Destin
必ずと言っていいほど、運命とは、急に変わるものだ。
この私でさえ、ある日を境に、90度方向転換してしまった。
まったく馬鹿らしいことだと、自分でさえ思う。
私といえば、毎晩街に行って、程々に綺麗で清潔そうな女性を見つけては、巧みな口説き文句(これには大分自信がある)で誘い、これの血をありがたく頂戴するという、極めて闇に近いところで生活している。
そんな人に恐れられる存在になって、もうどれくらいになるのであろう。
今では私と同じ種族も少なくなりつつあることは事実であり、自ら人間の生活を望むような輩も増えている。
そういう輩は生き血ではなく、赤ワインやトマトジュースを好み、決して人間を襲ったりなどしないだろう。
私はこの運命、つまりヴァンパイアであることを満喫している。
赤ワインよりも白ワイン、男性の血よりも女性の血のほうが大変好ましい。
私の運命・・・それはヴァンパイアであり続けること・・・。
でも何故、こんなにも簡単に運命が変わってしまうのだろう。
まあもちろん、180度変わったわけではない。飽くまでも90度である。
美しい女性の血は、大変結構なものだし、私はヴァンパイアをやめることを望んではいない。
町中を人間を装って歩いてみたら、だれもが立ち止まっては振り返るこの美貌。
人間よりは寿命なんて比べなくても長いし、当然ヴァンパイアというものは、顔だって良いのである。
そんな私を変えてくれたのは、たった一人の少女。
まだ年端も子供の分類に入るほどおさない彼女。
私の屋敷がある森に迷い込み、泣いていたところを私が助けたいきさつなど、どうでもいいだろう。
彼女は孤児だったために、森に捨てられたのだそうだが、どこかの姫とも見間違えるくらいに美しい・・・というよりは可愛らしかったのだ。
とにかく、彼女によって私は変わった。
少しだけ情というものが分かるようになった。ただ楽しいだけで笑うことも覚えた。
今では、この少女と一緒の生活が当たり前になった。
決して彼女の血は吸わないつもりだ。これだけは少女にも約束したのだが、彼女はいつでも困ったときにはどうぞとなんて言っている。まあ、私にだってプライドというものがあるからそれは無い。
とにかく彼女には礼を言いたい。
私の良きパートナーになってくれてありがとう。
この「Destin」は次の小説の「Maison」へと続きます。
お暇でしたら、是非お読み下さいませ。