2, ライフ・イズ・ワーキング
「ごめんなさい。やっぱりお付き合いはできません。」
真夏の夕陽が輝く辺で俺は砕けちった。今シーズン4回目の敗北だ。
俺はとある街に生まれ育ち、その街で小さな出版会社に勤めている。俺の主な仕事はネタ集めだ。今巷で話題のことや、注目を集めている人やモノ、更には噂や都市伝説なんかも、俺の餌になる。そんな仕事をしているものだから、ほとんどが聞き取り取材や連日にわたる張り込み取材だったりする。これが1日2日なんてものじゃない。1週間は会社に缶詰め状態が普通だし、上手く仕事が乗らない時なんてそれ以上だ。だからめったに家にも帰れないし、ゆっくり休日を過ごすこともできない。
そうやって日々一生懸命働いている俺なのに、どうしたものか、女性運がこれっぽっちもないのだ。特にここ最近、知り合ってすぐはいい感じに進むのに、その後はポイっと捨てられるか、連絡パタリ。こんなに誠心誠意頑張っているのに、神様は俺に何故見方してくれないんだ!!
プップー!!
気づけばさっきまで隣にいた女性はいつの間にか立ち去っており、俺の赤い外車の後ろに白け軽自動車が止まっていた。窓がシューっと開く。
「金!こんなとこで何してんのさ!次号の取材行くよ!!」
威勢の良い、聞きなれた声が響き渡った。俺はすぐさま車に乗り込み、白の軽自動車の後に続いた。
そうだな、俺の近くにいる唯一の女性は浅海先輩だなぁ…。
今俺の前を走っている車の持ち主は、俺とバッテリーを組んでいる浅海先輩。ショートカットでスタイルも良く、爽やかな印象の女性だ。決して世の男共から見捨てられるような人ではない。が、当の本人は生粋のキャリアウーマンであり、自分の恋愛に関しては全く関心を示さない。姉御肌な性分ゆえ、会社内でもみんなから頼りにされる存在なのだ。実際、俺も浅海先輩には大分リードしてもらっている。大家族の長男として生きてきたためか、俺の中で浅海先輩は「頼れるお姉さん」という唯一甘えられる立ち位置にある。
「あぁ?!資料のコピー忘れてきただとぉ?金、あんた仕事やる気あんのかぃ?!」
車から降りてすぐにどやされた。「頼れるお姉さん」…いや、間違ってはいないが、どやす時の声と表情、更に腹の虫の居所が悪そうに煙草をふかす姿は、正確には「頼れる最恐のお姐さん」だ。
「すいません!すぐ取ってきます!」
「ぐずぐずすんじゃないよ!それから、スピード違反だけはすんなよ!」
こんな感じで俺はほぼ毎日怒られている。バッテリーゆえ、どんな人たちよりも身近で一緒に行動する時間が長いため、怒られる頻度は半端ではない。最近は仕事の内容だけでなく、生活面でも喝を入れられる。周りからはよく「恐妻」とからかわれる。浅海先輩は、俺の理想からはとてもかけ離れた人だ。
あぁ、神様、何故俺にエンジェルを導いてくれないのですか…?
俺が我が家に帰ってきたのは、2週間ぶりだった。今でも実家から通っている。
「ただいまぁ~」
と、入ってみたものの、まだ誰も家にいなかった。平日の昼なんて誰もいねぇか。
特に家に帰ってすることはない。ましてや、誰もいないとなると、寂しさだけが募っていく一方である。
すると、1分も経たないうちに、ガチャっと玄関の戸が開いた。
「ただいま。」
「おおおぉ!銀!久しぶりだなぁ!」
帰ってきたのは、すぐ下の弟だった。この時間に帰ってくるのも珍しい。
「なんだお前、もう授業ないのか?」
「あぁ…。」
こいつは本当に無愛想なヤツだ。兄ながら心底認める。しかし、こんな無愛想な弟の放つ女性陣支持率 は高い。我が家で唯一のモテるキャラかもしれない。
「なぁ、飯でも食わねぇか?久々に会って積もる話もお互いあるだろうし。」
「あー悪い、練習室こもるわ。今週末試験なんだ。」
「えぇー?!またこもるのか?たまには兄ちゃんの愚痴も聞いてくれよー!」
「わりぃ。また今度にしてくれ。」
「銀~!!」
「お前が一方的に積もってるだけじゃねーか!こもるつってんだろ!じゃーな!」
バタン!と戸を閉めて弟は去って行った。
あいつは、地元の有名な音大に通っている。ピアノの実力といいす頭脳明晰且つスポーツも万能。おまけに整った顔と身体をも備わっているのだから、無愛想な欠点など目立つものじゃないのだろう。本当、兄ながらこいつだけは心底憎たらしいし、羨ましい存在だ。
その後、妹のはりが帰ってきた。どうやら期末試験期間中らしい。俺は飯を食いながらフラれた女の話や浅海先輩のこと、それから、女性運が極めて良くないことなんかをはりに話した。彼女は俺が食い終わるまで話をちゃんと聞いてくれた。こういう姿勢は、家族の中で誰よりも大人である。一通り話終えると
「ま、銀ちゃんと比べたって仕方ないわよ。金兄、モテないんだから。」
と、ストレートに釘を刺して部屋に帰っていった。こういうモノの言い方も格段と大人である。
夕方には末っ子が帰宅したが彼女は全く俺を相手にはしなかった。俺が家に帰ってくると、必ず何時間も喋りまくることをよく知っているのだ。中々手強い女である。
晩飯の時間なんて、話どころか末っ子の拾ってきた仔犬の騒動で険悪ムードのまま1日が終わっていった。風呂を出た後、プルルルルル…と着信が入った。
「あ、金?浅海です。明日9時半から高山さんとこに取材だから宜しくね。6時半に迎えに行くから。寝坊すんじゃないよ!」
