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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

紅い影(原版)

作者: 吹岡龍

 通学路の途中、橋の下の川のほとりに佇んでいる一体のお地蔵様は晴子にしか見えない。他の誰にも、両親にさえも、その地蔵は苔生した細長い石柱にしか見えないのだ。

 その地蔵は随分古いもののようで、腹には見たことのない文字、模様なものが刻まれているが、それも晴子以外の誰にも見ることが叶わない。

 だからと言って、彼女に幽霊や妖怪が見えるというわけではない。心霊写真を撮ったことも、金縛りにあったことも、霊障やポルターガイストに遭遇したことさえもない。極めて普通の人間で、限りなく平凡な人生を歩んできた。

 つい先日入学したばかりの中学校は自宅から徒歩で二〇分ほどの距離にある。山と川に囲まれた片田舎にあって、今し方通った橋も明治の頃に作られたという年代物だ。時折役所の人間が点検に来て、最近では建て直しが検討されているようだ。

 対して中学校は比較的新しく、木造から今の鉄筋構造へ移行して三〇年ほどになる。生徒数は二〇〇人を割り込んでいて、少子化や過疎化の歯止めが利かない昨今ではさらに減少の一途を辿ると推測されている。

 晴子もそれに加担するだろうとぼんやり考えていた。田舎は不便だし、どう考えても都会に憧れが湧かない理由がない。将来、上場企業のキャリアウーマンや社長秘書、あるいはむしろ女社長になるような、そんな身の丈に合わない夢など抱いたことはないが、少なくとも大学は国立を目指すつもりだ。

 校門前に生徒指導の教師が数人立ち並んでいる。彼らに会釈と挨拶を済ませ、グラウンドを縦断して下足ホールに踏み入った。運動靴から上履きに履き替え、階段を目指した。階段までの廊下を渡っていると、窓の外――中庭に男性の姿を見つけた。理科の担当教師、葛西先生だ。少しやつれた目元が印象的だが、学内の教師の中では容姿がアイドルやモデルのように整っていて、何より国立大学で准教授を務めていた経歴を持つエリートだ。いや、元と言うべきなのだろう。噂では、同大学の教授と確執があって辞めさせられただの、研究費を横領して学会から追放されただのと云われているが、彼自身はそのことに無頓着なのか、釈明一つせず、いつも淡々と授業をし、同僚と接している。

 そんな葛西先生に、晴子は興味があった。それは学内の女子生徒が彼に向ける淡い恋心などとは違い、彼の日々の行動に対してである。彼は休憩時間、いつも中庭か、グラウンドの端などを散策し、何かを見つけては膝をついてそれを眺め、一考した後にメモを取っているのである。その行為は放課後や休日になると学校の外へと広がっているようで、晴子にしか見えないはずのあの地蔵を調べている姿を時折見かけるのだ。

 あの人にも、お地蔵様が見えているのだろうか。

 晴子は話しかけようかと考えたが、始業を告げるチャイムが鳴ったので我に返り、急いで二階の教室へと駆けていった。


                    *   *   *


 本日の六時間目はホームルームで、夏休み明けの再来月に行なわれる予定の文化祭についての話し合いだった。クラスの出し物を決定するため、壇上には担任に代わって文化祭実行委員が上がり、黒板に生徒の意見を書き連ねている。

 劇にするか、お化け屋敷にするか。そのどちらかで意見が割れている。晴子はできればどちらも嫌で、早々に消えたカフェが良かったのだが、仕方なくお化け屋敷に一票を投じていた。どちらも裏方ならいいが、誤って劇で役を得ようものなら、恥ずかしさのあまりその後一月は登校拒否、いやいや練習前から本番までボイコットする覚悟だ。その点お化け屋敷は暗がりで、演者になったとしてもメイクをしているので自分だとバレることはないはずなのだ。

