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運命の石  作者: 四葦二鳥
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第五章

 和泉達は今まさに、岩砂漠地帯を踏破するところだった。そして目の前には、それを実感する光景が広がっていた。

「見てください、あれがレオポルク山岳地帯です」

 イレーヌが指差した先にあるのは、壮大な岩山の数々だった。

「なあ、ちょっと聞いてもいいか?」

 和泉がイレーヌに質問した。

「何でしょうか?」

「これから僕達は主要交通路であるメイントンネルを避けて小さい入り組んだトンネルを使うわけだけど、なんでそんなものが存在するんだ?」

「それは、このレオポルク岩山地帯は鉱山でもあるからですよ。帝国のMKの主要材料であるアダマンタイトはここから採れます。ミスリルも多少は取れるようですけどね。それで、私達が今から入ろうとしている入り組んだトンネルは、元々坑道なのです」

「ということは、危険もあるのね? 落盤とか」

 永花が訊き返した。

「その通りです。ですがメイナード王子からいただいた地図には、比較的安全な坑道をピックアップしてくれています。どうやら、ここから北に十キロ程離れた場所にある坑道がよさそうなので、そこに行きましょう」


 一時間ほど歩き、目的の坑道へ侵入した。坑道はしばらく誰も使っていないせいか真っ暗で、明かりもなかった。そのため、イレーヌが『ゴールデナー・アプフェル』のランプに魔法で明かりを灯し、進行方向を照らした。

 しばらく坑道を進んだところで、和泉が唐突に話しかけた。

「なあ、メイナードの言っていたことだけど……」

「ああ、帝国の皇帝が、私達と同じ人間界の人物ってやつ?」

 永花がそれに答えた。また、イレーヌが状況証拠から推測できることを話した。

「ギーゼロッテの王が現皇帝に交代し、帝国と名乗ったのが数十年前ですから、少なくとも我々の中で最も古い時系列にいた永花さんの時代よりも前ということになりますね。つまり、一九四五年七月十日以前です」

「だが、人間界とイデア界の時間の流れは一致しない。皇帝がやってきた年代は、今の僕達には正確に知ることは出来ないのか」

 和泉が言葉を継ぐと、静穂が仮説を述べた。

「もしかしたら、戦国時代からやってきたお侍さんだったりして」

「もしくは、意外と最近かもしれないわね」

 続けて永花も仮説を提唱した。

 だがその時、突然進行方向から機械の音が聞こえた。それと同時に、イレーヌの通信機にメイナードから連絡が入った。

〈もしもし、イレーヌさんですか? 今どこにいます?〉

「今、メイントンネルの北十キロの地点にある坑道の中ですが」

〈今すぐ出てください! あなた方の行動が読まれていました。帝国のMKが待ち伏せしています!〉

「もう、遅いよ……」

 横で聞いていた和泉が、そう呟いた。坑道の奥から姿を現しつつある、『ハヤテ』達を眼中に収めながら。


 『ゴールデナー・アプフェル』に乗り込むと、イレーヌはCICに赴いた。そして指揮官席に座り、目の前のパネルに自分のオーブをはめ込む。

「『ゴールデナー・アプフェル』、高速飛行形態へ移行」

 すると、『ゴールデナー・アプフェル』が宙へ浮かんだ。馬車を引いていた馬は足が折り畳まり、生物的な印象から機械的な印象へと外見を変えた。馬車の方は翼が出現し、車輪が地面と平行になって回転を始め、下降気流を生み出す。

