#12 暗中飛躍
12話目になります。今回は少し衝撃の展開?
その独特の不気味さに3人は神経が凝結したような気味悪さを感じた。背中を氷柱で撫でられたように悪寒が走る。
レオル「誰だお前は! 何の用だ・・気持ち悪い。」
レオルはその長身の男に見上げるようにしながら言った。いつ奇襲してくるかもわからない、その気の狂った男を前に警戒態勢をとりながら・・・
???「フフフフ。いい目だね。とても美味しそうだぁ・・ペロッ・・・ボクはピエトロ。3人・・・か・・・君たちにちょっとだけ興味があったから話しかけただけさ。特に用はないよ・・・・今はね・・・じゃあ、検討を祈ってるよ、フフフフフ・・・ペロッ。」
そう言い残して3人のもとから去って行くピエトロという男。
ゼウス「けっ、2度と話しかけてくるな。虫唾が走るぜ。」
ブレイド「・・変態だ。あんなの初めて見たな・・きもー。」
レオル「・・何者だあいつ。舌舐め繰り回して・・食う気かよ。」
ブレイド「ほっとこーぜ、ああいうのには関わらないほうがいいって。頭おかしいんだよ。」
と言いながらも3人は内心、未知の恐怖に怯えていた。気持ち悪いを通り越して不気味さに変化している。ピエトロと名乗る男はその後も得体の知れない笑みをずっと浮かべていた。いつしか3人は会話が途絶えて、そのまま時間が経過していく。番号2のチームが入り、その1時間後に番号3のチーム・・ピエトロがタワーに身を潜めていった。
一方その頃、チップを手にできなかった大勢の受験者は試験官のムースに苦情を連発させていた。
「ふざけるなふざけるな!!」
「エントリー代返金しろ!!」
「このままノコノコと帰るなんて・・・冗談じゃないわよ!!」
ムース「お黙りなさい!! あなた達は敗北者です。チップも獲得できなかった愚かな者達にこの先のタワーがクリアできるはずありませんこと。儚い命が無駄になるだけです。潔く今回は引き返しなさい。」
ムースは脱落者達をなんとか帰宅するよう説得を続けるが、なかなか鎮圧できる気配がない。我慢に耐えきれなくなった1人が強引に階段を駆け上がろうとしてムースに殴りかかった。
「どけどけどけ!! てめぇをぶん殴って落としてでもオレは行くぜ!!」
ムース「・・ダメでしたか、口で言っても分からず屋には、もうやむを得ませんね。」
ムースは次の瞬間、腰までかかる長い髪を針のように尖らせて襲いかかってくる男に、その長い髪を操って腹部に貫通させた。それは背中まで貫通し、重要器官に致命傷を与える結果となった。男は身動きが取れなくなり、コップから水が溢れ出すかのような勢いで嘔血する。ざわざわとしていた会場が一気に静まり返る。ムースは男の体から髪を縮こませ引き抜き、付着した血痕を激しく左右に振り乾燥させる。その男は床に横たわり数秒間ほど体を痙攣させ、指先を僅かにピクピクさせていたが、まもなく停止した。
「・・・・おい冗談だろ・・・・」
「何よ・・・ここまでしなくても・・」
「えげつねぇ試験官だ・・・死んでる・・」
ムース「これでお分かりいただけましたか? あなた達はキャリアを手にする資格はもうないのです。次回またお越しください。それでも諦められないというのであれば・・・・・この私のキャリアで1人ずつ突き刺してしまいましょうか!!」
「キャーーーーー!!!!」
「うわぁー逃げろ!! 殺される!!」
「ぼったくり試験だ!! 2度と受けるかこんなもの!!」
「オレはまだ死にたくねぇ!!!! もう御免だ!!」
会場にいた受験者は一斉に走り出し、巨大竜から逃走するかのように次々と去っていった。ムースは澄ました顔つきでその群衆を見つめている。
ムース「ふふふ、少々手荒だったかしら。でも正当防衛よ、許してちょうだい。」
ムースは心臓が停止したその男を見ながらそう言って、ピタゴラタワーの様子を見に行こうと再び高台へと上がる。会場から誰もいなくなったのを確認するとムースはゆっくりと奥へと進んでいく。しかしその途中で、ムースは自分の背後に忍び寄る得体の知れない気配に気づきふと振り返る。
ムース「・・まだいたのか!・・・・・・誰もいない・・・・」
振り返るも誰も見当たらない。些か待機してみるも気配が消失したため、気のせいかとばかり再び前を歩き始める。だが、ムースは再度同じような気配を感じ取る。
