#8 決着
8話目です。かなり長めになっています!
ドリューは再び尻尾を軸に体を回転させ、砂風を巻き込んでレオル目がけて一直線に向かってきた。腹部の痛みを何とかこらえながらレオルは真剣な顔つきでドリューを迎え撃つ。ドリューは先ほどよりも力を込めて、血の形相で鬼の拳をレオルに叩きこもうとした。
ドリュー「木端微塵だ!!!」
ドリューが鬼人砕拳を繰り広げようとする寸前に、レオルは紙一重で避け上空に飛び上がった。そして素早く着地して何度も飛び跳ねてを繰り返し、ドリューを揺さぶり翻弄する。ドリューはパワーアップを果たしたもののスピードは変化していなかったので、変身前と同じくレオルを目で追いかけるのが精一杯であった。レオルは突然方向転換してドリューの腹溝を殴り、次にドリューの頭上に体を1回転させながらかかと落としを喰らわせた。
ドリュー「ガバッッッハッァ!!」
ドリューは頭部に激しく損傷を受けたために、目眩がし、視界が霞んできた。だがレオルは反撃の隙を与えまいと左足でひるんだドリューの右頬を蹴り飛ばし、さらに背中をヒジテツして追い込んだ。レオルは大量に汗を流し、今にも意識が飛びそうなほどの痛撃を抱えながら戦闘している。
レオル「これで最後だドリュー!! オレのとっておきをお見舞いしてやるよ!!」
ドリューは目の前の視界がぼやけ、うまく視点を合わせられないでいた。朦朧とする意識の中レオルが飛び込んでくるのが見え、必死に回避しようと身体を動かそうとするが、鉛のような鉄球と化したその身体は指令を全く聞かない。
レオル「ツイスト烈拳!!!」
レオルは流血しながらも、電撃のように走り込む腹部の痛烈を我慢してその技を披露する。ドリューの顔面、胸部、腹部に何十発もの凄まじいパンチが板に釘を打ち込むかのように次々と入れ込まれる。レオルは荒れた声を上げながら、1発1発をドリューにヒットさせて、そこから拳を捻ってさらに奥深くまでのめり込ませる。ドリューは反撃する間もなく、ただただ拳を受け続けた。
ドリュー「ガァァァ!!・・・・・グハッッ・・・・く・・・・ソガ・・・・キ・・ガッバッァァ!!」
ドリューは最後の力を振り絞り、息を激しく荒げているレオルに鬼の手を近づけてもう一度攻撃しようとした。だがツイスト列拳のダメージでついにその巨体は、木の実が落ちるように崩れさるのであった。目の前の憤慨した凶鬼は地面に倒れ込み動かなくなった。
レオル「ヘヘヘッ・・・・・やったぜこの野郎・・・・・・・・うっ・・・・・」
バタン。レオルは体力を消耗しすぎたため、そのまま後ろに倒れ込んだ。
ミント「レオル!! しっかりして!」
クルージュ「・・・なんて子だ・・・本当にドリューを1人でやっつけてしまうなんて・・・・しかもまだキャリアも使えないというのに・・・・全く、大した奴だ!!」
「シギァァァァ!!!!」
怪物が歓喜の生高い音を発した。角を左右にぶらぶら震わせて喜んでいる。
レオルは戦いで疲れ切り、両手を大の字に広げて寝そべっている。満点の青空の河原の草原に心地よさそうに寝るかのように・・
ミントとクルージュと怪物はレオルのすぐ横に駆け寄った。
レオル「見たか・・・1人で倒せた・・だろ?・・・・」
クルージュ「君はすごい奴だよレオル。本当によくやったな。だが少し無茶しすぎだぞ。・・・ミント!」
ミント「うん。・・・レオル。もう大丈夫よ。私が今すぐに治してあげるから。」
ミントは横倒れているレオルの体に手を添えて、全身からキャリアを出した。レオルは口を大きく開けて驚いている。負傷した腹部の発火したような痛みが不思議と和らいでいくのが感じられたからだ。徐々にレオルの体力が回復していく。
ミントのキャリアは ‘ドクター’。 人の体に触れれば忽ちその人の体力を全快させることができる回復専門のキャリアだ。また、体内から巨大な白い手を召喚したりも可能だ。ドクター故に手術を施すということで体内貫通も容易い。ボルビス戦ではこの能力が主に使用された。
ミント「うん、もうバッチリだよ。これでまたいつものように動けるはずね。」
レオルは両足を上げて、反動をつけて立ち上がった。
レオル「うっひょー!! こりゃすんげぇな。治ってる治ってる!! ヒャッフー!! ・・・・・ありがとなミント! マジで助かったぜ。でも何でこんな簡単に・・?」
