第四章
和泉達は、黙って歩いていた。会話する気も起きない。なぜなら、炎天下の中、何日も岩砂漠地帯を歩いていたからだ。
昼は炎天下、夜は極寒。おまけにそこら中に岩が転がっており、足場が悪い。こんなところを歩かされれば、誰だって体力をごっそり搾り取られる。
一応イグナルトドルフでもらった不溶氷があり、それを使って身体を冷やすことはできた。だが一つしかないので、いつでも使えるわけではなかった。
そのような地獄の旅路も、ようやく終わろうとしていた。
「見てください、着きましたよ」
イレーヌが指差したのは、何もない岩砂漠に忽然と姿を現した、大都市の姿だった。
「あれが、陸路の休息地として発展した都市、『ルンハルトカンプ』です」
街には言った和泉達は、感激した。華やかで、面白そうな場所がたくさんあったからだ。
「よく見ると、宿屋が多いわね」
「それに、飲み屋もよく見かけるね」
永花と静穂のコメントに、イレーヌが説明した。
「ルンハルトカンプは、帝国の首都・ルードアハーフェンへ向かう陸路の休息地として栄えている都市です。ですから、必然的に旅人やキャラバンを率いている商人達相手に商売をすることになります。そのため、宿泊施設や酒場はもちろん、劇場や賭博場などの娯楽施設も多く営業しているのです」
イレーヌの解説が一通り終わると、さっきから考え込んでいた和泉が質問した。
「なあ、さっきから陸路って言ってるけど、もしかしてそれ以外にも道があるのか?」
「ありますよ。そもそも、このレーヴァテイン大陸には『ルードーア川』という大河が流れています。ルードアハーフェンもこの川の中流に位置しています。この川は、途中で東と西に分岐しており、東側の派川を『レオポルク川』、西側の派川を『クリスタフ川』と呼び、それらの川を使ってルードアハーフェンへ向かうことも可能です」
水路があることを知った和泉は、さらに問いかけた。
「じゃあ、なんで僕達は陸路を通ってるんだ?」
「ユッテ半島からそれぞれの川へ向かうには遠いのです。事実、まだ戦争をしていない頃は、半島とギーゼロッテの交易路に陸路を用いていましたから」
「ふーん、そういう事情があったのか。……って、おわっ!?」
突然、和泉に何かがぶつかった。
「いたた……何なんだ、一体?」
和泉の眼には、走り去っていく、帽子をかぶった子供の姿が映った。どうやら、あの子がぶつかったらしい。
ところが、この様子を見ていたイレーヌが、急激に表情を変えて和泉に尋ねた。
「和泉さん、所持品を確認してください。今すぐに!」
イレーヌのただならぬ雰囲気に唖然としたが、とりあえず和泉は言われたとおりに所持品を確認した。
すると、重大なことに気が付いた。
「な、ない! 不溶氷がない!」
なんと、今まで上着の内ポケットに大切にしまっていたはずの不溶氷が消えていたのだ。
「やはり、さっきの子はスリです! 早く捕まえてください!」
イレーヌが子供の正体を見破り、指示を出した。それにいち早く反応したのは、和泉だった。
「そういうわけか。さっさと止まれこの野郎!」
和泉は足もとに落ちていた石を拾って投げた。『マーニ』に搭乗している時はよくシールドを投げつけているせいか、放たれた石は的確に子供の頭頂部に命中し、地面にうずくまらせた。
そして間髪いれずに永花と静穂が躍り出て、子供を取り押さえた。
和泉はその様子を確認すると永花達の方へ駆けつけた。そして高圧的な態度でこう言った。
「おい、なんで僕の不溶氷を盗んだ? さっさと吐け」
そうすると取り押さえられた子供は、冷や汗をかきながら答えた。
「わ、わかったよ……。盗んだものは返すけど……場所を変えないか?」
「和泉、私達、目立ってるみたい。この子の言うとおりにした方がよさそうよ」
永花の指摘を受け、和泉は周りを見回してみた。確かに、野次馬が集まり始めている。
