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黎撃のインフィニティ  作者: いーちゃん
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第10話 part-a'

 戦狂が駆るAOF<ヴェサリウス>との戦闘中、新たにダークグレイの機体<リヒャルテ>が乱入する。見たことのないフォルムを持つ2機を目の当たりにし、疑問を抱くレナ。

(だとしたらコイツらは新型機なの――? でも、そうすると話がおかしい…第五世代AOFの開発はまだ着手されていないのに)

 <アクト>へと猛攻を繰り出す<リヒャルテ>を押し返すと、今度は戦狂の声が聞こえた。

『さぁて…そろそろ使うか。悪ィが状況が変わったんでね、本気を出させてもらうぜ』

 <ヴェサリウス>の放った一撃をすんでのところで回避したものの、致命傷を受けた<アクトラントクランツ>。

(駄目――こんな場所で負けてらんないってのに……!)

 次の瞬間、彼女の意識は途絶えた。

 第二形態(セカンドフォルテ)、展開。

[part-a':戦狂]


 深紅の機体<アクトラントクランツ>は、空へ舞い上がるとその場でくるっと回転してみせた。背面にある特殊装備――鳥類骨格にも似た羽根からは純白の翼が溢れんばかりに析出し、それらは一斉に膨れ上がる。

 白の両翼を広げた姿は、まさに異形の天使とでも形容されるべきだろう。

「へェ……鋼鉄の大天使ってガラかよ」

 おもしろそうだ、と戦狂は思った。

 強い相手と戦うとワクワクするのだ。殺すか、殺されるか――命を賭けた絶妙なバランスゲームは、この息詰まった世界の中では最高に楽しい。敵を追い詰める感覚も、そして追い詰められる感覚も、彼女にとっては遊びと同然だ。敵が死のうと自分が死のうと、楽しけりゃどちらでも構わない。

 そして、ウィルスデータを解放した<ヴェサリウス>は戦いをさらに面白くしてくれる。圧倒的な機動性さえあれば、接近戦仕様であるこの機体は幾らでも楽しみを見いだすことが出来た。

「コイツぁヤベェかもな……こっちも本気で行かせてもらうぜ」

 危険を肌で感じ取った彼女は、迷わずオプションの制限を解除した。ジェネレータの出力が上昇し、モニタに映る文字が色を緑に変える――これでやっと本気で戦えるのだ。

 戦狂は槍をその場に刺すと、<ヴェサリウス>の脚部に装備されたパックから2本のナイフを引き抜いた。それぞれの武器は短剣という点では一致しているものの、よく見れば異なる形状を持っている。

 片方は本物のダガーナイフのように真っ直ぐな形をしている。そして残りの1つは背の方へ反った形の刃だ。海賊が持っているような武器 "カトラスソード" をコンパクトにした形状である。

 先に動いたのは<アクト>だった。深紅の機体はビームの大剣を空中で一振りすると、剣色はオレンジから青白い色に変わった。出力は最高レベルに達している。

 ――急接近。

 先刻までの戦闘と比べて圧倒的に速度が上昇していた。ビームの大剣は大上段から振り下ろされ、対する戦狂は2本のナイフをXの字にクロスさせて一撃を受け止める。

「ハッ、この武器は超重コーティング済みさ。理論的にゃ、陽電子砲の中だって充分に耐え切れるぜェ?」

『せんきょうッ』死喰<リヒャルテ>の操縦主が叫ぶ。

「あァん?」

『――せんきょうッ! 逃げて!』

 ノイズに負けそうな二度の叫びは同業者からのものだった。<リヒャルテ>から放たれたのは、まだ声変わり前の幼い女のものだ。

 見れば、多層にビームコーティングされているはずのダガーナイフの刃が、まるでバターのように溶けていた。

「――はぁ!? な、なんでこうなるんだよ!」

 驚愕。

 2本の短剣を即座に捨て、<ヴェサリウス>は距離を置いて後退した。地面に刺さっていた槍を素早く掴む。

 が、<アクト>の速度はそれを悠に上回っていた。大きなビームの剣を両手で構え、左右へ揺れるステップを踏んでくる。

 残像とダッシュの組み合わせだ。

 深紅の機体<アクトラントクランツ>は左右へステップを踏む際に小刻みに双白翼を収縮させ、そして広げる運動をおこなう。赤い装甲の色と対照的な白色は際立って注意を引いてしまい、その残像が「網膜に残る」のである。

 ビームの大剣が振り下ろされる。

「コイツは――――おいおい悪魔かよ畜生ッ……!」

 槍ごと叩き折り、大剣は<ヴェサリウス>の機体の右半分を削いだ。右腕と右脚部が切断される。

 コクピットを抉るような振動が彼女を貫通した。肋骨の折れる鈍い音がして、少女は奥歯を噛み潰した。

「ぐあぁ…っ、」

 呻き声を上げていると、2段目の太刀が振り上げられる。

 ――化け物かよ、コレは。

 とても生身のパイロットが戦っているとは思えない。まるで悪魔だ。

 なかば諦めかけた瞬間、今度は別の方向からの衝撃が機体を襲った。今度は何だ?――遠のきつつある意識のなか目を開けると、<ヴェサリウス>の五体不満足な機体はダークグレイの機種に抱えられていた。

 戦線離脱だ。

「まァた助けられちまったな……」

『礼はいいよ』少年じみた声が返ってくる。

「悪ィな。今度何か奢ってやる」

『うん。気にしないで』今度は少女じみた声が返ってきた。

 戦狂と呼ばれる少女は額に滲んだ冷や汗を拭うと、小さくなってゆく深紅の姿を見送った。

 第二形態(セカンドフォルテ)を展開した<アクトラントクランツ>は、受けた致命傷にも構わず反撃を開始する。

 白の両翼を広げた姿は、まさに異形の天使とでも形容されるべきだろう。

 残像と共にビームの大剣を振り下ろす<アクト>。

「コイツは――――おいおい悪魔かよ畜生ッ……!」

 槍ごと叩き折り、大剣は<ヴェサリウス>の機体の右半分を削いだ。右腕と右脚部が切断される。

 機転を利かせたダークグレイのAOF<リヒャルテ>は、<ヴェサリウス>を抱きかかえたまま離脱を試みる。

 

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