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こんな雨の日は apple rainy day

作者: 人形 静香
掲載日:2016/09/22

外の天気は雨。わたしは、幼稚園に通っていた時から雨が好きでした。でも、雨に濡れる「濡れる雨」は嫌いです。家の中とか、屋内の濡れないところから「見る雨」がすきなのです。

 幼稚園の行き帰りはいつもお父さんが車を運転します。車の中から見る雨は視界の端をツーと流れて見えなくなるのでした。フロントガラスの水玉は、ワイパーでかき集められて大きな一個の塊になってしまいます。雨の日はそんな景色を見ているうちにすぐ幼稚園に着いたのでした。

 今日の天気もわたしがすきな雨。黒板の前の教卓では現国の先生が、夏目漱石の「こころ」を朗読しています。先生の声よりも雨が駐輪場の屋根に打ち付けられる音の方がわたしには大きく聞こえます。机から窓の外を眺めているととても幸せな気分になります。わたしはこの教室に守られている。なんて頼もしいのでしょう。

 今日の朝のニュースでは、市内全体に大雨警報が出ていました。台風が南の風を引き連れて、太平洋にやってきたのです。でも、暴風警報が出ない限り学校はあります。わたしの家では、小さいころから「天気予報」を「てんきよほう」とは言わず、「お天気占い」と言います。それは、天気が外れても腹が立たないようにするためです。天気が外れたからと言って怒ることはあまりないのですが、この「お天気占い」という言葉が可愛いのでわたしは「お天気占い」と言います。

台風が日本にやって来る度に気温が下がってきているような気がします。お昼はまだ暑いのですが、夜はもう肌寒くなってきています。

 お昼が過ぎておなかが満腹になったので、わたしはだんだんと眠たくなってきました。先生の読む「こころ」もたんだんと遠くに離れていきます。瞼がおもくなって、勝手に目が閉じられてしまいます。

 目を開けると、遠くから祭り囃子が聞こえてきて鼻に焼きトウモロコシとか、焼きそばとかの匂いが混ざって香ります。ここは夏祭りだなとわかりました。毎年夏の終わりに神社で行われるお祭りです。小さな男の子が仮面をつけて手に金魚をもってわたしの横を通りすぎていきました。色とりどりの男女の浴衣が露店の明かりに照らされて、全体的に橙色に輝いています。

 人々は口々に話しているのですが何を話しているかわかりません。カランカランと雪駄の音が其処らじゅうに散らばっていて、陽気な気分を高揚させます。わたしは「リンゴ飴」を探します。丸々としてあの赤い艶が光る甘い「りんご飴」はとても可愛らしく、「リンゴ飴」のない夏祭りはわたしの中では「お祭り」ではありません。

 制服を着ている筈なのにわたしは全然恥ずかしいとかいうのは感じませんでした。なぜならこれはわたしの夢だからです。だから「リンゴ飴屋さん」もどこかにあるはずです。

 ぴちゃぴちゃと金魚が水の中を泳ぐ音が、すぐ耳元で聞こえました。びっくりして振り返ると赤い金魚が空中を漂っていたのです。赤色なのに、金魚とはこれいかに。口をパクパクとして、真ん丸な目はどこを見ているのか皆目見当つきません。

 「金魚さんはどこを見ているのですか。」わたしも口をパクパクしながら尋ねました。すると、金魚さんは怒ったように言いました。

 「私は好きで口をパクパクとしているわけじゃないのです。」といってまた口をパクパクとさせました。なるほどと思いつつも。この話す金魚さんともっとおしゃべりしたいと思いました。

 「どうも、すみません。ところで、おしゃべり金魚さんは何をしているのですか。」私の前を横切ろうとしていた金魚さんは、大きなひれをタユタユと揺さぶって、たいそう鬱陶しそうに戻ってきました。

 「私は、リンゴ飴屋さんを探しています。かくいう貴女は。」と金魚さんはわたしの目を見ているのか見ていないのかわからない目をして、言いました。

 「そうなのですか。わたしもです。よかったら一緒に探しませんか。」

 「でも、此処にあるかどうかわかりませんよ。」

 「ある筈ですよ。だってこれはわたしの夢なのですから。」そう言うと金魚さんはふーんと言った感じでいかにも興味がないように踵を返し、いえ尾びれを返しずんずんと人ごみの中を泳いで行ったのです。わたしも見失ってしまわないようについて行きます。

 ここにある筈だと思ったところに「リンゴ飴屋さん」はありました。金魚さんはそこにスルスルと吸い込まれるようにはいって行ってしまいました。そうして、目を凝らすと闇の中からちょろちょろと数匹の金魚さんがこの「リンゴ飴屋さん」めがけて泳いでいます。

 「おじさん。リンゴ飴一つください」そう言うと、おじさんは「あいよ」といってリンゴ飴を一つわたしに渡してくれました。そうして「お題はもう貰ったよ」といって笑いました。

 たぶん、あの金魚さんが払ってくれたんだなとわたしはなんとなく納得しました。リンゴ飴は、あの話す金魚さんの体のように赤く、露店の光を乱反射していました。

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