友と師が目指した平和を叶えたい。だから私は、生ある限り強くなり、魔を討たねばならない」
凛々しく、力強く、夜風に髪を揺らせながらセイバは語った。