#10 3人1組
10話目です。 重要キャラが2人初登場します。
レオルは回廊を抜けて、いよいよ大きな扉の前に足を運んだ。
ここを開ければ試験が受けられる。キャリアの切符を手にすることができる。そんな思いを募らせ、心臓が早鐘のように鳴り響き、扉を押しているレオルの指先までそれが伝播する。初めてミントと出会い、冒険へ出発した時に似たあの興奮、あの感覚がここに再現されてくるのであった。レオルの緊張はさらに高まり、そして扉をゆっくりと力強く押し進めるのであった。
扉を開けるとそこは、いかにもキャリア受験者であろう者達が勢揃いしていた。ざっと400人程度はいるであろう。レオルは人の密集した空間に足を踏み込むと、ここが本会場かとばかりに右手を額にくっつけ、バルコニーから遠くの絶景を見渡すかのように、その人だまりと共に会場全体を眺める。身長150cmのレオルにとっては、周囲の大人達が視界を遮断してしまいイマイチの眺めではあった。
片手で腕立て伏せをする者、オレが最強だとばかりに仁王立ちする者、緊張でガタガタになっている者、独特のオーラを醸し出し何らかの達人に違いないと思わせる者などに分類できると言えよう。そしてそこには、先ほどレオルが入り口で対面したあの山吹色の髪をしたブレイドという少年もいた。ブレイドは周りの大人達を掻い潜り会場を無邪気に駆け回っていると、レオルを視界に捕らえたので足を止めて、レオルに近づき声を掛ける。
ブレイド「あ! 君はさっき入り口にいた子! 本当に受験者だったんだねー」
レオル「お前は・・さっきの生意気な奴! つーか、お前こそ試験受ける身なのかよ?」
ブレイド「当たり前だ! そのためにわざわざ高い金払ってエントリーしたんだからな~ 見た感じなんか大人だらけだなー、(弱そうなのばっか・・) 君、何才? オレは12だ。」
レオル「ホントか! オレも12だぜ。」
ブレイド「そうなのか! だけどオレのが実力は上だと思うがな~」
レオル「なに!! お前こそへぼそうじゃねぇか! オレはこの前ドリューって奴を倒したんだぜ、変身して鬼になる奴だったけどよ、、あいつのパンチはもう滅茶苦茶に強かったんだ。だけどそいつをキャリアなしで倒したんだぜ。」
ブレイド「・・ドリュー?・・・うーん~~聞いたことないなぁ~~、ごめん、イマイチ凄さが分かんない。実際この目で見てないうちは何とも言えないな~、まあそこそこ腕は立つってことか・・・・オレはブレイドってんだ、君は?」
レオル「オレはレオル。キャリア手に入れて、うーんと強くなってゼブラを倒すのが目標だ!」
ブレイド「ゼブラ!?・・・・」
レオル「ああ、お前も知ってんのか?」
レオルが興味深そうに尋ねる。
ブレイド「うーーーん~~知らない~~~」
ブレイドはニッコリと微笑んでそう言う。レオルは拍子抜けしたのか言葉が詰まる。
ブレイド「んだよその顔は! そんな有名人なのか? そいつは・・ オレあんまり世間とかに詳しくないから分かんないの~~」
レオル「あ、そうかそうか、まあいいや。どっち道オレはそいつを倒さなきゃいけねぇし、」
ブレイド「ふーん、そうなんだ~大変そう~、ところでキャリアは何にするんだ? もう決めてんのか?」
レオル「そうだな・・・色々考えたけど、親父が炎出してたから、オレも炎にすることにしたぜ。」
ブレイド「炎だって!? アッハッハッハ、いまどき炎?」
レオル「な、何で笑うんだ!! そういうお前はどうなんだ?」
ブレイド「炎なんて時代遅れだってことだよバーカ、(少なくともオレは1度も見たことない)、オレはそんなダサいのより水さ! 水こそがこの世で最も力があり、最も恐れなければいけない、人類の要のような物質じゃないか! だからオレはその水の力を手にし、水使いになるんだ。君とは違うのさ~」
レオル「水!? そりゃねーぜハハハッハハッハ、クルージュみたいな氷ならカッコいいし、全然いいけどよ、水・・・・・お前の方がよっぽどだなブレイドよ。」
ブレイド「な! 水をバカにするとはいい度胸! 炎なんかより百倍マシだ!」
レオル「いいや、炎だ!」
ブレイド「ありえない、水だ!!」
レオル「炎!!」
ブレイド「水!!」
両者は互いに火花を散らして言い争いを始めた。炎と水。性格は正反対のため、もし相見えることがあったなら相性は最悪となることであろう。しばらく両者はぶつかり合っていたが、間もなく終了する。会場の奥の壁が突然剥がれだし、人が現れた。空いた壁の辺りから、床が出現し、ステージ舞台のような場はでき始める。管理棟の役員が何らかのスイッチを操作しているのであろう。会場の一同はざわつきを沈めつつその様子に注目を向けていた。その高台に2人の試験官であるアールドとムースがゆっくりと静かに歩いてきた。アールドは何年も鍛錬をした豪腕の持ち主の男性で、ムースは髪が腰までかかっているロングヘアの女性である。
