#18 電体核生虫アハトーガ
18話目になります。10話、11話と比較してゼウスの変化に注目です。
そして今回は一部残酷描写が含まれていますのでご了承ください。
その通路は1Fと同様に全体が不気味な赤いランプで僅かに灯っているだけで薄暗い。歩いていく途中に、重力が通常の3倍となる空間が存在した。そこではレオル達は、体重の負荷が増強し、足の軸への負担で全身が疲労して、なかなか前進できずにいた。だが何とかその空間をも潜り抜けると、いよいよボスモンスターの潜むフィールドに足を踏み入れることとなった。ナゴは今一度念を押してそのモンスターの攻撃パターン、動きなどを説明する。それを聞いたレオルは奮起して胸が早鐘のように鼓動をし、目蓋を閉じても瞳の奥がギラギラと光っているようであった、野生の習性なのであろうか、ミント・クルージュと共に怪物のビーフを倒しに行こうとした時も同じような激昂を体感したレオル。1人勝手に鬼人のドリューを倒した時もそうだ。どうやらワクワク感が止まらなくなるようだ。一方ブレイドは涼しそうな顔で正面を見つめる。大きく背伸びをして、屈伸運動を始め、軽く「さあやるぞ」とばかりに飛び跳ねる。密室での疲労感など遠に脳裏からは消えてしまったみたいのようだ。ゼウスは先ほどの一件で、ナゴの登場により名を口に出すまでには至らなかったが、この上ない孤独と寂寥を胸に抱いていたのがあっという間に消えかかり、レオル達の温かさや純真さに触れるうちに分厚い氷が割れるような体感をしたため、胸のときめきを覚えている。お前は1人じゃない・・・・と心の奥底でもう1人のゼウスが耳元で囁くようでだった。期待と喜びと恐れが混合した興奮。眩しい・・・・・何年も陽の光を浴びていなかった所からのそれは目が見えなくなりそうなほどであった。
ナゴ「行くわよ・・覚悟はいいわね。」
レオル「どんと来い!」
ブレイド「もっちー~」
ゼウス「臨む所だ。」
そして、レオル達は脅威のボスモンスターと対峙するのであった。
「電体核生虫アハトーガ」:ピンク色の体表に巨大な1つ目、8本の手と2本の足、全長約3mほどの流動に近い生物である。そのフィールドには全部で5体の受験者の死体が転がっていた。服が焼け千切れたまま死んだ者や、夥しい量の赤い血を流して死んだ者などがいた。その悲惨な様子を目の当りにしてレオル達は動揺を隠せないでいた。
「ガギグギギギギギァァァ!!」
ナゴ「・・コイツよ、口から出る粘着液に触れたらアウト、感電死するわ。」
ブレイド「わわわぁ~人死に過ぎだって・・・」
レオル「・・ひでぇ殺し方だな・・・」
ゼウス「うろたえるな・・来るぞ!」
アハトーガは4人を巨大な1つ目で捉えると同時に、8本のリーチの長い手で攻撃をしてきた。殴るというわけではなく捕まえようとしている。拘束して電撃を与えたいがためであろう。4人は四方八方から襲ってくるピンク色の気味の悪い手を全て見切り、身体を小さくしながら回避する。休息の余地を全く与えずアハトーガはネバネバとした唾液を垂らしながら、8本の手を連続して巧みに操る。4人は回避に勢力を使い切り反撃の猶予が与えられないでいる。じわじわと体力を削り持久戦に持ち込もうとしているようだ。呼吸が荒くなり始めるレオル達。既に負傷を受けたナゴにとっては苦痛極まりない。只でさえ激痛に耐えここまで来たのだから・・・避ける旅に出血量が増して意識が朦朧としてくる。アハトーガは4人を攻撃したまま口元を膨らませ、黄緑色の粘着液をレオルに向けて飛沫させた。レオルは低く屈んでそれをやり過ごす。頭上を通過する時に、数滴だがレオルの青髪に付着したため頭がチクチクとトゲが刺さるような感触を味わった。
レオル「イテテテ、チクチクすんなこの液体・・電気か。」
ゼウス「チッ、このままではオレ達のスタミナ切れで終わっちまう・・・・いっそのこと切り落とすか・・・柔らかそうだな。」
アハトーガはゼウスが剣を抜く素振りを見せる前に再度粘着液を飛ばす。だがゼウスは勢いよく真上に跳躍してそれを回避する。ベチャッ。粘着液が君の悪い耳障りな低音を立てて壁に張り付く。そしてゼウスは剣を抜ききり、襲ってくるアハトーガのピンク色の長い手を次々と斬り落とすのであった。
「ガギヤャャャャャ!!」
レオル「あいつ!!」
ブレイド「ヒョー、、さっきとはまるで剣裁きが違う!」
8本のあった手は瞬く間に2本となっていた。アハトーガは悲鳴を上げながら悶絶している。レオル達への攻撃も止み、一時場は落着する。
ゼウス「気持ち悪い生物め・・・散れ!!!」
ひるんでいるアハトーガに奇襲をかけるゼウス。疾風の如く駆け抜け斬撃を8回入れて戻ってくる。ゼウスは剣を背中に戻し戦闘態勢を解除する。
ゼウス「・・ふん、終わったぞ。」
レオル&ブレイド&ナゴ「!!!!」
「ガャギャャャャャァァ!・・ゴァヤャャャャ!!」