ミント「私のキャリアだよ。こういう使い方もあるってわけ。」
クルージュ「ミントはドクターなのさ。病気は治せないけどケガならすぐに治せるんだ。」
レオル「そうだったのか。・・・・やっぱみんなスゴいぜ。ミントはドクターだし、クルージュは氷を操れる。あのドリューって奴は鬼に変身するしよ。オレもめっちゃキャリア欲しいな!!」
「・・・お前ら・・強いしみんないい奴だ!・・・・最初はいきなり襲ったりしてごめんな、でもドリュー一味を倒してくれてホントに助かった!!」
レオル「んなこと気にすんなって。オレも大分楽しめたしよ。これで野生に帰れるな!」
「・・・・・・ゔ・ん・・・」
怪物は見かけに合わない涙をこぼしてそう言った。
クルージュ「でも、野生に帰っても居場所がないんじゃないのか? だからこんなところまで迷い込んできてしまったんだろう?」
レオル「・・あー確かに・・・そりゃ可哀想だな・・・参ったなぁ。」
レオル達はたいそう困り果てた表情をする。怪物は悲しげな仕草を見せる。しかし、ミントが頭の中で豆電球が光り出すかのようにひらめいたので、思い切ってこう言い出す。
ミント「そうだ!! 町長さんの庭に住みなよ! すっごい広いし、町長さんには何とかして説得してみるからさあ。うん、それがいいわ。」
レオル「あのじっちゃん家にか? そりゃいくらなんでもなぁ、無理だって。絶対断られるっつーの。」
クルージュ「オレも反対だ。街にこんなでかいのが住み着いたらパニック間違いない!」
するとミントはせっかく思いついた自分の名案をあっさりと2人に強く否定されたためか、ショックを受け、涙ぐんでこう言い出す。
ミント「・・うっ・・・・何々2人とも!! ・・・・・そんなのあんまりだわ!! ヒドいわよ!! ・・ふん、いいもんね、私が必ず何とかして見せるんだから。」
レオルとクルージュは慌てて取り乱しながら、言葉を続ける。
レオル「・・ああ・・・別にそんなつもりじゃ・・わ、悪かったよ。ウソだよ冗談だよ、ハハハ。」
クルージュ「・・オレもだ・・よく考えると、ハムーさんの家ならみんなには説得できるかも・・・」
ミントは悲しみから一転、笑顔を取り戻して目を光らせて言う。
ミント「じゃあ、決まりね!! そうしましょう!!」
「・・・・ほ、ホントにいいのかよ? オレなんかが街に住んで・・・野生でも何とかやっていけるぜ。」
レオル「ミントがそう言ってんだ。大丈夫だよきっと。よかったな、かいぶ・・・・そういやお前、名前なんていうんだ? 怪物!じゃ呼びにくいし・・」
「・・名前?・・・・・・・・そんなものはないな・・」
レオル「・・マジでか!? そりゃ困ったなぁ・・・よし、じゃあオレがたった今名前を付けてやる!! 今日からお前はビーフだ! いいな?」
ミント「・・・・ま、まあいいんじゃないかしら?」
クルージュ「(もろ、肉じゃないか・・・) そ、そうだな、ないよりはマシかな。」
「・・・・好きにしろ、何とでも呼んでくれ、」
レオル「ハハハッ んじゃ決まりだなビーフ!」
こうして名の無い怪物はレオルにビーフと命名された。ボルビス、ジル、ドリューの3人は依然として意識を失っている。相当なダメージを受けているため当分自力で立ち上がれはしないであろう。
レオル達はビーフを連れてハムーの豪邸まで戻ってきた。ハムーがレオル達の無事戻ってくるのを確認すると、てっきり怪物を仕留めたのだと思っていたが、どでかいビーフの姿を目にした途端、ハムーの目はボロっとこぼれ落ちしてしまうのではないかというくらいに飛び出し仰天し、甲高い声を上げた。ビーフを始め、ドリューの事など、今体験してきた事柄をミントを中心に説明して、なんとかビーフを住ませてやれないかと一同は懇願した。そして夜中は絶対に叫ばないこと、暴れ回らないで大人しくしていることを条件にビーフはハムーの広い庭に、ペットとして住まうことが許可された。
ビーフ「約束するぜ、オレはホントに何もしないって、これから世話になるな、オレに出来ることがあったらぜひ頼んでくれ。」
ハムー「まあ、よかろう。わしも退屈してたところじゃからの。それで、お主らはこれからどうするつもりなんじゃ?」
クルージュ「オレはまた旅に出ます。自分がいかに未熟なのかを改めて実感しました。もっと技を磨いて世界を回ってみるつもりです。そしていつかハル・・・いえ、もっと強くなってみせます!」
ミント「私は・・・私も旅に出るわ。目標とかはあんまりないけど、面白いことが沢山ありそうだもの! 今日だけでもすごかった。旅して何かを見つけに行くわ、やりたいことを。・・あとこの力を少しでも役立てたい。もっといろんな使用方法があるはずだから。」
ミントもドクターを磨き上げ、旅に出ることを決意した。
レオル「なんだよ、みんな修行しにいくんじゃねぇか、オレももちろんだけどな。つーかまずキャリアを手に入れねぇとな・・・お前らはどこでその能力を身につけたんだ?」
レオルはいかにも童顔そうに尋ねると、ミントが微笑みながら返す。
ミント「私とクルージュは幼馴染でね、2年前に一緒にキャリア養成所に行って、キャリアを取得・・・というよりかはキャリアが自分のものになるきっかけをあそこで学んできたの。それから鍛錬を重ねていって、クルージュは開花まで3ヶ月くらいだったんだけど、私は半年くらいかかったかな。とにかくキャリアを我が物にするのは容易じゃない。けど、レオルならとても早い期間でマスターできると思うわ!」
クルージュ「オレもそう思うな。ここから北に100キロほど離れた場所に養成所はあるから、そこに行ってみるのが一番早いぞ。」
レオル「なるほど、やっぱ難しそうだなー、だけどすぐに手にして見せるさ! オレはまずその養成所ってとこに行ってみるぜ。」
レオルはキャリアを手にしたいという願望で、胸が太鼓判のように踊り出す。
ハムー「ホッホッホ。若僧はええのう、元気いっぱいじゃ、さて今日は疲れたじゃろ? 特別に一晩泊めてやるわい。」
レオル「うおぉ! ホントかじっちゃん!!」
クルージュ「・・なんと、それは有難い・・」
ミント「太っ腹! 遠慮なく泊まらせていただきます。」
こうしてレオル一行は、一晩ハムーの屋敷に宿泊したのであった。その日の夜は盛大に祝賀し、遅くまで語り合い、そして夜が空け、出発の朝を迎える。
ビーフ「レオル、ミント、クルージュ、・・・・ありがとう・・・・ また遊びに来いよ!! オレが相手になってやるぜ。」
レオル「ああ。もちろんだぜ。んじゃ、オレは一っ飛びキャリアを学んでくるからな! ミントもクルージュも元気でな!」
クルージュ「そうだな、旅をしていればまたどこかでバッタリ巡り逢うものだ。お互い頑張ろう!」
ミント「そうね。またどこかで会いましょう!!」
ハムー「気をつけるのじゃぞ、、世の中には恐ろしい奴がたくさんいるわい、危険な奴と遭遇し、まずいと思ったらすぐ手を引くのじゃぞ。無理はするなよ3人とも」
こうしてレオル達はそれぞれの旅路へと新たな一歩を踏み出していくのであった。
この広大な世界で次に待ち受けているものなど誰も知るすべなどないだろう。期待と不安の入り混じった毎日を・・楽しみながら、怯えながら、悲しみながら、1人1人別々の道を歩んで行く限り・・・
その頃、とある町の中央部では・・・・
「た・・・・助けてくれ・・・頼む・・・オレが悪かった・・・だから命だけはとらないでくれ・・・・」
???「キミさあ、か弱い虫達の命乞いを見たことはあるのか? 家畜として飼われる動物、檻から出られない動物、アリんこの小さな抵抗。
キミも同じだよ・・・ペロッ・・・今も罪もない命を壊そうとした。壊していいのはねぇ、壊される覚悟を持った連中だけなんだよ・・・ペロッ・・・ボクが代わりに淘汰してあげる・・・ペロッ・・・」
「・・・や、やだ、・・・・・・やめ・・・・・・ウァァ!!・・・・」
???「フフフフフフフフ、いいねぇ・・・・その顔・・ヒャッハッハッハ・・・」
狩る者、狩られる者、今日もどこかで生まれる者、死ぬ者がいる。そして一部の人間はキャリアを自在に操れる。日々技を研ぎ澄まし頂点を極めようとする達人、ただ快楽に殺戮ばかりを楽しむ狂人、これから手にしようと修行する新人、どんな能力がどれだけの種類あるのかを把握するのはほぼ不可能である。世には末恐ろしいキャリアも存在する、それも使い方次第だろう。時として最強の武器に、最強の防具に、そして人類を滅ぼす破壊輪にもなり得るのだから・・