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第1章 ~ 5 (アイシャ、王都からの手紙)

 「お母さん! お母さん!」


 アイシャは一通のおおきな封書を持って、食卓のテーブルへ一目散にかけていった。


 あれから一週間・・・・。


 いく日かはあふれる期待とともに過ごした。朝になったら郵便受けに通い、瞳を輝かせて赤い箱のふたを開けたが、まだそこには何もなかった。


 それから数日は、ちょっぴり不安な日だった。やはり郵便箱は空になっているか、村の八百屋さんやお花屋さんのちらしが入っているかのどちらかだった。


 途中で伝書鳩が事故にあっていたらどうしよう。もし書類に不備があったら・・・・、誰かほかのひとの採用が決まってしまっていたら・・・・。


 もうきっと来ないのかもしれないと思って、あきらめかけた7日目の出来事だった。


 郵便受けがおおびらきに開いていて、そこからたいそうな高級厚紙の書面がまるまると、顔を覗かせていたのは・・・・。


 「あらまあ、立派なお手紙だこと・・・・。アイシャ、開けてみなさい」


 「う、うん・・・・」


 アイシャは震える手を抑えて、慎重に封がしてある(のり)付けのリボンを()がし取った。


 封書をあけるとき、良質の地図をめくるときのような感触と音だけが、朝方のクロムウェル家に漂った。


 「お母さん、どうしよう!」


 「あら、残念な結果だったのかい?」


 「違うのよ! ぜひ王都にお越しくださいですって!」


 「あれまあ! なんということでしょう! 本当にお呼ばれしたのですね!」


 お母さんはほんとうにびっくり仰天という顔をした。


 彼女のほうは娘の年齢と学歴だけではとうてい王都から誘いなど来るはずがないと、ほとんど期待はしていなかったのだ。


 「いやだあ! たいへんよ! めかしものとか、どうしようかしら・・・・」


 「なにを言っているの、はじめから考えていなかったのかい? 困った子だねえ・・・・」


 お母さんはそう言いながらも、もしかしたら娘以上にワクワクしてきた自分にびっくりしていた。

 

 アイシャは手紙を見つけたときの喜びとはまったくちがって、急に困ったような気持ちになった。


 じっさい王都からの手紙が届くというのは、大変な栄誉だ。


 もしかしたら学校のみんなも、こんなものを目にしたこともないかもしれない。


 しかもこの手紙には、アイシャ・クロムウェル様へと書いてある・・・・。ああなんてこと!


 「アイシャ、肝心の出立の日ですけれどね、明日ですわよ!」


 「ええ? 明日ぁ?」


 「そうよ。王都へは丸一日かかりますからね、採用面談の刻は、翌々日の午前と書いてありますから、これはなんといっても明日の朝でなければならないこと・・・・」


 お母さんが手紙を吟味しながら言うのを、アイシャは絶望の宣告のように聞いていた。


 彼女は椅子に座ったまま、テーブルのうえにへなへなと崩れ落ちていた。どうしよう・・・・。何も用意していなかった・・・・。

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