第7話 ひょっこり騎士団長と少女の恩人
もうダメだ、このまま話を変えるのはあまりにも不自然だ。ごめんな、エマ。師匠不孝な俺を許してくれ……
「いえ、時間稼ぎありがとうございます」
後ろを振り返ると、エマはフードを深く被り、影で顔は見えない。だが、違和感を覚える。まず、背が伸び、胸がでかくなっていて、ボディラインが強調されている。それに髪の色が変わっていた。
エマはセイバの前に立ち、フードを取る。露わになったのは、エマの顔ではなかった。淡い栗色のロングヘアーに、色っぽい目をし、唇の左下にホクロがある、超絶美女。
あ、いい! 例えるなら理想の保健室の先生!
「お話は聞いているわ、エセ・マルエツです。よろしくね」
にっこりと笑いかける。口調は違うが、声自体はエマだ。見た目だけを変える魔法みたいだ。
「私の名はセイバ・エンリヒトだ。そなたがあのタイラントウルフキングを倒した者か。是非、手合わせを願いたいものだ。今日、時間があるなら頼みたい」
正体がバレなくても、バトりたいようです。
「あら、嬉しいわ。でも、残念。最近は忙しいの。それに、この子は右も左もわからないくらいだから、立派に育てるのが最優先なの」
そう言うと俺の頭にポンッと手を置き、思わずドキッとする。こう……グッとくる。
「む、それは残念だ。機会があれば是非」
「えぇ。それじゃまたね」
握手を交わし、エマとセンはギルド集会所から離れる。
「おっ何だ友達〜?セイバが団員以外と喋ってるなんて珍しいな〜」
セイバの元に声がかかる。
「いえ、違います団長。あのタイラントウルフキングを倒した者達です。1人は宿の隣人で、一度稽古を」
「…隣人の子は、それって友達っていうんじゃない〜? ま、あまり無理はさせないようにね〜。君結構鬼だし」
「……友、ですか。気をつけます。今度は、倒れられないように」
「遅かったか〜」
〜〜〜〜〜
「こ、ここまでくれば安全ですね」
草原地帯まで離れ、元の姿に戻るエマ。
「ふぃ〜焦ったー。しっかし、変身までできるとは。それも何かの技なのか?」
「【ダークウェア】の応用です。全身に纏う闇の膜を変化させ、見た目を変えるんです。……ああいう時に便利です」
「ほ〜。いや〜にしても変身したあの姿、色気ムンッムンッなお姉さん!隣にいるだけでドキドキしてしまったよ」
「……ふーん、私はそうじゃないと言うんですか?」
少し拗ねた風に言う。
「いや、エマは可愛い系で、あのお姉さんはセクシー系、いわばエロスだ!」
「私の師であり、命の恩人である姿に向かって、変なことを言わないでくださいっ!」
目を細め、頰を赤らめて怒鳴る。
えっあの人実在すんの? 会いてぇ! いや、その前に……
「……その命の恩人とやらの姿を、隠れ蓑にするエマもどうかと思うぞ?」
「き、緊急事態でしたから!それに、よく見たことがある姿じゃないとできないんです。より精巧なイメージで作らないといけないので」
「じゃあ今日はそれも教えてほしいな。俺もセイバにバレたら使いたいし」
これって女になっても、スタイル変わるからひょっとして……いや、今は考えないでおこう。
「うーん、時間があればですね」
「オーケー、エセマル!今日の目的地は?」
検索をかけるみたいに言ったら、エマに極小サイズの【黒弾】をぶち当てられ、吹っ飛んだ。