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不気味
……そして、幾多の時が過ぎた。
私は今、ロンドン橋があった所に立ちすくんでいる。
私の記憶では──いや、ここに来たのは初めてのはずなのに──ここには昔、ロンドン橋があった。
………どうやってここまで来たのだろう?
今では掛け橋も一本の網もない、ただの底の 深い人工河川と化していた。
……木と泥で作れぇ~ 作れぇ~作れぇ~ ……木と泥で作れぇ~ 私の亡き娘のために ぃ~………
寂しくも悲しい歌が、私の耳を通り抜けた。 初めて聞く声なのに、聞き覚えのある、どこ か安心できる声だった。
声が聞こえる所に目をやると、祖父母2人、 そして親戚と思われる者どもが木と泥を運ん でいる。
───そんなものなんかで橋を作るなんて不可能だ。と 、私は彼らを静かに嘲笑った。