第1章 ~ 4 (アイシャ、お母さんと相談する)
「あなたがね、こんな仕事に応募するなんて、夢にも思っていませんでしたわ!」
アイシャは家に帰ると、食卓のテーブルの席について、申し訳なさそうにお母さんに王都の仕事への応募書類を見せた。
アイシャが家に持ち帰った書面には、二つのサインが刻まれていた。おばさんと、おばさんが奥の部屋にいる村長さんからもらってきた二つのサイン。
お母さんはそれを見てアイシャにそう言っているのだった。
「どうしたものかしらねえ。一家二人が一緒に王都に行ってしまうなんて、わたしはどうしたらいいのかしら・・・・」
お母さんの言うことももっともだ。アイシャはお母さんから言われて、はじめてこの問題に思い至った。
どうして母の生活のことを考えなかったのだろうか。自分は大馬鹿ものであると考え、自己嫌悪に浸った。
アイシャはうつむいていた。そしてぽろぽろと涙を流した。
「ごめんなさい。わたし何も考えずに・・・・。やっぱり取り止めます」
アイシャはそう言った。やめよう。無謀な夢を持つことなんて・・・・。
自分にはこの家にいることのほうが似つかわしい気がする、学校のみんなみたいに華やかには生きられないんだ・・・・。
溢れる涙に視界を蜃気楼みたいにしながら、彼女はそう思った。
「まあいいわ。わたしはね、昔からひとりでいることには慣れているのよ。それに、猫でも犬でも鳥でもそのへんから拾ってきて飼えば、ひとりじゃないですからね!」
お母さんは意外なことを言った。アイシャはお母さんのことを見た。
でもすぐにお母さんの意味するところを斟酌したあとで、もう感動して何が何やらわからなくなって、声をあげて大泣きしだした。
「あらあら、ほら、あなたが泣いてはいけませんよ。未来があるのですからね。ほら、お父さんもきっとお仕事が見つかったのでしょうし・・・・。なんと大いなることでしょうか! さあ今夜はいつもより豪勢な料理にしましょうね。いつ王都からお誘いが来てもよいように・・・・」
「お母さん、ありがとう、お母さん・・・・」
アイシャはえんえんと泣き腫らしながら、なんて良い家族を持ったのだろうと、このとき改めて思ったのだった。