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キャリアマスター   作者: career master
キャリア試験編
17/32

#17 弛緩

ゼウスがレオルとブレイド目掛けて斬撃を飛ばした。2人は左右に散らばり回避する。間を置かず2太刀目を入れ込んでくるのかと思いきや、ゼウスは激しく息を乱し、耐え難い焦燥感を味わう。自分の斬撃があっさりと交わされての少しの動揺もあったが、それ以上に心のモヤモヤ感、自分自身との葛藤、普段隠れていたもう一人の自分が表に出てくることで生じる動揺のが強く作用していた。半ば我を忘れたため、理性を必死に保とうとしているために余計ではあったが・・・


レオル「おいどした! 兎の喉を掻き切るくらい簡単にやれるとか抜かしてたくせによ!」


ゼウス「うるさい!! ウオオァァ!!!」


再び斬撃が何度もレオルとブレイドに迫りくるが、乱心し、剣と意気投合できないゼウスのそれは威力半減という結果を招かざるを得なくなったため、擦過傷すら負わせられない。


ブレイド「おっそい~」


レオル「やめろ!! 体力の無駄だ!」


目の前の現実を断ち切るかのように、うろたえながら叫ぶゼウス。やがて自分自身も統制できないほどになっていく。


ゼウス「くっ!(何を・・どうしちまったんだオレは!・・・こんなことが・・)・・ほざけ!!」


ゼウスは大声を上げながら剣を振り回すが、レオルはその攻撃を避けつつゼウスの目の前まで接近する。ゼウスがそのレオルを視界に捕らえた時にはもう遅く、心が大波のように荒れ狂い、収拾のつかないほど混乱していた。がむしゃらに片手剣を振り回そうとしたが、レオルに阻止される。


レオル「やめろっつってんだよ!!!」


ゼウス「ドアァァ!!」


レオルがゼウスの顔面を殴り飛ばし、ゼウスは体勢を崩す。猛烈なレオルの気迫にさらに動揺して、激しく息を荒げるゼウス。口元から血を流して息を切らす。


ブレイド「あっちゃー・・(やっちゃった・・)」


レオル「どうかしてるぞお前!! 何でそうなるんだ!! もっと冷静になれよ、そんなに自分自身をさらけ出すのが嫌なのか!! そんな哀しそうな目しやがって・・過去に何かあったのかもしれねぇが・・・そのせいで、殻に閉じこもりっぱなしじゃ何も始まんねぇぞ!!」


レオルは戸惑うゼウスの目をはっきり捕まえて、ゼウスの心の奥底に埋もれている明るい部分に必死に呼びかける。ゼウスの瞳孔が開き、レオルを見返す。ゼウスはさらなる狼狽を見せ、惑乱する。そして苦しそうにレオルに言う。


ゼウス「う・・・・ふん、貴様がオレの何を知ってやがる。」


レオルはつかさずゼウスの闇に沈んでしまった目を鋭く見つめて説得を続ける。


レオル「知らねぇよ! 知らねぇけど・・・・ほっとけねぇんだよ!! お前の・・・・その面見てるとよ! 自分で自分の首を締めちまってるみてぇだ、まるで何かに憑りつかれちまってる・・そのせいで自分を見失っちまうなんて不幸だよ! 無理にとは言わねぇけどさ・・・・もっと気楽にやっていいんだぜ、変に自分を制御すんな! もっと明るくなれよ!!」


ゼウス「!!!・・・・・(何だよ・・・何だんだよコイツの真っ直ぐで迷いのない目は!・・・・なぜ・・・なぜだ・・・・何でオレなんかを・・・)・離せ!!・・・なぜだ! さっきまで貴様はオレを敵視してやがったくせに、、オレは誰とも関わらん・・・・関わってはいけない・・・もう誰とも・・・」


レオル「本心じゃねぇ。」


ゼウス「!!?」


レオル「オレには分かるぜ、オレ達とあえて距離取って、1人で全部荷物背負って暗く生きてんのがよ・・短い付き合いだがお前の目や顔見りゃよく分かるぜ・・・・怯えてんだろ?・・まるで何かと闘ってる・・でもそんなことして何になるってんだ!! 辛ぇだけだって!!」


ゼウスは心の奥底に埋没してしまっていたコアのような部分をレオルに強く刺激されて、何とも言い表せない複雑な気持ちになっていく。そして深い葛藤を覚えた。暗い底から光が差し込んでくるような感覚。まるで自分が昔経験したようなそれに似ていたため余計に困惑する。そして2人のそのやりとりに思わず言葉を失ってしまうブレイド。気まずさが増して何ともやるせない表情を浮かべていた。自分も何か言わねば・・と固くなった唇を動かし始める。