このままこの場所に居続ければ、確実に治安維持隊に事情を聞かれる。それは、自分達の正体が露見するリスクが高まることを意味していた。
「そうだな。移動しよう」
「だったら、いい場所がある。付いて来て」
スリの子に導かれてやってきたのは、中心街とは全く様相が違う、有り体に言えばスラム街みたいなところだった。
「ルンハルトカンプって豪華に見えたけど、こういうところもあるんだね」
「それはそうでしょう。都市の規模が大きければ大きいほど、こういう場所も大きく存在しているものよ」
静穂のぼやきに、永花がドライに回答した。
「着いたよ。ここが僕の家だ」
そこは、家と言うにはあまりにも小さく、またボロッちい小屋みたいな建物だった。
そしてその光景は、つい先日まで滞在していたイグナルトドルフでの出来事を連想させた。その経験から、和泉達は感じた。
何か事情があると。
「はい、これ。返すよ」
和泉は先日の出来事を回想しながら思考をめぐらせていると、突然スリの子供から盗まれた不溶氷を投げ返された。
うまくキャッチはできたが、和泉はそれ以上にインパクトの高いものを見てしまった。
「女の子……なのか……?」
不溶氷は帽子の中に隠されていたらしかった。当然、それを返すには帽子を取ることとなる。その帽子の中から出てきたのは、不溶氷の他にもう一つあった。
それが、美しいストレートの長い髪だった。
「そうだよ。僕、男の子に変装してたんだ。名前も『シーヴ・レクセル』って言って、女名だしね」
シーヴはあっけらかんと自分の正体を話した。
「な、なんで男子に変装していたんだ?」
ひどく動揺した様子で、和泉は質問した。
「変装してれば、スリをして逃げられそうにない時に役に立つんだよ。ちょっと物陰に隠れて変装を解けば、別人になれちゃうから」
すると、今まで頭の中で状況を整理していたイレーヌが意見を述べた。
「もしかして、あなた、ハーフリンクでは?」
「ハーフリンクって?」
イレーヌの発した中に聞き慣れない単語が出てきたので、それについて静穂は解説を求めた。
「ハーフリンクというのは、子供の様な外見をした種族です。キャラバンを編成し、旅商人として生活をしていました。また空間制御系の魔法を使えるため、それを利用して馬車の改造もよく行っていたようです。私達が使っている『ゴールデナー・アプフェル』も、亡命してきたハーフリンクの方達が建造した物なのです」
「ちょっと待って。『亡命してきた』って、どういうこと?」
永花は気になる発言を耳にしたので、そのことを尋ねた。
「実は、ハーフリンクはギーゼロッテ帝国の侵略を快く思っていなかったため、今でも迫害を受けているそうなんです。なので、ユッテ半島の方にも亡命してくる方がかなりいらっしゃるのです」
一通り解説し終わると、イレーヌは話題を元に戻して話した。
「ですから、そのような社会状況とあなたの生活ぶり、そして身体的特徴から、シーヴさんがハーフリンクだと判断しました。違いますか?」
しばらく沈黙が流れた後、シーヴはゆっくりと答えた。
「そうだよ。確かに僕は、ハーフリンクだ」
イレーヌの推測に肯定の意を示すと、続けてこう言った。
「ただ、一つ訂正してほしいことがある。さっき君は『迫害されている』と言ったけど、そんな生易しいものじゃない。仲間のほとんどは『奴隷』として売られていった。僕みたいに貧しくても自由でいられることの方が奇跡なんだ」
和泉達はその発言に驚いたが、一番驚きを隠せなかったのがイレーヌだった。
「そんな、まさか……。確か数百年前に奴隷制廃止の条約ができたはずです。その条約には、ギーゼロッテ王国も批准していました。帝国となった現在でも、その体制は続いていると思っていたのですが……」
この意見に対し、永花は冷静に反応した。
「ありえない話じゃないわ。戦争は、人間性を破壊していくものだから」
続けて、永花は自身の体験を語った。
