第8話 闇の力の美談
「ふぅ、それじゃお昼休憩にしましょう」
森林地帯にて、午前中の訓練を終え、ドサッと座り込む。昨日の疲れもあり、なかなか応える。全身筋肉痛だ。
ただ、訓練の成果もあり、手のひらで同時に1ずつ【黒弾】を出せるようになった。【バスターク】も適切にだが、使えば使うほど平常時の筋力や体力も上がっていくとのこと。いつの日か、俺もセイバぐらい動ける日がくるのかもしれん。
バックから軽食を取り出し、食べ始める。ギルド集会所に戻って食べないのは、さっきみたいに鉢合わせるのを避けるためだ。
にしても、エマが変身した師匠の姿、綺麗だったなぁ。どんな人なんだろうか……命の恩人って言ってたし、ちょっと聞いてみよう。
「そういや、エマの師匠のことなんだけどさ」
「……また見た目のことですか?」
セクハラ発言する上司に、釘を刺す目をしている。
「違うって、エマと1番最初に会ったときに、闇の力で命を救われたって言ってたじゃん?で、それで助けてくれたってのが、変身したあのお姉さんの姿なんだろ? エピソードが気になってな……悪い奴らに襲われていたのを颯爽と助けたとか?」
「いえ、でも命を救われたというのは言葉通りです。私は心臓の病気だったんですよ。ベッドの上でしか生活できなくて、身体はどんどん衰弱し、10歳も生きられないと医者に宣告されていたんです」
エマにそんな過去が……
「そんな私を助けてくれたのが、お見せした姿…マリアさんなんです。闇の力で、創造と再生の魔法を駆使し、私に新しい心臓を与えてくれました。それからは毎日楽しくて、普通に生きられることが幸せで仕方なかった…だから私はこの力で、多くの人を助けたい」
思ってたよりもいい話で、涙腺が緩む。マリアさん……お宅の子はスクスクと育ってますよ。
「グスッ……でもそうなると、なんでエマは命を救うというより、初心者冒険者のサポートすることにしたんだ?」
多くの命を助けられ、闇の力を貢献するなら、そういう医者的なポジションの方がウケもいいと思うのだが。
「それは、闇の力を使う者、治された者は、定期的に闇の力を使わないと心身に不調をきたします。そのため、無理矢理に闇の力を使わせることになってしまうんです。私は構わなかったんですが、考えは人それぞれです。だから、どうしてもっ! という時以外は闇の力で治したくないんです」
永続的に闇の力を使うのを強制させるってことか。なるほどねぇ、ちゃんと考えて……ちょっと待てよ?
「なぁ、それって俺も使ってないと体調崩すのか?」
「えぇ。あ、あれ?最初に説明していませんでした?……」
いや、聞いてないっす。
「最初の勧誘に漏れがありますよ、エセさん。訴えられますよ」
まぁ【エニウェイドア】とか老後に便利そうだからいいけどさ。
「そんで結局、そのマリアさんってのは今どこにいるんだ?」
ごめん、これが1番の目的。頼む!生きていてくれ!
「連絡してるわけじゃないですが……今もきっとどこかで旅をしていると思いますよ。私も出会えたのは偶然なので」
いよっし!望みはある!
「そんじゃ、いつか会ったときに、あなたが救った子のおかげで、人生助かりましたと言えるよう、修行に励みますか!」
「ふふっ期待していますね!」