#9 いざ、キャリア試験へ
9話目です。キャリア試験編のスタートです!
レオルはひたすら走り続け、道中多数の市民に案内してもらいながら、北のキャリア養成所に辿り着くのであった。
北の都・・・・ロランジタ・・・・
その中央付近の商店街の一角に、ド派手な蛍光で屋台を光らせ、窓直下の壁一面に大きく「キャリア訓練施設所」と書かれた場所がある。周辺は野菜売り場や喫茶店、洋服店、宝石店、ゲームセンターなどの店が繁盛しており、幾多の人々が往来している。商売上手の店長は慣れ親しんだ様子で、付近の客を魅せては、収益を上げる。学生達の会話、ママ友達の井戸端会議、煙草を吸いながら路面に座り込み剣幕を張る不良組。昼間の商店街は群衆で人口密度が過剰になり、今にも溢れ出してしまいそうだ。 そんな人混みの中を、レオルは愉快に潜り抜け、例のキャリア訓練施設に辿り着いた。レオルは少し心細そうにその建物全体を見渡して、自動ドアにそっと手を伸ばすと、そのドアはウィーンと音を立てゆっくりと開く。何もしてしないのに勝手に動くそのドアに驚くレオル。頭の中で疑問符が乱舞したままレオルが入り口を通り過ぎると、女性の受付係がいかにも仕事顔で、愛想よく迎える。
「ようこそ、キャリア訓練施設へ。この度は遥々とお越しいただき誠にありがとうございます。本日はどのようなご用件でございましょうか?」
レオル「あ、えーと、キャリアを手にしたいなって思ってここに来たんだけど・・・ここでいいんだよな?」
「はい。問題ございません。トレーニングルームのご利用か、それとも3時間後に始まるキャリア試験のご受験のどちらになされますか? ご受験者でしたら、受験票を拝見させていただきます。」
レオル「・・キャ、キャリア試験!? そんなもんがあんのか!」
レオルが目をパチクリさせながらそう言うと、受付係の女性は、そんなものも知らないのかと困り気味の表情を浮かべた。
「・・はい。本施設では3ヶ月に1度、キャリアを修得すべく来設していただいた
お客様のためにキャリア試験という形式で、キャリアを修得するきっかけを与えて差し上げるという活動を実施しております。そして本日がその実施日となっております。」
レオルは女性の説明内容を深く理解していなかったが、この場所で間違いないという確信を持つことができた。つかさずレオルは女性に尋問する。
レオル「んで、試験を受けるにはどうすりゃいいんだお姉さん? このまま受けれんのか?」
「その様子ですと、受験票はお持ちいただいてないみたいですね。残念がら今回の試験のエントリーは既に締め切りとさせていただいております。またのご機会をご利用くださいませ。」
レオル「な・何!! そんな手続きが必要なのか! オレ聞いてねぇよ・・参ったなぁ・・・な、なあ、特別に受けさせてもらえねぇかな??・・・」
「・・はぁ? 申し訳ございませんが、そのような特別措置法は施しておりませんので、お引き取り願います。」
レオル「そそそそんなぁ! 巡りに巡ってやっと辿り着いたんだぜ。なあ、頼むよお姉さん・・」
レオルは親に駄々をコネてなんとかして玩具を買ってもらおうとする子供と同じような目をして頼んだ。
「お引き取り下さい。」
レオル「お願いだよ・・・頼むよ!」
「ダメです。」
レオル「この通り・・・」
「・・ダメです!!」
レオル「・・そこを・何とか頼む!!」
「ダ・メ・デ・・・ス!!!」
レオル「・・・・・・・・」
女性が怒鳴りつけてレオルにそう言うと、レオルは萎んだ花のように放心状態に陥った。流石のレオルもかなりショックを受けてきょとんとした目をしながら、目線が下に沈んでいく。すっかり覇気を失ってしまったせいか、呆れていた受付の女性も職務を忘れて、その青髪のやんちゃな少年を愛おしむ感情が胸に残り、心配そうに声をかけ始める。
「・・わ、分かりました! そこまで言うなら特別大サービスで参加させて上げるわよ!」