ムース「誰だ!!・・・いるなら出てこい。」
すると、足音を立て、会場に戻ってくる1人の男の受験者がいた。紺色の髪で感情を殺した能面のような表情をしながらムースに1歩1歩接近していく。ムースは1目みてその男がただの脱落した一般受験者でないことを見抜き警戒する。
ムース「・・今回の受験はもう終了です。まだ帰宅していなかったのですか? はやくお引き取り願います。こちら側も負け犬にいつまでも付き合っていられるほど暇じゃないのよ・」
紺色の髪の男は、床に寝そべっている血だらけの男性の顔面を踏みつけながら、高台にいるムースに話し始めた。シャープという名である。
シャープ「アンタも随分強引な手口を使うもんなんだね、好きだよオレ、そういうの。まあそんなことは置いといて・・・さて、邪魔な雑魚共は諦めて全員帰宅した。ちょっとこの先に用事があるんだよね。通してくれる?」
ムース「聞こえなかったみたいね、どういう事情であれチップを持ってない者は帰るしかないのよ。」
シャープ「試験なんてどうでもいいさ・・・そこをどいてくれ。」
シャープは凍り付いた仮面のような無表情でムースに接近していく。ムースは物怖じしてるのを悟られまいと声を張り上げる。
ムース「通しません! 通っていいのはチップを獲得したものだけ。お帰りなさい!!」
シャープ「・・だから試験なんて興味ないって。これから盛大な儀式をするんだ。いいから黙ってそこ通してくれないかな? あまり手間暇かけさせないでくれ。」
淡々と言いながらシャープは足を休めることなくムースの足元まで近づく。
ムース「まだ試験中よ! 誰だか知らないけど邪魔はさせない。力ずくで排除する。」
シャープ「ふむ、困ったなぁ、(殺すと騒がれるし・・あ・・名案発見!)」
ムースは先ほどと同じく長い髪を動かし、剣のように尖らせてシャープを襲った。しかし、シャープは高く後方に飛び、宙で鮮やかに1回転して攻撃をかわす。ムースは髪の先端を分裂させて鞭のように変形させ、至るところにサボテンの針のようにトゲトゲを生やす。そしてシャープを何十本もの髪製の鞭で攻撃にかかる。だがシャープは軽やかに体を跳ねたり、捻ったりしながら余裕綽々で身を交わしていく。ムースは徐々に焦燥感に駆られていく。ムースのキャリアは ‘武髪士’ 自身の髪を自在に伸縮したり、強化することが可能だ。針のように尖らせて突き刺したり、鞭のように使用することも容易い。長い髪で相手を拘束し、縛りつければ勝勢であろう。ムースは自分のキャリアが尽くシャープに攻略されるのを見て動揺し、さらに激しく髪を上下左右に振り回す。
ムース「何者だ!! 受験者ではないな!」
シャープ「・・よっ、よっと。変わったキャリアファカルティーだね。なかなか避けるのは難しい・・・何を言ってる。オレは今日初めからこの会場にいた。まあ一応受験者ではあるな・・・だが既にキャリアなんてものは遠の昔に修得済みだがな!」
ムース「うっ!!!!?」
突然シャープは目を光沢のように光らせると髪を操っていたムースの全身が硬直する。両手両足が麻痺して動けなくなっていた。髪の動きも封じられている。そんな状態のムースに相変わらずの無表情でシャープは接近する。
ムース「・・・何をした・・?」
シャープ「残念、面白いキャリアだったけど、そんな技オレには通用しない・・・どうだ? 動けまいだろ?・・・・ハハハハ、その恰好ならうまく儀式が成功しそうだ。都合上アンタの肉体に移動させてもらうよ。」
ムース「!! 何ですっウワッ!!・・・ア・・・ア・・体が・・・・体・・・・が」
シャープはムースの腹部を素手で突き刺し、そこから少し細工をして、突き刺した箇所から体全体を同化させていく。血は1滴たりとも滴ることなくシャープの肉体がムースに吸収されるかのように一変に入り込む。ムースは悲鳴を上げるどころか全身の感覚が麻痺して声すらまともに発せないまま寄生されていく。そしてシャープの肉体は完全に姿を消し、残されたのはムースの肉体のみであった。そこにムースの理性は皆無であり、人格ごとシャープに乗っ取られてしまったのだ。
ムース「・・よし。これならバレずに潜入できるな。やや動きにくいがこれで我慢してやろう・・・」
キャリア試験の裏で何らかの陰謀を企む者・・・
レオル達の運命はいかに・・・




