#16 ゼウスの内面
ゴロゴロ、ゴロゴロ、巨大岩石は最初はゆっくりと、次第に坂で加速度が増加して速さをつけて迫てきた。3人は腕を振り足を速く回転させ死に物狂いで逃走する。その傾斜角30度の坂はただ直線になっているだけでなく、左へ、右へ、左へと何回も巡回させる。ゴロゴロ、ゴロゴロゴロ、必死に岩を突き放そうと懸命に疾走する3人であったが、予想以上にその傾斜角が足の筋肉を疲労させ、時間が経過するにつれて足の回転速度が低下していく。どれほど登り坂が続いたのであろうかと思った矢先に、突然傾斜は緩くなり始め、今度は下り坂に姿を変える。3人はラッキーと思い、至極愉快な気分となった。体力が大分消耗されて汗だくになっていたので、回復するいいチャンスになる・・・・などという甘い思考は意味をなさなかった。下り斜面を利用し、さらに岩の重みで動摩擦力もほぼ作用しないため、その岩は見る見る速さを上昇させていく。
レオル「やべぇをこりゃ! 追いつかれちまう!」
ブレイド「嘘だ!・・ハー、オレはまだ死にたくねぇよー! ハーッ・・絶対逃げ切るんーだー!」
ゼウス「何処まで走ればいいんだ! まさかここも永遠ループなんてことは・・」
レオル「そりゃ・・ねーだろ?・・・ハー・・・」
ブレイド「・・うわぁ!!・・やばいやばい~、ハーッ・・ハー・・逃げ切るぞ!」
ゼウス「・・ハー・・(流石に疲れてきたぜ・・)、、!!!・・あれは・・出口だ!!」
レオル「うひょー!!・・・やったぜ、もう少しだ!」
その下り坂も終点に向かい、死の逃走劇も幕を閉じる。出口・・・とは言い難いが、天井が無くなると同時に足場も消滅している。その下は奈落の底で真っ暗闇の世界、3人は戸惑い、焦ったが、約10m先にロープがあるのを発見して一先ず安堵した。そして巨大な岩が迫りきるのと同時に3人は足場ギリギリの路面から思い切り踏み切って、走り幅跳びをする。上手くロープを掴み取り、その先の足場へと見事着地した。岩は奈落の底に深く沈んでいった。3人は息を切らし、汗で服がびっしょりと濡れている。
レオル「ふー、大分走ったなー、死ぬかと思ったぜ。」
ブレイド「ハー、ハー、疲れた~~腹減った~~」
ゼウス「・・ふん、だらしない・・・しかしここは何階だ、外部と内部ではこうも構造が異なっていやがるとはな・・」
レオル「確か5階まで行けばいいとか言ってたよな・・まあとにかく前進すれば必ずゴールに辿り着るはずだ! もうちょい頑張ろうぜ!・・ぐーーーーーう・・・」
ブレイド「ブハハハハハ、ナイスタイミングな腹の音だなレオル!」
レオル「・・お前だって腹減ったとか言ってただろうが! 動けばお腹だって鳴るさ。」
ゼウス「・・けっ、下品な音だな、低俗連中め・・・・・・ぐーーーーーーーう・・」
レオル「あ。」
ブレイド「あ。」
ゼウス「!!・・・・」
ゼウスの空腹の音が児玉のように響きを上げると、嵐が止んだように静けさが増す。ゼウスの顔は羞恥で見る見る赤く染まっていくと、笑いを堪えきれなくなったレオルが吹き出す。
レオル「・・・・ぷぶ、ダッハッハッハハッハハ、」
ブレイド「アッハッハッハハッハ、最高最高! 君のがよっぽど下品な音だよ、ハハッハッハハ、、」
ゼウス「くっ・・・・・・そやろー!!! ぶっ殺してやろうか!!?」
レオル「だってよー、お前の顔真っ赤っかで、しかもあのタイミングだもんなー」
ブレイド「いや~ギャグ戦高い! 負けた・・」
ゼウス「・・・己!!」
ゼウスは2人と面と向かっているのが恥ずかしくて溜まらず、逃げるように1人でさっさと進んでいった。その挙動不審な後ろ姿を見たレオルとブレイドは密かにクスクスと笑い出す。ぐっと恥辱を堪えながら振り向かずに前進するゼウスであった。そして3人は奥へと入り込んでいく。途中、上下左右からの槍が突き刺さってきたり、兵隊が刺客として現れたり、人食い鮫に追われながら水中を泳いだりと色々ありながら、しばらく進んでいくと道が無くなり行き止まりとなる場所があった。
レオル「あれ? おかしいな、行き止まりなんて・・」
