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恋の歌

 

 はい、次、君の番


 大学の新歓で沖縄料理屋に連れてかれた。

 サークルと言っても沖縄が好きな人集まれ的な軽いサークル。

 謳い文句は、年に一回沖縄旅行に行ける!


 おばあがウチナンチュだった私は小学校の6年間、夏休みの間中沖縄にずっと居て、おばあとずっと一緒にいた。

 中学高校と部活が忙しくてお盆ぐらいしか行かなくなった私は、内心淋しかったのだろう。

 初めての街、初めての一人暮らし、大学生活のスタートを切る時、サークルの勧誘で沖縄の文字を見た時、うもすもなく入ってしまった。


 自己紹介の時、沖縄の何が好き、というお題が出ていて、他の人が、海、酒、と言うなか、三線が好きだ、と言った。


 誰かが覚えていたのだろう。

 宴もたけなわの所で三線が回ってきた。


 下手なので、と固辞したが、新人は免れないとかなんとか持たされる。


 踊れるような曲は弾けないので、と言うと、お店の人が気を利かせて店の音楽のボリュームを下げてくれた。


 ああ、そういう意味で言った訳ではないのに……


 引き下がれない雰囲気に、

 下手です、ゆっくりなのしか弾けません、盛り下がりますから、と散々前置きをする。


 わかった、わかった、大丈夫、大丈夫、という生温かい視線を受けて、一曲だけ、と調弦を始めた。


 男弦、女弦、中弦とゆっくり合わせていく。いつの間にか店内の音楽は消えていた。



 私は目を瞑る。

 おばあの様に、肩の力を抜いて、伴奏を爪弾いた。


 上に下にと流れる旋律に、沿う様にまた離れる様に歌う。本来よりも緩い歌い方は、おばあから受け継いだ。安里屋あさとやの歌。



 最後の歌詞を歌い終え、伴奏を緩やかに閉めると、ピュイ、ピュイとそこかしこからの指笛と店内のお客さんまで拍手してくれた。

 非常に照れて、ぺこぺこと四方にお辞儀をした。…嬉しかった。



 新人はお金を出さなくてもいいんだ、と奢ってもらい、二次会に行く派と帰る派に分かれた。私は飲み会の雰囲気をもう十分楽しんだので帰る事にした。未成年でお酒も飲めないし。



 ぱらぱらと帰る組で歩いていると、私はこっち、僕はここだから、と皆ここの近くに住んでいるのか一人二人と帰っていった。


 新人達が心配だから、と付き添ってくれていた先輩に、もう、大丈夫ですから、と声をかける。


 家、近いの?


 と聞かれ、ええ、まぁ、とお茶を濁すと見破られて家まで送るよ、と言ってくれた。

 夜道は少し怖かったので、お願いします、と甘える事にした。



 二人、月明かりの中歩く。



 あの歌さ、



 先輩がぽつりと言った。



 あの歌、俺だけに歌ってくれない?



 また聴きたいと言うことか、と、次のサークルの時にでもと応えると、そうじゃなくって、と先輩は立ち止まった。



 俺以外に聴かせたくないんだよ



 私は、その意味を正確に理解した。

 おばあに言われたからだ。



 この歌は、男を袖にする歌だけど、一人の男の為に歌うなら、それは…



 私は、頷く事も首を振る事も出来ず、月明かりの中佇んだ。

 しびれを切らした先輩が私の手を引いた。



 な、約束。歌う時は俺の前だけな。



 そう言って、返事も待たずに歩き出した。

 この人は意味を分かって言っているのだろうか、とも思ったが、繋いだ手が汗ばんでいたから、たぶん、分かってる。



 私は先輩に連れられて歩く。

 とりあえず、話をしよう、まずはそれから。

 少し冷静になってそう思う。


 でも、繋いだ手は離さなかった。

 嬉しかった。







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