「私がこの世界に来る前、堺の病院で看護師をやっていたわ。その病院は、国際法で攻撃対象にしてはいけないはずだった。でも、米軍はそこに爆撃を仕掛けてきた。あのやり方から言って、法律なんて知ったこっちゃないって感じだったわ」
その体験談は、この場にいる全員を閉口させるのに十分だった。特に平和な時代から来た和泉にとって、与えられた衝撃は凄まじいものだった。
しばらくして、重苦しい雰囲気に耐えかねたのか、気を紛らわすようにシーヴが口を開いた。
「あー、はいはい、シリアスムードはこれでおしまい。今日はもう遅いし、早く寝よ? それに、僕達はもうすぐ、救われるんだから」
寝床に付きながら、和泉は考えた。シーヴの『救われる』と言うセリフと、その時に見せたさびしげな雰囲気から感じ取った違和感を思いめぐらしながら。
翌朝、和泉はイレーヌに叩き起こされた。
「和泉さん、起きてください。皆さんも! シーヴさんがいないんです!」
このことを聞かされた一同は、目を丸くした。確かに、家全体を見回してもシーヴはいない。すると和泉が、テーブルの上に置かれた手紙に気が付いた。
その手紙には、次の様なことが書かれていた。
『みなさん、突然僕がいなくなったことに驚かれていることでしょう。ですが、心配しないでください。詳しくは言えませんが、僕は仲間を救うためにクリスタフートへ向かいます。最後に、大したおもてなしができなくてごめんなさい。 シーヴ・レクセル』
この手紙を読み、和泉は昨日シーヴが言っていた意味を完全に理解した。彼女は、この街を発つつもりであったと。
「イレーヌ、このクリスタフートってどういう場所だ?」
和泉は手紙に書かれている、地名と思われる記述について質問した。
「クリスタフートは、この先のレオポルク岩山地帯を越えた先にある街です。ルードーア川の分岐点のほとりにあり、水路と陸路の合流地点でもあるため、交通の要所なんです。さらにルードアハーフェンからの輸出物と沿岸地域からの輸入物が一斉に集まる都市でもあるので、『帝国の百貨店』の異名を取っているのですが……」
「今そこで何があるかは、わからないのね」
イレーヌの回答を、永花が推測して継いだ。そして永花の言う通り、現時点ではクリスタフートに何かがあるのは確実だったが、具体的なことは何一つわからなかった。
結局、実際にクリスタフートに行ってみなければわからないということになり、出発しようとした。だがその時、家の扉が乱暴に開かれた。そして間髪置かず、帝国の兵隊が家へ侵入してきた。
「隊長、確かにこいつらです!」
「ああ。手配書の顔とそっくりだ。よし、ひったてろ!」
隊長の命令で、隊員達は和泉達を捕縛しようとする。
「おい、どうする……?」
和泉が目配せをしながら、永花に尋ねた。
「この人数相手じゃ、分が悪いわ。おとなしく捕まった方が安全かもしれないわね」
こうして、和泉達は逮捕され、護送された。しかし護送先に着くと、イレーヌが声を挙げて驚いた。
「ここは……城?」
「どういうことだ?」
和泉が聞いた。
「一応この世界でも、裁判所と言うものはあります。もちろん城が裁判所を兼ねている場合もありますが、ルンハルトカンプには独立した裁判所があったはずです。なのに、どうして……」
「おい、ごちゃごちゃしゃべってないで、さっさと歩け」
兵士に会話を注意されてしまい、和泉達はそのまま城へ押し込められてしまった。
城へ入れられた後、連れてこられたのは謁見質と思われる場所だった。そこへ、高級そうな服を着た、腰から龍のしっぽを生やし、腕と顔の一部に鱗が付いている青年が入室してきた。
青年は玉座に座ると、こう述べた。
「面を上げてください。私は、ギーゼロッテ帝国の第一王子、プリンス・メイナードです」
物腰低そうに名乗ると、さらに発言を続けた。
「あなた方の正体は知っています。ユッテ半島首長連邦国の方々でしょう? イグナルトドルフでは大層ご活躍だったそうで」
