#3 キャリア
3話目になります。小説らしい堅い表現技法などは使っていません。読みやすさとわかりやすさを意識して書いています。まだまだ話は始まったばかりですが今後もよろしくお願いいたします。
山奥を出て、新たなる一歩を踏み出したレオルはミントという少女と出会い、彼女の住む町であるデゴル街へと向かった。デゴル街は世界でも有名な都会で、豪華な邸宅や高層ビルが数多く並び、様々なアトリエや観光名所が存在する。車は絶えず走り続け、日中は生計を立てるために多数の市民が労働をしている。レオルとミントは山を出て数時間歩いてそこへ到着した。
ミント「着いたよ。」
レオル「うおぉ! 前に来た街より全然広ぇや、、でもやっぱ臭ぇな・・。」
山の自然に囲まれた清涼な空気に慣れていたレオルにとっては、やはり都会の空気は居心地が悪かったようだ。工場の煙や車の排気ガスなどの汚染物質により大気が多少汚れていたために・・
レオルは鼻元を押さえながら口呼吸をし始めた。ミントはそんなレオルの様子を見て、内心くすくす笑いながらレオルに話しかけた。
ミント「あなた本当に鼻が敏感なのね。まあすぐに慣れるよ。」
レオル「お前こそよく平気でいられるよな、オレには結構参っちまうな、ゲホッ、ゲホッ。」
レオルが少々咳き込むとミントは妙に声のトーンを高くしてこう言う。
ミント「我慢我慢。 これから町長さんの家まで案内するよ。」
いささか空気に慣れてきたレオルはミントと目を合わせ、興味を抱くようにしながらミントに問いかけた。
レオル「そこに怪物が住んでんのか? とてもそんなふうには見えねぇんだけどなあ。」
ミント「ああ、違う違う。怪物は町の人外れの廃墟にいるとみて間違いないの。実は町長さんに強い人を探してきてほしいって頼まれてるんだ。だからこれから町長さん家まで行くよ。」
レオル「へぇ、んでもよミント、こんなに広い街ならオレよりも強ぇ奴が1人や2人いてもおかしくねぇと思うんだけどなぁ、そんなにその怪物ってのはヤバい奴なのか?」
ミント「んまあ格闘技のチャンピオンとかいろんなスポーツ選手もここにはいるけどね、キャリアを使える人があまりいないからどうしても頼りないんだよ。でもあなたはそんな人達なんかよりずっと強いと思うの。私の目に狂いはないはずだわ。」
レオルは、笑みを浮かべながら拳を胸に当てて言うミントに、自分の力を
見込まれていることに素直に顔を綻ばせ、若干照れ気味になった。だが同時にレオルには1つの疑問が生じていた。それはミントの言っていた‘キャリア’という言葉であった。聞いたことのない単語であったために、学校などの教育施設に通った経験がないレオルの頭は多少混乱しつつあったが、すぐさまミントに問いかけてみた。
レオル「まあ、山の猛獣はかなり大物もいたからな。で、キャリアってのは何のことだ?」
ミント「ええ!! あなたキャリアの使い手じゃなかったの? そんだけ動けるのに?」
てっきりキャリアを使えるものだと勘違いしていたミントは一瞬困惑したが、ずっと山奥で暮らしていたとレオルから聞いたことを思い出したので合点がいった。
レオル「知るかよ! なんかの道具なのか? もしかしてキャリアが使えないと怪物倒せないっていうのかよ! オレは今、初めて聞いたぞ。」
ミント「まあ、無理もないかしら。ずっと田舎で暮らしてたんだもんね、見たこともないはずか。簡単に言うとキャリアってのはその人の潜在能力みたいなもんだよ。こいつを習得するには容易じゃないの。誰かキャリア使いから直々に教えてもらうか、キャリア養成施設に行って手にいれるしかないわ。言葉で説明してもあんまりわからないと思うから特別にちょっと見せてあげる。」
