魔王とメイド
シルフィーの過去編です
私は、ここ魔王城のメイド、そしてルシード様の配下をしています。 私は元は貧しい家の一人娘でした。
物心がついた時から、私は家事をしていた。 料理、洗濯、掃除などの仕事はすべて私がやった。 私にはこれしかできることがない。 母は体が弱く寝たきりの生活。 父は私が物心ついた時からいない。 とても貧しい生活だが、私はそれでもいい。 ただ、家族さえ、母さえいてくれればそれでいいのだ。 だが、その望みはすぐに消えた。 私がいつものように母の所に朝食を持ちに行った。
「お母さん、ご飯出来たよ」
「・・・・・」
「お母さんご飯出来たから起きて」
「・・・・・」
「お母さん・・・?」
私は体を揺すった。 何度も何度も呼びかけた。それでも母は起きない。 昨日はいつもみたいに優しい顔で、(いつもありがとね・・・)そう言って微笑んでいた。 私は今になって気付いた。 きっと母は自らの死が近いことをわかっていたんだろう。 寝ている母の顔はいつものような優しい顔で微笑んでいる。
私は泣いた。 涙が母の微笑んでいる優しい顔に零れる。 (私は母さんの為に頑張ったのに・・・これから何の為に生きたらいいの・・・)
私はただ、行く当てもなく家を出た。 もう何も考えられない。母さんに、父さんに、家族に会いたい。
会わせてよ・・・ 私は無我夢中で走り続けた。 気が付けば辺りは薄暗くなっており、モンスターもいる
そして、体力が無くなりその場に倒れこむ。
ズシンッ ズシンッ
大きな足音がこちらに近づいてくる。 あぁ、私もうすぐ死ぬんだ・・・ 母さん、父さん、もうすぐ会えるよ・・・ 今行くね。 だがいくら待っても痛みを感じることはなく、おかしいと思った私は顔をあげる
そこには黒い光が、モンスターを覆っていた。 そして次の瞬間、目の前にいたモンスターは跡形もなく、消えた。 そして目の前には、黒いドレスを着た美しい女性がいた。
「お主こんなところで何をしておる! 死ぬ気か!」
「あっあっ・・・ えぐっ、ひっく」
私は泣いた。また泣いた。 私は自分がしようとした事の愚かさを、今更気が付いた。 こんな事をしても母さんも父さんも喜ばない。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「あーこれこれ泣く出ない!」
私は慰められ、その女性にお世話になることになった。 案内されるまま私は女性の後を着いていく。
道中モンスターに襲われても先ほどと同じ黒い光で消していった。 綺麗・・・ 私はそう思った。 その光は見つめているとまるで引き込まれるように見入ってしまう。
「あの・・・名前を聞いてもいいですか?」
「そういえば自己紹介がまだじゃったの 妾はルシードじゃ」
(ルシード・・・ どこかで聞いたような・・・)
「お主の名前はなんじゃ?」
「あっすみません、私はシルフィーといいます」
「シルフィーか いい名前じゃの!」
そして、私はルシードさんの自宅と思われる前に立っている。
(えっ・・・これってお城・・・)
私の目の前には、高くそして大きな城が建っている。 これは、そうあれだ魔王城と言われるものだろう。
そういえばルシードと言う名前・・・ そうだ、魔王の名前だ!
私は今になって目の前にいる女性が魔王だと言う事に気が付いた。 先代の魔王である『魔王ハデス』は、
数年前に勇者とその仲間に倒されている。 だがそのハデスの娘であるルシードは倒し損ねたという。
だがハデスを倒しその配下の魔族たちも倒したため、さほど脅威とされていなかった。
「あの・・・ルシードさんって・・・魔王ですよね?」
「うむ、そうじゃがそれがどうかしたのか?」
「その・・・私を殺したりしないんですか?」
「それになんの意味があるのじゃ?」
その返答に私は言葉を詰まらせた。 魔族は人間と仲が悪く常に敵対している。 冒険者が魔族に殺されるという話もよく聞く。 特に人間である勇者に父である魔王を殺されている。 それなのに人間である私をなぜ助けたのかが理解できない。
「人間の事が憎くないんですか?自分の父を殺した相手ですよ?」
「父上を殺されたことに、思うところはある。 じゃがそれとお主は関係ないじゃろ」
そして私は再び言葉を詰まらせる。 (きっとこの人はとても優しいのだろう・・・) そう思っているとルシードさんは私をお風呂に入れてくれた。 中はとても豪華で、貧しい生活だったため、中々落ち着かずソワソワしている。 お風呂から上がりルシードさんが用意してくれた服に着替える。 廊下を歩いていると何やら匂いがした。 それにつられて部屋の中に入るとルシードさんが食事の準備をしていた。
「ちょうどよかった いま食事の準備が出来たところじゃ」
「これ食べてもよろしいのでしょうか・・・?」
「うむ 好きに食べるがよい」
目の前の料理はどれも豪華で肉料理や魚料理、野菜などさまざまな種類がある。 遠慮するつもりだったがルシードさんに失礼だ。 そしてなにより朝からなにも食べておらず走っていた私の空腹はもう我慢の限界だった。
「ではいただきます」
モグモグ・・・うぐっ
とても美味しそうな料理を口の中に運ぶ。 とてもいい匂いに滴る肉汁。 だが口に入れた瞬間さっきの、美味しそうな料理からは想像も出来ない味がした。 ルシードさんも私をみて料理を口にした。
「うぐっ これはまずいのう・・・」
「すみません!すみません!」
「なぜシルフィーが謝るのじゃ」
「いや・・・折角用意してくれた料理を・・・」
「久々の客に妾が無理して作ったせいじゃよ はぁー慣れないことはするもんなでないのう」
「あの・・・そういえばこの城にさっきから誰もいないんですけど」
そう、この魔王城にはルシードさん以外、誰一人として会っていない。
「いま魔王城におるのは妾だけじゃ」
「ずっと一人なんですか?」
「いや、ユリスとイザベラという者と住んでおるのじゃが、ユリスはいま用事があって里帰りじゃ」
「そのイザベラさんという方は?」
「アヤツは普段から油を売っておるのじゃ 全く勝手な奴じゃ」
そのユリスという人は用事でいまは不在でイザベラという人は普段からいないらしい。
「普段はユリスが家事をしてくれるのじゃがの・・・」
そうルシードさんは言って気を落とす、何か言わなくちゃ・・・ 言葉を選んでいるとルシードさんの方から声を掛けてきた。
「そういえばお主はなぜあんな所で倒れておったのじゃ?」
「それは・・・」
当然の疑問だろう。 私のような子供があんなモンスターがいるところまで行くのは不自然だ。 だが別に隠す理由もないため私はルシードさんに母が死んだこと、自分も死のうとしていたことを話した。
「うぐっ・・・ひっく・・・ なんて悲しい話なのじゃ・・・」
私の話を聞いたルシードさんは、泣いていた。 私なんかの話を聞いて本気で泣いてくれる。 やっぱり、ルシードさんは優しい人なんだ。
「ではシルフィー お主はこれから行く当てはあるのか?」
「えっ」
そうだ・・・ 私は生きなければいけない。 これからどうするか決めなければいけないのだ。 でも一体どうしたらいいか・・・
「もしないならここで働かんか?」
「え?」
こうして私はルシード様のメイドに、配下になりました。
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