〈へえ、この馬車、こんな機能があったのか〉

 格納庫から通信を介し、和泉が話しかけた。

「これはシステムの一部です。本当はここで起動するべきではなかったのですが。そちらは準備出来ていますか?」

〈全機、いつでも出撃できる〉

「では、すぐに発進してください。ナビゲートはこちらで行います」


 和泉達三人は、MKに乗って出撃した。その直後、イレーヌから通信が入った。

〈大変です皆さん。入口の方からも敵が侵入してきています!〉

 つまり、敵に挟まれてしまったのだ。

「こうなったら、敵を排除してでも突き進むしかないな……」

 和泉が言うと、永花もそれに同調した。

〈そうね。私と和泉で突破口を開くから、静穂は後衛をお願い。『ヴェズルフェルニル』なら、多少遅れてもすぐ追いつけるでしょうから〉

〈うん、わかった〉

 各自配置に着くと、最初に行動に出たのは永花だった。

 前方の敵に向けて、『ニヨルド』に装備された背部二連装高水圧砲・グングニルを発射したのだ。発射された水の矢は進路を確保するには不十分だったが、陣形を崩すことはできた。

〈今よ、和泉!〉

「ああ」

 この隙を逃さず、和泉は敵に突入し、双頭型ライトソードで刻み込んだ。しかも和泉が斬った部分は爆発を起こす心配がない部分だったので、進路を落盤で塞がれてしまう心配がない。

「イレーヌ、前進するぞ」

〈了解。『ゴールデナー・アプフェル』、全速前進〉

 和泉達は、かなり早いスピードで進撃を開始した。だが、敵は次から次へとやってくる。

「敵の増援か?」

 自分達の方へ近づいてくる敵を察知した和泉は、とっさにライトシールドを展開し、『ハヤテ』のマスケットによる銃撃を防いだ。敵の攻撃が一段落すると、ライトニングアローを放った。

 坑道は狭く、目の届く距離なら直線であるため、一発放っただけで平地での戦闘以上の撃墜数を得られた。だがそれでも、攻撃を潜り抜けて迫ってくる輩が必ずいる。

〈ここは私に任せなさい〉

 ハルバードを構えた『ハヤテ』が『マーニ』に迫ろうとしたその時、永花の『ニヨルド』が割り込み、アクアトライデントで一突きにした。続いて、魔法の水で出来たマントからアクアレーザーを何本か発射し、残っていた『ハヤテ』を全て撃墜した。

〈みなさん、この先の分かれ道を左に行ってください。そうすれば、すぐに出口です〉

 イレーヌのナビゲートに従い、左の道へ針路を取った。だが、その道へ入った途端、大量の『ハヤテ』が背後から襲いかかってきたのだ。

「何? どういうことだ!」

 和泉が叫ぶと、イレーヌが仮説を話す。

〈どうやら、右側の道にMKを潜ませていたようです。その伏兵と追撃部隊が合流したようですね。今まで追撃隊が積極的に仕掛けてこなかったのも、納得がいきます〉

〈でも、このままじゃまずいわね。おそらく坑道を抜けた先にも待ち伏せがいるだろうから、この陣形は崩せない。静穂、悪いけど、一人で頑張ってくれない?〉

 永花が静穂に頼み込んだ。


「うん、わかった」

 静穂が了承の意を示すと、『ヴェズルフェルニル』の翼から空気を固めた羽・フェザーミサイルを無数に飛ばした。フェザーミサイルは追撃隊の『ハヤテ』数機と坑道の天井に突き刺さった。そして間髪いれずに、静穂はフェザーミサイルの魔法制御を解いた。

 このフェザーミサイルは、魔法制御によって空気を固めることによって形成されている。その魔力制御が解除されると、固められていた空気は急激に元の状態に戻ろうとするため、四方八方に分解する。その衝撃は、ちょっとした爆弾が発生させる衝撃波に匹敵する。