ミントはそう言って、真剣な表情をし始め全身の神経を1つに集中させた。すると、ミントの周りを取り囲む空気の波長が変化し、風速がすこし増した。レオルの青くとがった髪がなびき始めた。レオルは街の強烈な空気の臭いも忘れて、その様子を口を横に少し開きながら、目を光らせながら眺めていた。
ミント「・・どう? 見える? 私の周りから空気の乱れる様子が。私の方に吸い寄せられている空気が。」
レオル「ああ、見えるぜ。すっげぇー。こんな能力が隠されているのかぁ。そういえばオレの親父も炎を出していた!! まさか、あれがキャリアの能力だって言うの?」
2年前にバルバ村を襲撃したゼブラとレオルの父デンが最後に戦っていた時に、泣きながらその様子を見ていたレオルは、あの不思議な現象は何だったんだろうとずっと記憶の片隅に疑問を抱いていた。そしてその正体がキャリアだったということが今わかり、1つの謎が解けてレオルはとても気分が高まっていた。はやく自分も手にしてみたい。デンみたいな炎を自分も出してみたいと、この時強く思っていた。レオルの心臓の鼓動は一気にペースを増して行き血流が瞬く間に良くなっていった。
ミントはレオルがキャリアを見たのを確認して力を抜き、吸い込まれていた空気が元に戻っていった。ミントは額から少し汗を流していた。
ミント「キャリアの能力は無限に存在するの。その人の想い、こんな能力がいいと強く理想していけばその力が手に入れることが可能よ。ただそんなすぐ簡単に手に入れられるもんじゃないの。訓練を受けてキャリアをうまく操れるだけの体が必要不可欠になってくるわ。ただし、手に入れられる能力、すなわちキャリアファカルティーは1人1つまで。2つ以上の使い手は見たことないわ。どんなキャリアでも使い方次第でいくらでも応用が利くのが一番の特徴かな。」
レオル「へへ。オレも後で絶対キャリアを手にいれてもっと強くなってやら。でもキャリアなしでもオレは全然戦えると思うぜ。その怪物とやらを倒したらその養成所っちゅうとこに行ってやる。」
キャリアは使用者本人の収容力を超越しない限りは、本人の強く念じたキャリアファカルティが習得可能。ただし、一度習得した能力は後から変更することはできない。習得した能力の派生能力であれば、いろいろと技を出しキャリアをものにできる。上級の使い手ともなると、自ら技を見出して己の技量を高め、1つのキャリアから多彩に渡り技を繰り広げているものである。一般市民は通常このキャリアの存在は夢幻と化していて、オカルト的なものとして扱われている。なぜなら基本、キャリアの使い手は、素性を知らない相手に自分の能力を見せびらかすような愚かな行為は決してしないからである。お互いにどんなキャリアファカルティーを所持しているのか全く読めないからこそキャリアには奥があり、扱いが高度で深いものなのである。
ミントは一通りキャリアについての説明をレオルに話すと、デゴル街の町長の住んでいる屋敷へとレオルを案内した。屋敷はレオルが目にしたことのあるはずがない立派な住居であった。外からは窓が何十枚も見え、公園ほどの広さのある庭には多種多様な動植物が生存していた。屋敷のてっぺんにある煙突からはモクモクと煙が立っていた。レオルは終始驚愕するばかりであった。
レオル「ここが町長の家か。お城みたいだなぁ。」
ミント「ふふ。ちょっと待っててね。今から町長さん呼んでくるから。」
ミントはそう言って屋敷の庭に入っていった。しかし、その時上空からやや甲高い声が2人の耳に聞こえてきた。
「その必要はない。わしならここにいるぞ。」
レオルとミントは眉を上に動かし、自然と家の屋上へと目をやるとそこには太陽の光とうまく同化した町長の姿があるのを発見した。そして、町長は家の屋上からレオル達のいる目の前を目がけ、勢いよく飛び跳ねたのであった。