 神様がいたのだろうか。文化祭は僅差でお化け屋敷に決定した。荒れもせず、終始穏やかな議論だったことに、晴子は生まれ故郷の気質をありありと感じていた。

 放課後、廊下を渡る中、中庭の方をちらと見た。葛西先生の姿は無かった。代わりに妙なものに気付いた。二階から俯瞰して初めて気付いた。この学校の校舎は“ロの字”に建てられていて、中庭は数本の桜の木や花壇のおかげで緑豊かで、中央の大きな一枚の丸い石畳は昼休みになると生徒達の憩いの場として活用されている。その石畳に、うっすらと模様のようなものを見つけることができたのだ。

 それは、お地蔵様の腹に刻まれたものによく似ていた。

 帰り道、晴子は橋の下で葛西先生を見つけた。彼はあのお地蔵様をジッと見つめていた。気になった晴子は橋の上から彼に声をかけた。


「何をしているんですか」

「ん、キミは……」

「蔵多です。蔵多晴子、一年生です」


 晴子は橋を渡りきると、彼がいる川岸まで下りた。彼は彼女が充分に近付くと、「この石柱を調べていたんだ。コレはどう見ても自然の石ではない」


「学校の中庭やグラウンドの隅も色々調べていますよね」

「何だ、見られていたのか」

「先生はファンが多いんですよ。私が見ていなくても、他の誰かが必ず見て、話題にします」

「それは光栄な話だね」

「今朝は私も見ましたよ。中庭にいらっしゃいましたね」

「あの石舞台の周辺を調査していたんだ」

「石舞台? 石畳ではなく?」


 石舞台と言われて思いつくのは、奈良県明日香村の石舞台古墳くらいのものだ。それにあの中庭の平らな岩盤は、どう見ても畳みという形容が正しい。


「ここはかつて、と言っても一八〇〇年程前、卑弥呼の邪馬台国の時代に噴火した山から流れ出た溶岩や火山灰が降り積もってできた地形でね、あの学校が建てられる時の地質調査ですでに石舞台の可能性は示唆されていたようなんだよ。でもここの当時の政治家や建設業者がそれを公表しなかった。あんな小さな学校でも、随分なお金が動いたようだからね」

「それなのにどうして先生はそのことをご存知なんですか」

「学校の歴史資料が一冊だけ残っていてね、真実を匂わせるような一文があったから資料を書いた人に直接話を伺ってきたんだ。歴史的発見に違いなかったけど、口止め料として提示された大金に目が眩んでしまったと嘆いていたよ」

「情けない話ですね」

「全くだね。大学でしばらく考古学に携わっていた僕からすると、とても許せることではなかったよ。しかし彼は当時多額の借金を抱えていたから、知的好奇心より現実の生活を選ばずにはいられなかったそうだ」


 あまり気持ちのいい話ではないな。口中でそう吐き捨てた晴子は、地蔵に目を向けた。


「それで、あの石舞台とコレが何か関係があるんですか」

「鋭いね。どうしてそう思うんだい」

「ここにある模様と、石舞台に大きく描かれた模様が似ているので」

「模様? どこにあるんだい」


 晴子は地蔵の腹を指差した。しかし彼をはじめとした晴子以外の人々には、石柱に模様らしいものは見つけられないようだった。


「他の三つの石柱にもそんなものはなかったけどねぇ」

「他にあるんですか、このお地蔵様が?」

「お地蔵様?」

「私にはコレがお地蔵様に見えるんです」


 しばしの沈黙があった。

 晴子は手拍子で答えてしまった浅はかさを嫌悪した。彼から見たら、ただの石柱にしか見えないのに、それをお地蔵様だなんて、知識というより知能が足りていないのではと思われているに違いない。

 しかし、「そうか、あの布……」とやおら彼は自分の鞄の中を漁り始めた。そしてチャックのついたビニール袋を取り出した。色褪せ、基盤だ布切れが納まっていた。


「これはここから北西の山の中にあった石柱の足下に埋まっていたものだ。おそらく本来の色は赤だ。キミの言うことが正しいなら、これはお地蔵様の前掛けの切れ端かもしれない」


