表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

 とある手記より「英雄グルード」著 ゴルッド・ベリートス

 英雄グルード。アダント公国に住む者なら誰でも知っているだろう。忌々しき『赤の日』に我らを救ってくださったお方だ。そんな彼の英雄譚はとても書き表わせるものではないが、私が妻から聞いた話だけはここに書き記そうと思う。




 グルードが世界に名を轟かせたのは『赤の日』がきっかけだった。アダント公国に押し迫る一万人の赤軍を、不思議な力で一人残らず消しとばした、という話はあまりに有名だ。しかし、彼の過去の多くを知っている者はいないはずだ。知っているとするならば、彼が異国から来たということだけだろう。ただ、私はある話を聞いた。


 彼の不思議な力についてである。国民は皆、激戦地から避難していて彼の勇姿を見届けた者は、兵士だけだったはずだ。百年前の話だ、当時を生きていた兵士など一人もいない。付け加えれば、兵士達は王より箝口令を敷かれていた。そのせいで不思議な力については誰も知り得なかった。それでも妻は語ったのだ。


「グルード様は物をどこかへ一瞬で移動させられたらしいわよ」と。


 にわかには信じがたい話である。魔法の類かとも取れる能力ではあるが、どの文献を調べても、そんな魔法はなかった。となれば、妻の戯言だと片付ければいい話なのだが、そうはいかなかった。アダント公国に攻め込んで来た赤軍が、遥か北方の国、聖イデンテ王国で死体の状態で見つかったのだという。戦地は世界の南西に位置するアダント公国。馬車で移動しても数年はかかるだろう場所に、一万人の赤軍が移動したとは考えられない。考えられるとすれば、グルードの力が妻の言う通りだったという場合のみだ。


 そして最後に私はこう聞いた。「その話はどこで聞いたんだい」と。


 すると妻はこう答えた。


「酒場の酔っ払いよ」




 結局、真相は嘘の側に傾いてしまった。それでも私は英雄グルードについて、調査を続けようと思う。彼についてはわからないことばかりだからだ。こうして書いている今も、彼についての不思議な噂は絶えない。




『庭先で赤々と成長したアダントベリーを見ながら』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