 つまり、静穂が魔法制御を解除した時点で、フェザーミサイルが突き刺さった『ハヤテ』はズタズタになり、坑道の天井は崩壊して落盤を引き起こす結果となった。

 後方の坑道が落盤を起こしたことにより、多くの『ハヤテ』が追撃不可能となった。だが、落盤を潜り抜けてきた猛者もいる。

 その『ハヤテ』達は、マスケットをこちらに向けている。

「このぉっ」

 静穂は後退しつつ、ショートライフルを連射した。その攻撃は撃墜させるまでには至らなかったが、何らかの破損を与え、進撃を阻止した。

 だがそれでも、静穂の攻撃をかわして迫ってくる機体があった。隊長機であると思われる『ハヤブサ』である。

 『ハヤブサ』は、ハルバードを引きぬくと静穂へ襲いかかった。

 静穂もショートライフルの先から風の刃を発生させ、応戦した。

 初めの内は機体性能にも助けられ、静穂の方が若干有利に戦えていた。ところが経験の差が時間と共に明白になってしまい、不利に追い込まれかけた。

 しかし、そのことを敏感に感じ取った静穂は、取り返しがつかなくなる前に手を打った。

「てぇい!」

 なんと、静穂は『ヴェズルフェルニル』の足にエアクローを形成し、サマーソルトキックをぶちかました。

 それを受けた『ハヤブサ』は、坑道の壁面に激突し、大きく引き離されてしまった。だがしかし、すぐに体勢を立て直した『ハヤブサ』は腰部砲塔・イッセンを起動させ、射程内に『ゴールデナー・アプフェル』を捕らえた。

〈間もなく坑道を抜けます! 皆さん、脱出後の待ち伏せに注意してください〉

 折しも、静穂達はもうすぐ坑道から出られそうだった。そこで静穂は、フェザーミサイルを床、壁、天井あらゆる所に撃ちまくり、起爆させた。

 その影響で『ハヤブサ』はイッセンを発射する前に爆散し、坑道は完全に落盤で塞がれた。


「ちっ、やっぱり待ち伏せしていたか」

 坑道を抜け出た和泉達は、待ち伏せしていた『ハヤテ』の大軍に遭遇していた。さらにところどころ『ハヤブサ』もいるようだ。

 しかも、敵はマスケットやイッセンをこちらに向けており、敵意むき出しだ。

「まずいな、こんな数の敵、まともに相手は出来ない……」

〈私に考えがあるわ〉

 かなり分が悪い状況の中、永花が提案した。

〈『ニヨルド』の全火器を使えば、一撃で敵を殲滅できるわ。ただ、砲門の角度を最適な状態にしないといけない。少し時間を稼いでくれる?〉

「了解。守備は任せろ」

〈あたしも、やるよ〉

 このやり取りの直後、永花は砲門の調整を開始した。そして静穂は、ショートライフルとフェザーミサイルを乱射した。

 放たれた弾は敵の一部に命中したが、まだまだ敵はたくさん残っている。

 今度は敵がマスケットと一線を一斉射した。

「危ない!」

 『ニヨルド』を除いて唯一防御手段がある和泉の『マーニ』が前へ躍り出て、ライトシールドを展開し攻撃を防いだ。

 一通り攻撃を防ぎきると、即座にライトシールドを投げつけ、間髪いれずライトアローを発射した。撃たれたライトアローは、先に投げられたライトシールド二枚と合体し、絶大な威力を手に入れた。

 それが着弾すると、尋常じゃない爆発を起こし、その衝撃で敵のMKが数十機、機能不全に陥った。

 砲狙撃戦では分が悪いと感じ取った敵は、ハルバードを手に取り突撃を仕掛けた。

 それを阻止すべく、和泉はライトバルカンで、静穂はショートライフルで抑えにかかる。しかし、押し寄せる膨大な数は、たった二機では焼け石に水だった。

 いよいよ限界が迫った瞬間、和泉が永花に確認を取った。

「おい、あとどれくらいで終わるんだ?」

〈もう少し待って……できた! 二人とも、下がって〉

 永花の指示に従い、後ろに引きさがる和泉と静穂。二人の交代が終わるとすぐ、掛け声とともに『ニヨルド』の全砲門が開いた。

〈いっけぇぇえええぇぇぇぇぇぇ!!〉

 全ての砲門から放たれた砲撃は、一部のMKにクリーンヒットした。そしてその攻撃によってMKが爆散し、その影響で近くのMKが誘爆する。この連鎖反応で、数分後には全ての敵性MKがレーダー上から消えることとなった。


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