 晴子は瞠目して立ち尽くしてしまった。

 一方、葛西先生は興奮気味に言った。


「なるほど、お地蔵様か。ということは子供か、あるいは水子を供養する目的で建てられたのか。晴子君だったか、ちなみにこのお地蔵様はどちらを向いているんだい」

「え、その、ちょうど学校の方、北です」

「つまり、石舞台か」

「何か分かったんですか」


「さっぱり」と葛西先生は笑顔で答えた。しかし何やらメモを走るペンは軽快で、先生の顔もどこか楽しげだった。

 その様子に晴子は見惚れてしまっていた。おそらく初めて恋に落ちたのだと思う。

 次第にぼんやりしていく頭に、知的で素敵な彼の声が滑り込んだ。


「明日、時間あるかい。土曜日なんだ、朝からついてきてほしい。ご飯は奢らせてもらうからさ」

「そ、それって……」


 デート、というやつだろうか。晴子は少し辟易してしまった。まさかこんなに積極的だとは思わなかったからだ。


「そう。残りの三つの石柱、いやお地蔵様のところへ行って、僕の仮説を明確にしたいんだ。協力してくれないかい」


 晴子は肩を落としたものの、一緒にいられることに妥協し、要請を飲んだ。

 日が暮れようとしていた。


                    *   *   *


 九時頃、二人は学校の校門前で待ち合わせをした。

 晴子が到着すると、しばらくして葛西先生が校舎から現れた。聞けば、数人の先生と晴子の両親に連絡して、晴子と地域散策を行なう旨を伝えたらしい。どうやら彼も、女子中学生を連れまわすことに多少の抵抗があったようだ。

 まず、西に向かった。石柱を地蔵たらしめると思われる布の切れ端が落ちていたという、山中に踏み入った。

 およそ一時間ほど登った山の中腹で、晴子は葛西先生の指図なく、地蔵を発見した。それは草木に埋もれてあまりに目立たなかった。石柱であったなら尚更で、地蔵だったから見つけられたようなものだった。

 よく見つけたねと褒められたので、晴子は先生の方こそと返した。


「僕の場合は偶然だったよ。この地域に堆積した火山地質の調査の一環でここを登って、たまたま目に止まったんだ」


 この地蔵もやはり学校――石舞台の方を見下ろすように向いていた。

 次にそこから北東、石舞台の北にある神社へ足を伸ばした。境内の裏手にその石柱はあり、神主によりある種の守り神のように祀られていた。

 先生は神主に話を聞いた。何かこの石柱に関する文献はないかと。すると神主は文献ではないがと前置きし、木箱に納められた白い壺を見せてくれた。中を覗けと言われて覗いてみると、中だけは朱塗りで、黒い墨で文字が記されていた。ほとんど消えかかっていて読めなかったが、言葉が三つほど判明した。


〈物の怪〉

〈赤い影〉

〈頭蓋喰らいし〉


 何かおどろおどろしい内容であったが、やはり意味を解することはできなかった。

 二時頃、定食屋で晴子の学校生活や授業で分からないこと、また葛西先生の半生などを話した。結論から言えば、先生に関するよからぬ噂は噂でしかなかった。

 彼曰く、彼はこの地域の出身だという。大学での研究生活は順風満帆で、教授からの信頼もそれなりにあったが、どうしても調べたいことがあって准教授という名誉を捨てて里帰りしたのだという。それは先程の神社の石柱だ。子供の時分にそれを見つけ、当時の神主でコレは何かと問うたが、詳しいことは分からないとのことだった。文献も残っておらず、ただ代々、この柱は守らなければならないと伝えられてきたのだという。葛西少年は子供ながらに深い興味に誘われ、やがて考古学にのめりこむようになったらしい。先の神主曰く、壺の文字も最近になって見つけたものだという。

 遅い昼食を終えると、最後に石舞台から東に広がる田畑の脇に立つ石柱へ向かった。

 この日の調査で分かったのは、地蔵はそれぞれ石舞台の方を向いており、腹の印は互いによく似ているが少し違っているということだ。

 葛西先生は仮説を立てた。あの石舞台は祭壇で、何らかの儀式――おそらく生贄を捧げるのに使われていたのではないかと。生贄は年端もいかぬ子供。非科学的ではあるが、晴子に石柱が地蔵に見えるのはそういった理由があるのではないかと。