アニメやドラマなら、きっとここで「トホホ…」なんてセリフが入るのだろう。
俺はたった1日の里帰りの余韻に浸ることもなく(浸るような出来事もなく)明日の朝、家族の前で浅海先輩にどやされないように目覚ましをセットして速やかに寝た。
「どう?久々の家は。リフレッシュできた?あんたん家、家族多いもんね。」
薄明かるい車内の中で軽快なポップスを聞きながら俺は浅海先輩の横に座っている。
「リフレッシュできるわけないじゃないすか。今日もこんな朝早く立つんですもの。」
「それもそうね。寝てていいよ、起こしてあげるから。」
さすがに朝早く先輩に運転させてもらっているのに隣で寝るのは申し訳ない。必死に目を擦った。
「あはは。本当に寝てていいって。」
「いや、大丈夫っす。それより、取材先の高山和比古さんって、最近新しく出来たレジャーランドの代表取締役でしたっけ?」
「そう。本社は長野県にあるらしいのよ。それで長野まで駆けつけてるってわけ。」
「そうだったんですか。このレジャーランド、巷ではどのお店も施設も物価が安いって人気ですよね。」
「そこよね、探るポイントは。何でこの不景気真っ只中であんなに安く商売できんのか、そこんところを吐き出させなきゃ。頼んだよ、金。」
「えっ?!浅海先輩も一緒に取材するんじゃないんですか?」
「私は彼の建設した長野にある商業施設を探ってくるわ。初大任務、任せたよ!」
浅海先輩は爽やかに微笑むと、俺の肩にポンと手を置いた。まさか、俺が大手社長に取材するなんて!!
「むーり!無理ですよ、俺。そんな準備も整ってませんし。」
「何言ってんの!取材人たるもの、いつ何時でも取材に臨むのがプロでしょーが!いつまでも甘ったれてんじゃないよ!頑張んな。」とんでもない展開だ。
俺は入社する前から浅海先輩を知っていた。学生時代、ふと手にした雑誌のある記事に目がいった。当時地元で女子高生が3~4人づるみで家出をするというニュースが話題になったことがあった。そのことについて、彼女らと直接話をして聞いたことや、当時の学校教育の実態のついて書かれていた記事が雑誌に載っていた。その執筆者が浅海先輩であった。彼女の書く記事は老若男女問わず、誰でも注目してしまうような、不思議な魅力を持っていた。そして、何か一線置きながらも、ありののままの実社会を書き出していた書き手に俺は惹かれた。そうして、浅海先輩のいる今の会社に入社したのだ。すぐに浅海先輩を発見し、バッテリーにしてもらった。
浅海先輩の取材をサポートしつつ、その中で学んだことを少しずつ生かしながら小さな話題の取材をこれまで幾つも行ってきた。
なのに、今回は一面記事の主格となる社長に俺が取材に挑むなんて…。
「さあ、着いたよ!」
車は大きなビルの中にある駐車場に停められた。ここが高山氏のいる本社ビルだ。
「じゃあ一通り終わったら連絡ちょうだい。私すぐそこにある商業施設にいるから、何かあったら連絡してね。」
そういうと、浅海先輩は賑やかな商業施設に向かい軽快に歩いて行った。俺は何だか面倒くさい方を回された気がして胃が痛くなってきた。もう一度鞄の中にある取材道具を確認し、重い足をビルに向けて頑張って上げた。
玄関ホールに入り、辺りを見渡してみると、一面中大理石や純金で出きた高価なオブジェがずらっと飾られている。さすが、有名企業の会社だけある。
「ご用件をお伺い致します。」
受付嬢が会釈して尋ねてきた。中々可愛い子だ。
「あの、明峰出版の水原と申します。高山代表取締役と9時半から取材の約束をしていたのですが。」
「かしこ参りました。少々お待ちください。」
あー、段々緊張してきた。変に待ち時間というのが緊張感を高めてしまう。何となく視線を周りに泳がすが、高級品が更に高山氏の地位をものがたり、逆に緊張してしまう。逆効果だ。
「お待たせ致しました水原様。お部屋へ御案内致します。」
またまた更に高級そうなエレベーターに乗り、20階に向かった。もしこれが普通のエレベーターであれば、一緒に乗っている受付嬢に「制服、素敵ですね。よく似合ってます。」なんて声かけただろうに…。今は集中しないと。
チーン。
20階につくと、広い廊下の突き当たりに大きな扉の部屋が現れた。
「こちらになります。 」
そういうと、受付嬢はノックをし、堂々中へ入って行った。
「失礼致します。明峰出版社の水原様がお見えになりました。」
「どうもぉ、水原です。本日はよろしくお願いします。」
顔を上げると、広々とした部屋の中にフカフカの高級なイスに腰掛けているふくよかな男性が現れた。
「やぁ、遠いところからよくお越しくださいました。代表の高山です。さ、お掛けになってください。」
高山氏の目の前にあるこれまた高級そうなフカフカのソファーに案内され、受付嬢は去っていった。あぁ、心のオアシスが…。
「明峰さんの記事、拝見させていただきましたよ。中々流行りのものについて敏感ですなぁ。」
「ええ、まぁ。」
「今回はうちが立てたレジャーランドについての取材でしたね。」
高山氏は葉巻を加えた。それと同時に秘書らしき美しい女性がお茶をテーブルに差し出してくれたのを会釈しながら、仕事道具を鞄から取り出した。
「はい。あの、早速取材の入らせていただきたいのですが、取材中に録音機での記録とお写真を取らせていただいてもよろしいでしょうか。」
「えