#4 怪物の住みか
4話目です。予定より早く更新できました。今後ともよろしくお願いいたします。
町長は勢いよく跳躍してレオル達の前に着地した。かに思えたが、町長は着地する瞬間に体勢を崩し左足首を捻ってしまい、そのまま転倒した。
「あーー痛いよ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃー!!」
ミントは目を点にして呆然とその様子を見ていた。レオルは思わず拍子抜けの町長に遠慮なく腹を抱えて笑い始めた。
レオル「アッハハッハッハッハハ。ダッセーー、じっちゃんいい年して恰好つけようとすっからこんなことになるんだぜ、ッハッハッハッハ、腹いてぇ。」
レオルは口を大きく開きながら、町長を指さして無邪気に爆笑を続けた。
町長「うるさいのぉ!! そんな笑わんでもええじゃろが小僧!!。」
町長のハムーは、ひどく赤面してあまりに嘲笑されたために体裁を損ねていた。何とも取り乱したハムーの機嫌を少しでも良くしようとするためか、ミントは慌ただしくレオルを紹介した。
ミント「あ、あの、町長さん。彼が怪物を退治できそうなパワーを持った子だよ。レオルっていうの。」
ハムーはその言葉を聞くと、急に顔の筋肉を硬くさせ、改めてレオルを上から下まで見つめ直し、粘り気のある視線を執拗に絡みつかせて逸らそうとしなかった。
ハムー「何だって? 此奴がじゃと。」
レオル「な、何だよ。急にじろじろと・・」
レオルはハムーに凝視されたために自然と目を逸らした。ハムーは無言で鋭い眼光を飛ばしてくる。レオルはハムーを一瞥すると、まだ凝視されていることに気が付いたので、再び視線をよそっぽへ向けた。そして長い沈黙をハムーが割った。
ハムー「ほう。強ちでたらめではなさそうじゃな、年の割にいい肉体をしとる。だが、キャリアの開花はまだのようじゃの。」
ミントは案の定、平然としていたが、レオルはさっきまでのおっちょこちょいな爺さんとは別人だと気づいたためか、心底感心していた。
レオル「へぇー、、驚いたぜ。ただの爺さんじゃなかったんだな。少し見直した。」
ハムー「あほう! わしは町長のハムーじゃ。今年で120歳にもなる健全な年寄りじゃぞ。一目見れば其奴がどういう奴なのかくらいは分かるわい。」
ハムーは若干自慢げそうに自己アピールをした。長い白ヒゲを生やし、白髪が太陽光で反射して絶妙な色を醸し出している。
ミント「すごいのよこの子。危険ランクBの猛獣をたった一蹴りで倒しちゃんだから・・ね?」
最後にミントは右目でレオルにウインクをしながらそう言った。レオルは一瞬動揺したが、平然を取り戻してハムーに身体を向け直した。
レオル「ミントに着いてきて、オレは今日初めて山を出て都会らしい都会へ来た。どんな奴がいるかまだ全然把握してねぇけど、オレでもそこそこ腕は立つと思うぜ。力になれるんなら貸すさ。」
レオルは真っ直ぐにハムーの老いてよろよろした目を見つめてそう言った。
ハムー「そうじゃの、できればわしも一緒について行ってやりたいとこじゃが、なんせもうこの年じゃからのう、腰が痛くて痛くてたまらんのじゃ。そして毎晩わしの家の裏の廃墟から轟音の雄叫びが聞こえてきてまともに眠れんのじゃ。わしの推測だと、あの誰もを震撼させるようなすさまじい声の正体は、得体の知れない怪物じゃな。どうもわからんが住みついてしまったみたいなんじゃよ。そこでその怪物とやらを撃退して欲しくての、、とまあそういうわけなんじゃが、どうじゃ?」
ハムーは一定の口調で点々と喋り、レオルに懇願の顔つきを見せた。レオルはその言葉を待ちわびてたかのような姿勢で何の迷いもなく大きく首を縦に振った。
レオル「ああ、任せとけよじっちゃん。」
ミント「決まりねっ! 町長さん。私とレオルが組めば何とかなると思うわ。」
ミントは満面に喜色を浮かび出し、顔に花でも咲いたかのような明るい表情をしながらそう言った。
ハムー「おお。頼もしいのお。すまないね、、ここかあら数百メートルもしないところに廃墟はあるぞい、気いつけるんじゃぞ。かなり手強いと思うからな。」
「待ってくれ。オレにも行かせてくれないか?。」
レオル達の背後からその声の主は現れた。背が高く、茶髪で、スリムな体格をしている男性だ。その男の名はクルージュといった。
レオルは知らない顔つきであったために少しばかり顔を強張らせ、何者だとぞばかりに警戒していた。だが、ミントとハムーにはどうやら見慣れた顔つきであったみたいだ。彼もまたこの街の住民であったがために。
ミント「あら、クルージュじゃない。久しぶりね。」
ハムー「久しく目にしてないうちにまた随分背が伸びたのぅ。」
クルージュ「やあミント、それにハムーさん。えっと・・その子は・・?」
レオル「レオルだ。今日初めてここに来たからまだ慣れてねぇんだけど、これから怪物退治に行くところだ。」
クルージュはレオルの発言に少々目を丸くして、この子がかと言わんばかりにレオルを観察した。
ハムー「そうじゃ、わしがちょうど此奴等に頼んだとろでのう。で、お主も協力してくれるのか? 心強いのう。」
クルージュ「あ、ええ。何だか騒がしい声が聞こえてきたもんですから、何だろうと確認しに来たらこの通りだったって訳です。」
ミント「レオルにクルージュまで居てくれるなんて・・・これほど頼もしいことはないわね。」
レオル「ああ。何だかこの感じだとどうやら悪い奴じゃなさそうみてぇだな。味方は多い方が心強いぜ。」
レオルはクルージュへの警戒心を解いて、表情晴れやかにそう言った。ハム―に怪物には十分注意して慎重にと再度念を押され、3人はハムーの壮大な屋敷の裏の小道へと足を運んでいった。クルージュはレオルのことをまるで親身にでもなったかのように、心配そうに見つめながら歩いていた。しかしレオルは顔を火照らせ、顔全体をギラギラと輝かせながら一歩一歩進んで行く。レオルは胸を躍らせて、内心ものすごくワクワクしていた。ミントも相変わらずの愉快な顔つきで廃墟を目指していた。
しばらく歩くと、3人は廃墟に到着した。街の中心部とは大違いの雰囲気であった。太陽は真上にしっかりと輝き、灼熱の光を地球全体に確かに浴びせてはいるが、ここはその光さえも微かにしか届かないほど木が密集していて、まるでレオルの住み着いていた山のような場所であったために、3人はまるで街とは別世界にいるように感じていた。
ミント「この近くに居るみたいね、でもどこにも見当たらない。うーん。本当に住み着いてるのかな?」
クルージュ「気を付けるんだ。気配はあまり感じられないが近くに何か異様な気配を感じるぞ。」
レオルは野生以上の嗅覚を生かして、怪物の匂いを察知してそれを手がかりにして場所を特定し始めた。
レオル「どうやらこの奥に居るみたいだぜ。匂いがプンプンすりゃ。」
レオルがそう言うと、3人の数メートル先にある中くらいの大きさの木々の影から、得体の知れない怪しげな音が鳴るのを3人は捕らえた。その場の空気が一気に緊迫に張りつめられていき、やがてその音は次第に3人の耳元に近づいていく。
ミントは体勢を低くして身構えた。クルージュも同じく腰を低く落として、戦闘態勢に入った。一方レオルだけは堂々と胸をドンと胸を前に張り、さあ来いとばかりの姿勢をとった。草木が揺れ始め、レオル達の緊張はさらに高まっていく。そして、3人の眼前にその魔物は姿を露出するのであった。