「科学的に調査する必要があるな」


 彼の目は輝いていた。

 晴子はまた見惚れてしまった。最後にペットボトルのジュースを奢ってもらい、謝辞を述べられた後、彼は夕暮れの中へ去っていった。

 帰路に着く晴子は、例の橋を渡った。作業服を着た四、五人の男達が橋や川を指差しながら何やら話し合っていた。川のほとりにはあのお地蔵様が今日も佇んでいて、蛍の光が鮮やかに照らしていた。


                    *   *   *


 それからというもの、晴子は葛西先生と接点を持つ機会を失っていた。気付けば夏休みで、それが終わると文化祭の空気が学内を満たし始めていた。彼女の教室の隅には、クラス全員が挙って集めたダンボールがこれでもかというくらい積まれていた。

 朝、雨が降っていた。ダンボールが湿気ないか。そんな優等生のようなことを頭に過らせ、登校した。見慣れない看板が橋の出入り口に立てられていた。一週間後から橋の建て替え工事を開始する予定だという。

 晴子はうんざりした。この橋を渡れないということは、大きく迂回して学校に行かなければならない。つまり、もう少し早起きして、いつもより早く家を出なければならないということだ。自然、嘆息と苛立ちが漏れた。

 一週間後、工事が滞りなく始まった。昼休み、晴子は今日から起きた面倒を友人にぼやいていると、「晴子君。あの橋、工事されるのかい」と突然声をかけられた。

 振り返ると、そこには焦燥に駆られる葛西先生の顔があった。先生が教室に乗り込んできただけでも女子の間では騒然となっているのに、晴子が狙い撃ちに合うと嫉妬の視線が背中に降り注いで痛かった。


「えぇ、そうみたいですけど。それが何か」

「何かじゃないよ。橋の下の地蔵はどうなっている」

「分かりません。今日からはしばらく違う通学路を通りますから、見てもいません」

「もしも壊されたら、どうする」

「そんなことを私に言われても」

「僕は嫌な予感がするよ」

「罰が当たるとでも?」

「それが分かればここまで動転しちゃいない」

「言っていることが滅茶苦茶です」


 先生は首を横に振ると、早足で教室から出て行った。

 それからというもの、晴子は放課後まで女子から質面攻めに遭った。何でもないのとはぐらかし続け、急いで学校を飛び出した。足は自然とあの橋に向かっていた。

 橋では何やら揉めていた。葛西先生が工事の作業員と口論になっており、仕舞いには取っ組み合いまで始めてしまったのだ。晴子が仲裁に入ると、先生は声を荒げた。


「彼らは地蔵を壊してしまった! 仏罰が下るぞ!!」


 川岸を見ると、確かに重機で粉砕された石柱が横たわっていた。晴子の目には、頭を潰されているように見えた。

 一同がしんとすると、葛西先生は口を押さえた。目を泳がせ、まるで自分の言ったことに驚いているような素振りだった。

 晴子の顔は青褪めていた。別に信仰の自由を否定する気も、特定の宗教を弾圧する気も毛頭ない。ただあの葛西先生が憤りの果てにこのような言葉を口にしたことに驚きを隠せなかった。

 翌日から、葛西先生は学校を無断で欠席するようになった。


                    *   *   *


 文化祭当日。連日の努力が実り、お化け屋敷は完成した。

 中々の出来栄えで、客の入りも上々。悲鳴はクラスメイトにとって快感となっていた。

 朝から脅かし役の一人になっていた晴子は、交代で休憩をもらった。二階から中庭を見下ろすと、石舞台で軽音楽部のバンドが歌を披露していた。


“仏罰が下るぞ!!”