レオル「誰か出てきたみたいだぞ。」
ブレイド「いよいよ始まるってことさ、試験が。」
アールドが拡声器を使用して会場の一同に話し始める。
アールド「全員静かにしてこちらを向け!! (今回も人数多いな・・・またあれで決まりだな) 今、私がここに出てきたということは、お察しの通り、これよりキャリア試験を始めるということだ! 先に言っておくが、キャリアを手にする者、或いはそれを志す者は命懸けでならなければならない。これからは死も常に覚悟しておくのだ。命が少しでも惜しいと思う者は今すぐここから出ていくのだ!!」
アールドが人数減らしのためと覚悟のない者のためにそう言ったのだが、誰一人として欠けることはなかった。
ムース「ふふふ、今回も多いですね。」
アールド「そうか・・・全員参加ということだな・・・・ざっと400はいるな。このままでは多すぎてタワーに入れん。今から上の天井から30枚、1から10の番号のついたチップを落とす。それを手にできた者のみが試験の参加資格を獲得できるという仕組みだ。わかりやすいであろう? 手にできなかった者はその地点で失格だ。今後試験に参加することは許可しない。次の開催まで大人しく待つことだ。」
会場は再びざわつき始める。
会場には前回も受験した人もいるので、その人達は皆、「またかよ」とばかりに顔を強張らせる。実のところ、北のロランジタでの試験会場は毎回大人数のため、このような措置を取らざるを得なくなっているのだ。レオルやブレイドなどの初受験者にとっては勿論初体験だということは言わずもがなである・・・
アールド「いちいち騒ぐな!! ・・・・もういい、早速始めるぞ!!」
アールドが何やら合図をすると、天井からチップが吹雪のように降ってきた。それも30枚一気に、1か所に集中して落下することなく会場全体に均等にいきわたるように分布する。400人は約10mの高さから舞い降りる物体に一斉注目した。そして重力加速度つけてチップは、少し手を伸ばせば掴める高さまで落ちる。受験者の大半は、落下してくるまでの数秒間、絶対に取ってやると手を誰よりも高く伸ばそうと必死になっていた。だがレオルはその間に勢いよく真上に飛び、難なくチップの1枚をゲットした。
レオル「へっ、ちょろいぜこんなもん。」
ブレイドも同じく天井近くまで飛び跳ねてチップを獲得する。そして他にも同様にして、地上でただ待機している連中よりもチップをいち早く手にする者がいた。そして瞬く間に30枚のチップは頭上から姿を消したのであった。
「おい・・・嘘だろ!?」
「1枚も・・・落ちなかっ」
「まさか・・・これで終わりってことは・・」
「こうなったら持ってる奴から奪い取れ!!」
アールド「静まれ!!!!! 今チップを手にしてない者は・・・・直ちにここから消え失せろ!! お前達に用はない!! そして、チップを見事獲得した者達に告ぐ、自分のチップに書かれた番号を確認してくれ。1から10まである。同じ番号のチップを持つ者達でチームを作れ。3人1組の10チームは出来るはずだ。さあ始めろ!!」
レオルの手元のチップの番号は「7」であった。同番号の受験者を探すためレオルは呼びかけを始める。
レオル「おーい! オレは7番だ! 誰かいねぇかー!」
するとブレイドがその声に、まさかと言わんばかりに自分と手元の数字を確認する。そしてブレイドは雷にでも撃たれたかのように茶色目を大きく見開いた。
ブレイド「7番!!? おーいレオル!! オレも7だ!!」
レオル「え!!! マジで!? ブレイドと一緒とはなぁ、嬉しいのか嬉しくないのか分かんねぇな、ハハ。」
ブレイド「そしゃこっちのセリフだっての~~チームつったな、オレの足を引っ張るような真似だけはするなよな。」
ブレイドは目を細めて嫌味の視線をレオルに投げかける。レオルも少し怒り気味に言い返した。
レオル「けっ、誰が引っ張るかってんだよ。むしろお前の方が頼りねぇぜ。」
ブレイド「何を!! 君はしらないだろうけど、オレはなあ~~」
「おい! 貴様らが「7」番の奴らか?」
突然2人の会話を遮り輪に入り込んできたのは、これまたレオルやブレイドと同じくらいの年齢で、黒髪で背中に自専の剣を装備しているゼウスという名の少年であった。
3人1チームでも試験。ゼウスという少年は果たして、どう動いてくるのであろうか・・ ついに試験が始まる。