すると、萎れていた花が大地の恵みを受けて、再び満開咲きするかのような顔でレオルは女性を見つめた。
レオル「・・今、何て?」
「だーかーら、今日の試験に出てもいいよって言ったのよ!!」
レオルは女性のありがたさに心を打たれ、誕生日プレゼントを開ける子供のように目を輝かせて大いに喜び始めた。
レオル「よっしゃー!! 嬉しい! 本当にありがとうお姉さん。やったやったーー!!!」
「ゴホン、、試験は3時間後に始めるわ。あそこの扉から地下4階まで下りて、回廊を抜けると大きな扉があるから、そこを開けると会場になるわね。他の受験者はもうとっくに集まってるわ・・・・いいかい坊や、試験はそんなに簡単じゃないの。ここでは年に4回開催してるんだけどねぇ、最終会場まで到達する人は4回でトータル7~8人が関の山ってところなのよ。アナタみたいな坊やが安々よ突破しようなんて甘いこと。まあ、挑戦する分にはこっちが儲かるから結構。」
レオル「オレは・・お金なんて持ってねぇぞ。」
「・・はいはい!! 通常はエントリー時に払い込みをするんですよ・・ったく。
あと、途中で死ぬこともあるから、そしたら自己責任ってことになってるからいいわね?」
レオル「了解っす! ありがとな、じゃあ行ってくる!」
その時、入り口の自動ドアが開き慌ただしく何者かが駆け込んできた。
「ふー、到着。ここが会場かな?」
山吹色の髪をした、背丈がレオルと同じくらいの少年であった。レオルを一瞥して受付係の女性に受験票を見せる。
「・・受験者ね、確かに今、受験票を確認させてもらったわ。どうぞ、あちら側からお進み下さい。」
「ういっす、・・・・・・む、もしかして、君も受験者?」
その少年は何か気になるものを発見したかのように、レオルにふと問いかける。
レオル「んー、今そうなったって感じかな、ヘヘヘッ。」
「ふーん、そうなんだ。なんか全然大したことなさそうだね、じゃ、お先に。」
そう言い残して駆け足で奥の扉を開け、会場へ向かっていく少年。レオルは少しピンと来たのか舌を出しながら、その少年の方面を向いて言い出す。
レオル「!! 何だあいつ! あいつも受験者かよ、オレと同い年くらいじゃん。お前の方がひょろっこそーだっちゅうの!」
「ンフフ。なんか今回はアナタみたいな坊やがいるみたい、彼は確かブレイド君ね。その前にも、黒髪で背中に剣を背負った子がいたわ。きっと痛い目見るわよー。」
レオル「へッ、どんな奴がいてもいいさ、オレは絶ってぇ最後まで生き残ってやら。キャリア手にして、強くなって、そんでゼブラに勝つ!!」
「な!! ゼブラですって・・・・あの「帝」のボスのゼブラを倒す??・・・・・冗談はよしてよ坊や・・」
急に女性は青ざめた顔つきをして、タクシーの急ブレーキをかけられたように驚いてそう言った。
レオル「嘘じゃねぇよ! それに坊やじゃなくてレオルだ。オレの村は・・あいつに滅ぼされたんだ! 何もかも!!・・・・・だから、オレが仇を取るんだ! 必ずな・・・・てか、ゼブラのこと知ってんのか?」
「し、知ってるも何も、あの極悪集団、「帝」を率いる首領、それがゼブラ。 ‘零のゼブラ’よ、悪名高過ぎて超有名じゃない、そんな奴を倒すなんて・・・キャリアを手にしたからって勝てっこないわ!」
レオル「そんな奴だったのか・・・あいつは・・・だからうんと強くなって倒すんだよ!! ますます倒し甲斐のあるやつじゃねぇか。なんか燃えてきたぞ! てか、もうオレ行くぜ。こうしちゃいられねぇ、特別大サービスありがとな!」
レオルはそう言い、指示通りに奥の扉から入って地下4階まで下りていった。受付係の女性はたいそう思いつめた様子でレオルの後ろ姿を見送った。
「・・レオル・・・とんでもない子ね。ゼブラを・・・・・でもあいつにだけは・・・・手をだしてはダメ・・あいつの前では・・・・」