 葛西先生の言葉が脳裏に反芻して、どこか居心地の悪さが胸を苦しめた。

 悲鳴が鳴った。

 順調だなと思ったが、その声はお化け屋敷と化した教室からではなく、階段の方から聞こえた。しかも悲鳴は連続して先生を呼ぶ声も木霊していた。

 晴子は階段に向かった。真っ赤な液体が階段から流れ落ちていた。二階と三階の中間にある踊り場をみると、人が倒れているようだった。しかもその人、額から上が無くなっている。すっぱりと斬り落とされている。

 文化祭は即座に中止となった。警察がやってきて、目撃者全員に事情聴取を行なった。

 晴子は聞いた。死亡した男子生徒が死ぬ前に、「赤い影を見た」と言ったことを。そして刑事が神社云々と耳打ち合っていることを。

 夕方、晴子は学校の北にある神社に向かった。学校の階段がそうされたように、立ち入り禁止の黄色いテープが境内に張り巡らされていた。神主が亡くなったらしい。額から上をすっぱり斬り落とされて。

 晴子は急いで橋へ向かった。一刻も早くあの地蔵を直さなければと急いだ。途中、中学校の前を通り過ぎた。もう夜の帳が落ち、中学校で検分していた刑事達も少数を残して引き上げているようだった。校舎を見ると、廊下を男性が歩いているように見えた。

 葛西先生だ。

 学校の正門は警官が門番のように立っている。晴子は裏門から校内に忍び込んで、先生が歩いていた四階を目指した。事件のあった場所とは別の階段を使って迂回し、身を屈めながら先生を探した。しかしどの教室を探しても彼の姿は見つからなかった。

 先生の協力を仰がなければならない。先生はただの考古学の専門だが、唯一この事態を把握している人間でもあるのだから。

 ふと中庭を見下ろした。石舞台に人影があった。

 一息に下りて、中庭へ歩み出た。虫の音が騒がしく、空気は湿っていた。石舞台に葛西先生がいた。


「先生、神主さんが」


 そう言いかけると、「可哀想に」と彼は言った。


「ココは、この石舞台は、かつて、古代、呪術で用いられた祭壇だった」


 脈絡のないそのセリフに、晴子は眉を八の字に寄せることしかできなかった。


「どうやら脳髄を取り出し、供物として捧げていたらしい。何に」


 月明かりが雲の切れ間から降り注ぎ、先生の影を顕わにした。

 赤い影だった。

 見間違いかと晴子は思った。地蔵のように、自分にしか見えないのかと。しかし、目蓋を擦っても、頭を振っても、先生の足下から石舞台にへばりつくそれは真っ赤な人影だった。


「事の始まりはある人間の妄執だという。生き写しを作り、人々を呪わせたようだ。作った者は死んだが、この影だけは生き続けた。人の脳髄を喰らう化物として」


 晴子は腰を抜かした。先生は目を伏せた。


「やがて人々は祭壇の四方に石柱を立て、影を封じた。あの神社はその封を管理していた者の末裔だ。だから、殺された」


 身体は震えるのに動かない。口も、何も利けない。言葉すら浮かばない。


「キミに地蔵が見えたのは、もしかすると生贄となった者達がやがて迫りく危機を知らせていたのかもしれない。あの日、僕を橋まで駆り立てのも、その者達の仕業かもしれない。影に身を委ねる今となっては、分からないが」


 晴子は彼の影を見た。黒かった。彼の顔を見た。目を伏せ続け、悔しげに泣いていた。すまない、すまないと何度も謝り続けていた。

 どうしてという疑問に、目の前のそれが答えた。

 赤く、背の高いものが、座り込む晴子の頭上から、脳天を凝視していた。赤いそれには目らしきものがいくつかあった。頭部と思しき位置にあるそれは一際大きく、またそのすぐ上――額から先は斬り落とされていた。

 そこに、その中に、脳と呼ばれるような物は無かった。空洞だった。

 影は興奮しているようだった。真っ赤な眼球に、血管が浮き上がっていた。

 晴子は目を閉じた。これ以上、葛西先生が悲しむ姿は見たくなかった。

短編「なずきさらい」、そして長編「ドッペル!」にも繋がるストーリーです。

七時間ほどで仕上げたので至らぬ点が多々あるかと思います。ご了承ください。

疲れた、眠たいお……_(;3 」∠ )_

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