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古酒
調弦の音がする
薄く目を開けると、いつの間にか茜色だった筈の室内は海緑色に満ちている。
月明かりに照らされて、からんと杯を煽った姿が見えた。
コト、という音と共にゆっくりと爪弾かれる掠れた音。
音が途切れない様にそっと弄って浴衣を捕まえる。素肌の上に布ずれの音がせぬ様羽織った。
あ……
入るであろう男の歌が無かった。
ゆっくりと伴奏の音だけが紡がれる。
鈍い腰を上げ、仮止めの紐で浴衣を止めて男に近付く。
気配に気付いたであろうに、男は歌わない。
女は男の杯を持ち、少し離れて柱を背に気怠く座った。
からん
冷たい黄金色が喉を滑ってゆく。
息を少しだけ、深く吸った。
爪弾かれる音に誘われて細く歌い出す。
上に下にと流れる旋律に、沿う様にまた離れる様に歌う、安里屋の歌。
歌が止み、掠れ音が止み、やがて三線を置く音がした。
杯を置く音と共に、布ずれの音色。
月は明るく、遠くで潮騒の音が聞こえる。
柱の影に隠れて揺れる。
潮騒の音と共に。