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第二章 約束の証9

 農園場への道のりはそこまで時間を要さない。

 村からは四、五十メートル位離れており、近くには川が流れてそれを畑や田に引いている。

 前に一度だけ入ったことがあるがそこまで大掛かりなものではなく、広さで言えば五十メートルプールがある感じだろうか。

 すぐ側には小道もあるがこちらは先も見えない暗い道であまり進む気にはなれない。


  そして農園場のすぐ隣にある小屋が家畜を育てている場所であり、リムの村に毎朝響く音はここから発せられているというから驚きだ。


  しかし、今日はこの前と様子がまるで違う。


 今は朝の十時を少し過ぎたころだが動物たちの姿が見えない。

 少し前に見たときは、牛によく似た()()()()と呼ばれる動物が農園場の近くまで出てきているのだが、この日は一匹も見当たらない。


「いつもいるわけじゃないのか……?」


 入り口近くに来た時、異変はすぐに気づいた――――家畜小屋に大勢の人だかりが出来ていたからだ。



 その中の一人がこちらに気付いたようで、大きく手招きをしているところに駆け足で近づいてみれば、おやっさんを含めリムの村をまとめている大人たちが揃っていた。


「きたか」

「いったい何があったんです?」


 おやっさんは何も言わず、まずは見てみろと言わんばかりに小屋の中を指さす。

 促されるまま中の様子を確認するために目を向けると、おやっさんの言っていた理由がそこに広がっていた。


 今までに小屋の中を見たのは三人娘に散歩がてら、半ば強引に連れてこられた事が一度だけであり、毎朝起こされるハスキ鳥の顔だけでも――――と入り口から少し覗いただけだった。


 内部の様子は詳しくわからないが、簡潔に例えてしまうと()()()といったところだろうか。

 とにかく目に付く箇所全てに鮮血が飛び散っており、恐らくはモウカウの胴体だったであろう肉塊があちらこちらに転がっていて気味の悪さと激しい不快感に思わず腹部からこみ上げてくるものを感じずにはいられなかったが、これ以上見ると本当にぶちまけてしまいそうで、目を背ける。


「朝からずいぶんと…………いい眠気覚ましになりましたよ」


 おやっさんに向き直り、ありったけの恨みを込めた皮肉をぶつける。


「ああ、結構派手にやられてな…今までに襲われた事はあっても全滅するなんてことは一度だって無いんだからかなりショックだな」


「いや……そうじゃなくて」


 正直どんな理由があってこんなものを見せたのか、意味が分からない。

 第一に、集まっている人物はほとんどが大人であって、そもそも俺がいること自体場違いだと思うが誰一人として見向きもせずに各々が連れてきたであろう人物と話し合っている。


「で? 俺に頼みって何ですか? ()()だけって感じでは無いと思いますけど」


 名指しで呼び寄せてきた以上、いつもの軽い冗談を言うためにとは思えない。

 それはいつものおやっさんとは違う村長として物々しい顔つきを見ればすぐに分かることだ。


「あぁ…………呼んだのはこれのことなんだ」


 そう言って渡してきたのは手のひらサイズの紙切で、かなり乱暴に破り取ったのか切り口は斜めになっており、紙自体もボロボロの状態だった。


「それを届けてきたのは文鳥(ふみどり)って言うんだが……こいつがかなりボロボロな状態で止まり木にに一匹いてな、俺が受け取った瞬間チカラ尽きちまった」


「…………」

 紙切れに書いてある内容は大部分が欠けており、特に後半の重要な部分が切れていることから、恐らく何かに襲われたときに破けてしまったと思われる。


「でも…………これが俺と何の関係が?」


「実はもう一枚あるんだ」


 そうして渡されたのは血に汚れた白い紙で、さっきの物とは違い感触が少し異なる。

 例えるならば写真のような――――


「これ…………」

「あぁ、これが呼んだ理由だ」


 この紙の中に写されているモノ、血が付いているところは染み付いてよく見えないがさっきの紙切れとは違い、伝えようとしている事がはっきりと残っていた。


 そこにあったのは――――俺自身だった。


「はっきりとは言えねぇ…………だが、何かがお前を狙っていることはこの様子をみりゃあ分かる」


 そう、誰が見ても俺が写っていることに目を向けるだろう。

 だが――――もっとこの場に写ってはいけないものがあることに俺は気づいてしまった。



 おやっさんは何か喋っているようだが、俺には全く耳に入ってこない。

 それは焦りと不安、そして最悪の結末というイメージが頭の中で勢いよく形作られているからに他ならない。


 なら――取るべき行動は限られている。


「お、おいっ!」


 気づいた時にはもう体は走り出しており、一気に農園場の入り口を抜けて村の方へ向かう。

 走っているのに感覚としてかなり遅く感じるのは不安を抱えているからなのか、それとも恐れるあまりに足が自然と拒否反応を示しているからなのかは分からないが、今は一分一秒でも時間が惜しい。


  自分だけなら、あの写真にいるのが自分だけならこんなには焦ることなんかはない。


「たのむっ…………無事にいてくれっ!!」


 願うのは俺が汗を垂れ流し、息を切らし、またあの朝のように馬鹿にされる光景。

 



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