ブレイド「・・・お、おう。何だかんだ言って3人揃ってここまで来たからな・・・・名の無い黒髪君が喧嘩売ってくるのは事実だし、ムカつくからオレ達が気分を害するのはしょーがないけど~~、でもなー~~何かしっくり来ないんだよなー、うーん、何て言えばいいんだ~そのー・・・無茶してオレ達にいちゃもんつけてる感じはするんだよな。」


ゼウス「き・・・・貴様まで!・・・・オ、オレは・・・・何も・・・・」


レオル「(ブレイド・・)・・へへ、いいじゃねぇか! 自分の気持ちに正直になれよ。お前は誰が何と言おうと立派な1人の人間なんだからな!・・えっと・・」


ゼウスはその言葉に強く心を打たれ、葛藤から抜け出そうとしていた。コイツなら・・・コイツらならばまた心を開いてもいいのかもしれない・・そんな思いを馳せながら、瞬きを1回ゆっくりさせ安堵感に浸り、ついに自分の口から名を語ろうとした。


ゼウス「・・ゼ・・」


ガラガラガラガラ。ゼウスが名を言いかけた途端に頑丈な鉄格子が、突然音を立てて上がったのだ。3人はそちら側に一斉に注意を向ける。するとそこには1人の人影が見えた。


「あんた達、ここはハズレのルートだよ。」


レオル達よりも一回り背が高く、スカートを履いた茶髪の女性が声をかけた。


レオル「何者だ!?」


警戒しながら尋ねるレオルに、その女性は自分のチップ番号を見せて言う。


「そんなに警戒しなくていいわよ。私はナゴ。あんた達と同じここの受験生。4番だから4番目のチームの人ってことになるわね。」


ブレイド「・・ホント!? オレ達の他にもここまで来れた人がいたんだ~」


ナゴ「あら、失礼ね、そこの鉄格子は人が来ると開いたり、閉まったりする仕掛けなの。あんた達みたいにそこに掴まってたチームがいてね。私たちのチームが偶然発見して救助してあげたわ。ここから少し戻ったところに上部に抜け道があるの。でもね・・・・・その先の敵に・・うっ・・」


ナゴは敵の損傷を受け腹部から流血していた。その傷がナゴの身体に激痛を走らせる。


レオル「お、おい! 大丈夫か? ケガしてんじゃねぇか・・」


ナゴ「・・大丈夫・・平気よ。」


ナゴは手で合図を送りそう言った。3人は一先ず檻部屋から脱出して事情を探ることとした。


レオル「どこにも出る場所なくてどうしようかと思ってたとこだったんだ。とにかく助けてくれてありがとなナゴ。」


ゼウス「・・(20くらいか・・・この女、かなりのやり手だな)」


ブレイド「(年上呼び捨てかよ・・・・)、ここに来る途中にケガしたのか?」


ナゴ「・・いいえ。この先のモンスターよ。最初に入ったチップ番号1のチームは、2Fと3Fで脱落。番号2のチームはあんた達と同じくここに来て罠にかかり、私達4のチームが助け、合同でこの奥へ進んだわ・・・でも、私以外・・そのモンスターに殺されたわ・・・強すぎるの。何とか私は逃げ延びてきたんだよ。番号5と番号6のチームは見かけてないわね。あんた達は確か・・7番よね?・・・じゃあ5と6はここに来る前に全滅したわ。番号3の男は・・・おそらくクリアーしたんでしょうね。たった1人で・・・」


ゼウス「なるほどな、(あのピエトロとかいう奴か・・・)、で、そのモンスターはどんな奴なんだ?」


レオル「ここまで来たってことは相当な連中なんだろ? そんな奴らが全滅しちまうなんて・・・」


ナゴ「モンスターというより気持ち悪い生物ね・・・体がピンク色で手が8本もある。あいつの奥にエレベーターが設置してあったわ。きっと倒せば、このタワーは制覇できる。ゲホッゲッホ・・・妙な粘着液を飛ばしてくるの。電機製があって身体が麻痺する。それで無惨に全滅よ。行ってみれば分かるわ・・・・・・あんた達もそこそこ腕が立つんでしょ? ただの子供じゃないようね。どちらにせよあのモンスターを攻略しない限りキャリアは手に入らないわ・・・行きましょう」


ブレイド「てか大丈夫なの? その体で・・・」


レオル「そうだぜ、無理すんなって。」


ナゴ「・・子供に心配されるなんて・・・・平気よ。何ともないわ・これくらい。少し痛むけど・・・私を甘く見ないでちょうだい。」


こうしてレオル、ブレイド、ゼウス、ナゴの4人は来た道へ少々逆戻りをして、そのモンスターがいる通路に侵入していった・・・








































































































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