和泉達はこの発言に驚愕し、悟った。自分達の行動は、すでにばれていたのだと。
「おや、その表情を見るに、今まで感づかれていないとでも思っていたようですね。ですが、それはあなた方の思い上がりです。我々の情報力を甘く見ないでいただきたい」
メイナードはコホンと咳払いすると、さらに話を続けた。
「さて、ここからが本題ですが、私は帝国領に侵入してきた敵国の人間、つまりあなた方をスパイ罪で今すぐ処刑することもできます。しかし、それでは面白くない。そこで、MKを使って私と一騎打ちをしたいのですが、どうでしょう? あなた方が勝てば、このことは不問にします。もちろん、拒否していただいても構わないのですが、その時は――おわかりですね?」
つまり、拒否すればそのまま処刑台行きになるということだ。そのことを理解した和泉達に、選択の余地はなかった。
メイナードの提案を飲んだ和泉達は、闘技場に来ていた。すでに会場には、『マーニ』が運び込まれている。その向かい側に、赤い色をした、どこか龍を彷彿とさせるような姿のMKが立っていた。
「頑張ってね、和泉」
「絶対に勝ちなさいよ。私達の命がかかってるんだから」
静穂と永花が和泉に激励の言葉を投げかける。
「わかっている。ところでイレーヌ、あのMKは……」
マーニに乗り込む前に、和泉はイレーヌに赤いMKについて聞いてみた。
「あれはおそらく、皇族用MK『スイセイ』でしょう。ですが私が知っているのは機体の名称だけです。どうやら機密扱いになっているようですので。ただ、火炎を用いた攻撃を仕掛けてくると確信しています」
「なんでそう思う?」
「ギーゼロッテ帝国の皇族は、龍の特徴を持った種族、ドラゴンジーンだからです。ドラゴンジーンはハルピュイアと同様に、様々な種が存在しますが、帝国のドラゴンジーンは火龍系です。なので、火龍の特徴を色濃く反映しているのは明白でしょう」
和泉はイレーヌの説明に納得し、うなずいた。そして『マーニ』に乗りこみ、起動させた。
コクピットから『スイセイ』を眺めると、メイナードが乗りこんでいる姿が確認できた。
「こちら宮平 和泉。準備完了した」
〈こちらプリンス・メイナード。準備完了した〉
両者から戦闘準備完了の宣言がなされると、決闘開始のゴングが鳴り響いた。
〈さて、まずはこれを受け取っていただきましょう!〉
最初に仕掛けたのは、メイナードだった。メイナードは『スイセイ』のバックパック・カゲロウを起動させ、上空に火の弾を無数に打ち上げた。しばらくすると火の弾は、和泉の『マーニ』へ向けて一斉に降り注いだ。
和泉は回避運動とライトシールドを上手く使いながら攻撃を避けた。
「これはお返しだ!」
メイナードの攻撃をしのぐと、和泉はライトシールドを投げて反撃した。だがメイナードは容易く避けてしまう。
だが、これが和泉の狙いだった。
シールドを投げつけることで敵の動きを制限させ、ライトアローで射抜くつもりだったのだ。
「これで!」
放たれた光の矢は、『スイセイ』へ吸い込まれていった。だが命中する直前、目を疑うような光景を目の当たりにした。
『スイセイ』の両肩に搭載された装置が起動し、『スイセイ』の前面に巨大な火球が出現したのだ。光の矢はその火球にぶつかると、消滅してしまった。
〈まさか、防御手段を持っていないとでも思っていましたか? この火球発生装置・アカツキは、発生させた火球を盾としても使うことができるんですよ!〉
そう言うとメイナードは、火球を和泉へ発射した。
和泉は双頭型ライトソードで切り払おうとした。だが、魔力が足りなかったせいか剣が火球の途中まで切ったところで、爆発してしまった。
「うわぁぁあああぁぁぁぁ!!」
爆風に吹き飛ばされ思わず悲鳴を上げたが、直撃ではなかったためすぐに体勢を立て直した。そしてすぐにライトソードを構え、突進した。
〈肉弾戦を挑むのですか。ならこちらも、受けて立ちましょう!〉