ものすごいひるみ声を上げ、全身から緑色の血が飛び交うアハトーガ。そして次の瞬間、顔面、胸部、腹部、手足と体の部位に亀裂が入り込み、一気に前進バラバラになってその肉体は崩れさった。レオル達はその光景にただ驚くばかりである。
ナゴ「・・嘘!! 一瞬であのモンスターが!!! 信じられないわ・・」
ブレイド「黒髪君! 君そんなに実力があったのかよ!! いやー~~見事だったな~~ちょっと見直しちゃったかも・・」
レオル「うおぉ!! すっげーな今の剣技! あの体勢で8回も斬るなんてよー、ホントに強かったんだな、、えっと・・・・・・・」
言葉が詰まるレオルを見て、ゆっくりと目を閉じて開け、口角に少し笑みを浮かべながら、体が漲りわたるような心持ちで、ゼウスはようやく自分の名を告げる。
ゼウス「・・ゼウス・・オレの名はゼウスだ。覚えておくんだな。」
レオル&ブレイド「!!!」
レオルは思わずギクリとし、ずっと待ちわびてたかのように胸を躍らせ、顔に喜ばしさを生き生きと動かせながら言う。
レオル「ヘヘヘッ、やっと名乗ったか、ゼウス! ったく、遅ぇんだよ。」
ブレイド「全くだ。オレ達に名乗る名はないとか言ってたけど・・あんじゃねぇか。」
その3人のやりとりに、少々混乱するナゴ。
ナゴ「!?・・・・何あんた達、今までその子の名前知らないでいたわけ?」
レオル「ああそうだぜ! コイツったらひねくれ者でよ、〈貴様らに名乗る名は無い!〉とか言ってずっとそうだったんだぜ。」
ゼウス「・・ケッ、知ったことか。」
ナゴ「・・ふふふ、なるほどね。面白い子達。」
ブレイド「あーあ、なんか物足りないいな~、オレも戦いたかったなー~~」
ゼウス「貴様らがノロかったせいだろ。」
レオル「チェッ、最初から突っ込めばよかったな、そうすればオレのツイスト列拳で・・・」
ナゴ「ふふふ、でもよかったわ。モンスターも倒れちゃったしね。」
ブレイド「呆気なかったな~美味しいとこは黒・・ゼウスに持ってかれちゃったし、うーん~~まあいっか。」
ゼウス「・・・斬れそうだったから斬った。それだけだ。」
ニョロニョロニョロ、ニョロニョロニョロ、突然地面にバラバラになっているアハトーガが動き始めた。4人は凍り付いたように驚き、再び緊迫した空気が張りつめる。バラバラになったパーツが徐々に1箇所に集まっていき再生を始める。流血した緑色の血も元に戻っていく。そしてピンク色の生命体は、パーツから、斬られる前の原型に容貌を変形させていった。8本の長い手が復活し、真ん丸い巨大目が4人を鋭く見つめる。グボボボボ、口から卵のような物体を作り出し、手で引き抜き、動揺しているナゴに向かって投げつけた。不意を突かれたナゴは応対が遅れてそれが左肩にへばり付く。そして高電流がナゴの体内に流れ込み発火する。ビリビリビリビリ、火花を散らして稲妻のように光り出す。ナゴは喚き声を上げて苦しみだす。既に傷を負った腹部には猛烈な激痛が走る。そして瞬く間にアハトーガは手で拘束し始め、電気の体表でさらに攻撃を続ける。
ナゴ「アアアアアアアア!!!!!」
レオル「ナゴ!!!」
ゼウス「!!・・なぜまだ生きてやがる!??」
「ガギグググギアァァアァァァ!!」
アハトーガは雄叫びを上げ3本の手で弱ったナゴの体内を貫通させた。
レオル&ブレイド&ゼウス「!!!」
そしてアハトーガはさらに電流を送り込む。
ナゴ「ギヤアアアアアアアァァァァァ!!!!」
ナゴの茶髪は高電圧の熱量で焼け焦げ、内臓破壊を起こし大量の血が全身から噴出した。そしてアハトーガは貫通させた手を引きぬきさらなく激痛を与える。白目になったナゴがそのまま地面に血を吐きながら落下する。
「ガァギャァァァァ!!!??」
ゼウスは再び剣を抜き、アハトーガの手を全て斬り落とす。その隙に3人はナゴのもとに駆け寄った。
レオル「おいナゴ!! しっかりしろ!!」
ブレイド「・・・そんな・・・」
ゼウス「・・・・」
服が焼け焦げるどころか、胸部まで焼け焦げ、皮膚が剥がれ落ち、内臓部が剥き出しになっている。普段見えないはずの心臓が粉砕されているのをレオル達の目にははっきりと映し出された。出血多量すぎてもはや救済の余地が皆無であった。
ナゴは朦朧とする意識の中、レオル達に顔を傾けて懸命に手を伸ばす。
ナゴ「ア・・アア・・・油断・・・・したわ・・・ね・・まさか・・・ざいぜい・・・ずるとは・・・ア・・・ア・・ゔぁたしは・・どうやら・・・ここまで・・・みだい・・ね・・・ゴハァァァ!!・・・ぜっだい・・・クリア・・・・ずるの・・・・よ・・・・・」
その言葉を最期にナゴの懸命に振り上げた手は音も無く力を失い、レオル達の前で息を引き取った。そしてすぐさま・・・ニョキニョキニョキニョキ・・・斬りおとされたはずの8本の腕が胴体に集合して接着剤のように張り付き、原型を取り戻す不死身の生命体・・・・・・・・・・アハトーガ。