ブレイド「道を間違えたとな思えないんだけどな~」
ゼウス「今度は何だ、また迷路か・・」
ガシャン。突然背後から鉄格子が落下して3人を密室に閉じ込めたのであった。その予想だにしなかった急な事態に混乱する3人。
ゼウス「何!!」
レオル「どういうことだ・・うっ、ダメだ・・ビクともしねぇぞこの格子。」
ブレイド「これってもしかして・・・・閉じ込められた!!?」
ゼウス「・・ここまで来たというのにか!・・」
レオル「おい! 空けろ! ここ空けろ!!」
鉄格子に必死に叫ぶレオルだったが口がないので返答するはずも無く、正面の壁もこれまた頑丈な鉄壁でとても破壊できそうになかった。床も隈なく調べ上げたが、脱出用の隠し通路は何処に用意されておらず、3人は9畳ほどの狭い密室に完全に幽閉の身となった。頑丈な鉄格子によって入口と出口を担う場所が封鎖されもはや為す術が無い。
レオル「チキショー、どうすりゃいいんだ、おいブレイド、何か方法は浮かばねぇのか?」
ブレイド「思いついてたらとっくに伝えてるよ~~あーあ、これからオレ達どうなっちまうんだろーな~」
ゼウス「クソッたれが、、食糧も何もないとは・・・飢え死にだけは真っ平御免だぜ・・」
レオル「でもまだ出れねぇって決まったわけじゃねぇだろ、そう諦めんなよ。」
ブレイド「部屋は調べ尽くしまったしなー~~、うーん、」
レオル「壁は固すぎるし、床や天井の仕掛けもねぇしな・・・」
ブレイド「あー~~~、なんか眠くなってきたなー、少し寝るか。」
大欠伸をして目を擦るブレイド、疲労が蓄積してきたものは無理だろう。灼熱、極寒、逃走と過酷なタワーを攻略してきたのだから・・
レオル「・・呑気な奴だなお前よー、」
ブレイド「・・え?、だってやることないんだもん~、敵も襲ってくる気配はないしさ。休めるときに休んどこうぜ。制限時間はないんだから。」
レオル「・・んまあ、悪くはない・・・かもな」
ゼウス「ふん、まるで遠足気分だな。」
ブレイド「黒髪くーん、そんなこと言ってすーっごく眠いんだろ? 顔に書いてあるぜ~~フハハ、」
ゼウス「眠くなどない・・・」
ブレイド「・・・ブハハハ、半目になってるや、ハハハハ、」
ゼウス「・・な!! 貴様、このオレを愚弄するとは、、もう我慢の限界だ、2度と口がきけんようにしてやる!!」
ゼウスは怒声を上げ、背中の剣を抜き出してブレイドに向ける。ブレイドは本気かとばかりに目つきを鋭く尖らせる。
ブレイド「何だよ、、君本気か? 先に喧嘩売ってきたのは君の方だろ?」
ゼウス「黙れ!! 貴様のそのノー天気な性格がどうも気に食わんのだ。それに貴様もだ!! こんなとこオレ1人でも十分だったのだ。」
レオル「おいおい何だよいきなり! そんなキレることか? オレだってお前のその上から目線の性格はムカつくけどよ、疲れてんのだって事実だし・・・大体お前、思ったことすぐ顔に出ちまうんだよ!! クールに気取ってんのかもんねぇが、そこがお前の面白いところでもあんだよ、ネタにもされるんだ
。だから諦めろ!!」
ゼウス「!! 何を・・・・・この野郎!!」
レオル「へん、お前の顔、仕草、このタワーに入る前と比べちゃ大分変化してるぜ。死んだような暗くて悲しい目ん玉してたのが明るくなってきてるのが一番の変化だ!」
ゼウス「ふざけ・・・・」
ブレイド「あー、それは確かにそうだな。感情豊かになったかも。」
ゼウスは最初何を言われているのか理解できず、脳が機械のように停止しかけたが、冷静さを取り戻し言葉を呑み込んだ。自分自身でもその微妙な心情の変化と行動に気づかぬふりをしてきたが、レオルとブレイドに指摘され現実に引き戻される。レオルに至ってはその純真な瞳で芯が折れることなく真っ直ぐと上手いこと核を突いてくるものだから、ゼウスは余計に混乱してしまう。剣を握っていた腕が若干動揺で震動しているのが、ゼウス自身いち早く気づいたので即座にそれを隠そうと剣を振る。
ゼウス「・・ふざけるな!! ここで貴様らは・・・斬る!!」
ゼウスは理性を保つため、レオルとブレイド目掛けて斬撃を飛ばしたのであった。