メイナードもアダマンタイト製でMKサイズの刀・シラヌイを抜き放ち、応戦する体勢を整えた。
「うぉぉおおおぉぉぉぉ!!」
〈はぁぁあああぁぁぁぁ!!〉
刃と刃がぶつかり、激しく火花が散った。その直後、激しい剣闘が繰り広げられた。
両者とも、MKとは思えないほど早い剣さばきだった。さっきまで騒いでいた観客達もこの戦いに見とれたのか、ついに言葉を発することが出来なくなってしまった。
この拮抗した状態がいつまでも続くように感じられたが、時間が経つにつれて両者の腕の差が目立つようになってしまった。
あまり訓練を積んでいなかった和泉が、徐々に劣勢に追い込まれていったのだ。
「しまった!」
そしてついに、ライトソードをはじかれてしまったのだ。
〈年貢の納め時の様ですね。覚悟!〉
「やらせるかぁ!!」
メイナードはトドメを刺そうとしたが、和泉はそれよりも素早い動きで背後を取った。その直後、腕に装備されたライトバルカンを発射した。
ライトバルカンは決闘開始直後に放たれた、火炎弾を降らせた装置カゲロウに命中し、使用不可能にした。
〈クッ……、やはり一筋縄ではいきませんか〉
メイナードは振り向きざまにシラヌイを振り下ろし、『マーニ』の左腕を叩き斬った。
そのすぐ後に和泉は右腕のライトシールドを投げシラヌイを折ったが、すぐさまメイナードは拳でライトシールド発生装置をたたき壊した。
そのようにして互いに装備を削り取っていったが、決着の時が訪れようとしていた。
「うぉぉおおぉぉぉぉぉ!!」
和泉は右手で『スイセイ』の頭を掴むと、右手の拳にあるライトアロー発生装置を起動させ、そのまま矢を射出した。矢は『シラヌイ』の頭を貫き、頭部だけ爆発させた。
MKの頭部には、カメラが搭載されている。その頭部が破壊されるということは、カメラが使えなくなりまともな戦闘が出来なくなる。
つまり、敗北と同義だ。
〈……戦闘不能。私の負けの様ですね〉
そのことを理解していたメイナードは、潔く負けを認めた。
一騎打ちの後、和泉達はメイナードと共に城へ戻っていた。
ただし、敵国のスパイの容疑者としてではなく、客としてだが。
「まずは、あのような乱暴な手段に出てしまって申し訳ありませんでした。というのも、あなた達の力量を知りたかったからです」
メイナードの告白に、和泉達はきょとんとなってしまった。その様子を見たメイナードは、説明を始めた。
「一から説明をしますと、実は私、父の侵略に疑問を抱いているのです。侵略を開始した最初の頃は父の事を全面的に信頼していたので何とも思わなかったのですが、最近の父は盲信的になっているような気がするのです。それに被征服民を奴隷化したり迫害したりしていますし、兵士のモラルが非常の低くなっている……」
「つまりあなたは、現在のお父様は暴走していると思っているわけね? だから暴走を止めるために私達へ協力したい。そういうこと?」
メイナードの意図を悟った永花が、そう述べた。
「おおむね、その通りです。ですが、私の疑念は父も感づいているらしく、どこに父の手の者が潜んでいるかわかりません。そのため、私は下手に動くことが出来ないのです。そこで、こちらを渡します」
メイナードが側近へ目配せすると、側近は和泉達に紙を渡した。
「それは、レオポルク岩山地帯の詳細な地図です。あなた方の事は、おそらくすでに父に知られていることでしょう。ですから、岩山を通り抜ける際、正規のトンネルは使わない方が良いです。その時に、この地図が役に立つでしょう。それと、後で私へのホットラインをお教えします。何かあった場合、こちらに連絡してください」
メイナードとの会談が終わり、和泉達は退室しようとした。だがその時、メイナードが思い出したように口走った。
「そうだ、一つ言い忘れていました。これはごく一部の方しか知らないのですが――父は、人間界から迷い込んできた人物です」