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須佐翔太における佐藤佳奈の存在 4

内容が重いかも。ちょっとだけ。

 男がダメ?本気を見せたら?

 いつだって俺は本気だ。冗談であんなことは言わない。


 佐藤に告白して一週間。俺は本気というものについて考えていた。

 本気じゃない本気というのは何だろうか。

 それに気になっていることもあった。

『……お試し期間。須佐くんも同じこと言うのね』

 須佐くんも、というのが引っかかる。過去に同じことがあったのだろうか。

 考えても結論が出るわけではない。話をしないと。

 そう話をしないと始まらないんだ。

 携帯を取り出してアドレス帳を開いた。

「佐藤?いまいいか」

『ええ、大丈夫よ』

「俺なりに本気ってものを考えてみた。なにがあっても全力で佐藤を受け止める。これが答えだ。だから話をして欲しい」

『……』

「佐藤」

『…須佐くんを疑っているわけじゃないの。そういうことに疲れたの』

「それを話して欲しい」

『…話したら気が済むの?』

「ああ」

 ふうと大きくため息をつく佐藤。その声は強張っているような気がした。

『うちに来てくれる?あまりまわりに聞かれたくないの』

「ああ」

 住所を聞いて、佐藤の家に向かった。


 佐藤の家はマンションの2階で間取りは1LDKだった。一人暮らしには十分の広さだった。

「適当に座って。いまお茶を入れるから」

「ああ」

 ベッドとテレビがある部屋に通された。ベッドの前、低いテーブルの前にクッションがあったからそこに座った。

ぐるりと周りを見渡す。

最低限のものしかない、きれいに整頓された部屋だった。

「きれいに片付いているな」

「まだここに越してきて半年ほどだもの。それにもともと荷物は多い方じゃないから」

 マグカップを手に佐藤がやってくる。膝をついてテーブルの上に置く。佐藤が右隣に座る。

「…須佐くんが興味本位で話を聞きたいってわけじゃないのは分かっているわ」

「……」

「聞いていて楽しいものじゃないと思うけど」

 マグカップを両手にその温度を確かめるように持っている。

ためらいが見える。簡単に踏み込んではいけないラインをいま超えようとしているのがわかった。

それでも引かない俺を見て、決心したのだろう。ふうと大きく息を吐いて言葉を続ける。

「昔ね、ちょっといやなことがあって、それを興味本位で聞いてきたひとがいたの。だからそれを思い出して」

「いやなこと?」

「…ハタチのときに付き合っていたひとがいたの。お試し期間で」

 お試し期間という言葉にぴんと来た。俺が言った言葉で、佐藤が反応した言葉だ。

「お試し期間って」

「文字通りお試しされた期間よ」

 されたと言う言葉に強いアクセントがあった。自嘲気味に笑う。

「好きだったの、そのひとが。一大決心をして告白したわ。私のことなんて妹のようにしか思っていないって分かっていたから、振られて次へといこうって思っていたの。そう決意して告白したわ」

「……それで」

「…考えさせて欲しいって言ったわ。私、嬉しかった。なんとも思われていなかったわけじゃないから。でも」

「でも?」

「一週間間っても二週間経っても返事はなかった。その間なんども会っていたのに」

「……」

「告白して一ヵ月後よ、返事をもらったの。毎日毎日携帯を見ていた。もうこの時点で私、疲れていたわ。そしたら『お試し期間で付き合わないか』って」

 それでお試し期間に反応したのか。

「お試し期間でも何でも嬉しかった。好きなひとに付き合おうって言われて喜ばないひとがいる?諦めていたから余計に嬉しかった。だけど」

「…だけど?」

 佐藤は目を伏せる。

「ようは都合のいいひとが欲しかったのよ。私、その場で押し倒されたわ」

「……」

「抵抗できる?相手は好きなひとよ。お試し期間って言われて、抵抗したらそれすら無くなってしまうかと思うと、声ひとつでなかった」

「……」

 俺も声ひとつ出せない。

「ひとりになって泣いたわ。泣いてきもちを伝えたわ。わかったと彼は言ったわ。でも変わらなかった。デートもしない連絡も私からしないと繋がらない。毎日毎日疲れていって…。そんな姿を見て彼は言ったわ『まだ続けたいの?』って。泣きながら別れて欲しいって言ったの」

「……」

「もうあんな思いするのはいやなの」

「…………俺はどうしたら信じてもらえるんだ?」

「え?」

 佐藤は驚いたように顔を上げて俺を見た。

「そいつはそういうやつだったかもしれない。だけれど俺はそんなことはしない。佐藤を傷つけるようなことは絶対にしない。約束する。この言葉をどうしたら信じてくれる?」

「……」

 今度は佐藤が黙った。

「最低だよ、そいつ。佐藤はそんなやつとはつり合わない。傷つけられる必要なんてない。忘れろ。俺が忘れさせてやる」

「……」

「いまの話を聞いても、いや聞いたからこそ、好きだってきもちはかわらない。一週間前よりも、強くなった。きっともっと好きになる」

「無理だよ…もういやなの、傷つくのが」

「傷つけない。約束する」

「……」

「お試し期間なんて言って悪かった」

「…須佐くんは」

「ん?」

「須佐くんはどうしてそこまで言ってくれるの」

「好きだから。佐藤がそいつを好きでなにも言えなかったように」

「そんな…好きだって言われるようなところがないよ」

「そんなことはない。優しいから、心が柔らかいから、傷ついたんだ。それに飲みにいったときに気遣いができるのを知っている。辛い過去があったのにそれを乗り越えられる強さがある。そういうところが好きだ」

「…そんな、そんな風に言ってもらえるようなすごい人間じゃないよ」

「いいんだ。それで。そのままの佐藤がいいんだ。…考えて欲しい。答えは急がないから」

 そう言って佐藤の家を後にした。


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