第1章 ~ 2 (アイシャ、自室にて悩む)
アイシャはお母さんからやはりあなたに向く仕事はないから、家の家事でも手伝いなさいと言われて、すっかり滅入ってしまった。
彼女は夕食までの時間を自室にこもって、ぼーっと外を眺めていた。
外では夕暮れの景色が雅に広がり、家の前の大きな楡の木に鳥たちが止まって、今日の最後の暮れ時間を楽しんでいるようだった。
アイシャは家の生計のことについて考えた。
アイシャが働かなくても、お父さんのいくばくかの財産の残りがあるだろうし、貧しくも一家はやっていけるのだろう。お父さんの新しい仕事もあるというし・・・・。
でもそれじゃあ、アイシャの人生はどうなるのだ。
せっかく古代魔法を少しは覚えてきて、実用にも使えるところだというのに・・・・。
(でもなあ、仕事がないなら仕方がないし・・・・)
アイシャはいつもこうして諦めてしまうところがあるのだった。それ相応に幸せならばそれでいいやと。
父親がいつも昔語りに花を咲かせていたのも、アイシャがこのように育ってきた原因であるのかもしれなかった。
(そうだ! さっきもらった回覧を見てみよう・・・・)
アイシャはおばさんから預かってきた回覧を見てみた。
どれどれ・・・・。
仕事板に掲載されているのは、ほとんどが畑仕事だの、鉱山仕事だの、学校のお掃除だの、重労働である。
これらの仕事は年齢制限で性別不問だし、アイシャはすぐにでも働くことができた。きっと応募すれば即採用だ。
村役場の斡旋する仕事だからどれも正社員採用、いくばくかの安定した収入も見込めるだろう。
けれども・・・・。アイシャはあまり身体を動かす仕事につくのは好まなかった。
物心ついたときからちょこちょこと魔法をいじくってきて、学校でも教わって、少しでもできるようになってきた意味がないではないか・・・・。
(だめだだめだ・・・・。考えるのはやめよう)
アイシャはさらに持ち前のあきらめの良さを発揮して、回覧を閉じようとした。
とそこで、見ていたページの隅っこのところに「王都のお仕事募集! 経験年齢不問! 詳細は村役場にて・・・・」というタイトルを見つけた。
(なにこれ。中身も何もないじゃない・・・・)
アイシャはそのカラフルな王都の背景絵に文字だけの募集をしばらく見つめたが、すぐに回覧を閉じて机のうえに置いた。でもなぜか気になる。
王都で誰にでもできる仕事って、あるのかしら・・・・。あったら素敵だけれど、危ない仕事じゃないかしら・・・・。
「アイシャ! 夕ご飯の支度ができたわよ! 今日はお父さん遅いから、二人で食べましょう!」
母の声がしたので、アイシャは慌てて回覧を机の引き出しにしまって、自室から食卓へと向かった。そのあと彼女は夕食のあいだ、母との会話はまったく上の空で、いつまでもあの広告のことが気になっていた。