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第二章 約束の証2

 感想は、はっきり言えば気味が悪いの一言に尽きるだろう。

 さっきまでの明るさが恋しくなるほど内部は薄暗く、神経が研ぎ澄まされていくのが分かる。

 自分が歩く音、森の揺れるざわめき、木々の間を通って流れる風、全てに反応してしまう。

「これは…間違えたかな」

 溜め息まじりの後悔を垂れ流しつつ、少しでも収穫がないか辺りを探っていく。


 森へ入って十分、手に入れた情報といえばこの世界の木と元の世界の木、どちらも姿、形、葉の状態ですら同じ種類ではないか――ということだけ。

 目当ての食物、ましてや動物一匹でてくる様子も無い。

「こんな森の中で動物がいないってどういうことだ?」

 本来ならば鳥の鳴き声、虫の耳障りな羽音があってもおかしくは無いはず。

 しかしどういったことか何一ついる気配がない。

 時々立ち止まり周囲の物音に耳を傾けるが、聞こえるのは森が奏でる自然の音だけ、それ以外は何も聞こえない。


「……っ!」

 不意に何かが足元から這い上がってくる不快な感覚が一気に脳内に伝達され、思わず足を払う。

 見れば蜘蛛――の様な、これまた不快な物体が落ち葉の下へ入り込むのが一瞬の内ではあったが見ることが出来た。


「なんだよ…気持ちわるいな」

 正直、あの感覚は無意味に残っているもので、鳥肌に似た震えが止まらない。

 足元から膝にかけて後味悪い感覚が残り、歩く気力を根こそぎ奪っていった蜘蛛もどきに恨みを持ちつつ、視線を再び元に戻す。


「まったく、早いとこ目星を付けて、ここから出な……い、と」


 確かに、一人森の中でいれば寂しさも感じる訳であって、生き物が居れば何か気でも紛らわせると思っていたのは間違いない。

 もっといえば、生物がいるということは必然的に食べるものがあるという答えに結びつくわけで、生き物を探していたことも間違いない。


 だが――――

 視線を戻した先、もう目と鼻の先とも言える距離にいたのは紛れも無い――バケモノだった。


 姿は蜘蛛、だが大きさが桁違いで、人間よりも遥かに大きい。

 想像するのも嫌だが、考えても見てほしい。

 普通に見ても気味が悪いと感じる蜘蛛が人間の二倍ほどの大きさでこちらを見ている様子を。

 体には見るだけで鳥肌モノの体毛がびっしりと生え、足は大の大人ほどの大きさ、オマケに口から飛び出している鋭利な刃物は間違いなく獲物を捕食するための物だろう。


「ま、マジかよ……」


 自分の頭の中が経験したことないくらいの危険信号を放って今すぐ逃げるようにと各方面に指令を出しているものの、身体が凍った様に動かない――いや、動かせない。

 熊なんて生易しいものでは無い。

 今、目の前で食物連鎖の頂点がひっくり返されようとしている。


 しかも、追い討ちをかけるように後方から何かが近づいてくる。


「――――なっ」

 目を向けると同種族だろうか、無数の蜘蛛がゆっくりとこちらに迫ってくる。

 気がつけば囲まれる状態へとなっていた。


「おいおい……嘘だろっ!」


 どうしようもない不安と、感じたことのない恐怖に今にも身体が押しつぶされそうになる。


 ―死―


 ある意味一番型に当てはまる言葉では無いだろうか?

 このままいけば待っているのは()あるのみだと改めて感じる。

 きっと、抵抗しても力で敵うはずがない。

 降参という行為が通じる相手でないのも見れば分かる。


 だが、()()()()()()


 訳の分からない世界に飛ばされ、何をした訳でもなく無意味に殺される−−そんなことがあってたまるものか。


「――るな…」

 湧き上がってくるのは怒り、誰に対してでは無い自分自身

「――けるな……」

 それは一気に駆け上っていき、全身の血を沸騰させる。


「ふざけるなっっ!!」

 そう−−−−口に出した瞬間、バケモノ達は一気に自分自身に向け飛びかかってくる。

 毒を垂らし、殺意を剥き出し、牙を喉元へ伸ばした刹那――――




 目を開けた時、目の前に広がっていたのは天国でも地獄でもなく、バケモノの死体と、そのバケモノから流れ出る血に似た体液の水溜りだった。


「な、なんだ…これ――っうぅ」

 自分の体には返り血のようにベッタリと衣服を汚す体液が流れており、その臭いに思わず鼻を押さえる。


「無事?」

 急にどこからか響く自分以外の声に周囲を見回す。

「ここよ、コ・コ」

 声は自分の右斜め後方、悠々とそびえる木の上からだった。

 枝に立ち、颯爽と降りてくる姿は薄暗い森の中では見当もつかなかったが、近くに来てその輪郭が木漏れ日に映り、徐々にはっきりと見えてくる。


 それは、見たことのある人物

 黒髪を後ろでくくり額にはゴーグルを掛け、軍服と制服を合わせた様に見える格好をしていたが、顔立ちは鮮明に覚えている。

 特徴らしい特徴もない為か、あるいはトップの反響が良すぎた為か、あまり周囲から良い様に呼ばれてはいなかったものの、品のある顔立ちに一部では人気があった人物がそこには居た。


 確か名前は――


「私は、マイ――サクラ・マイよ」

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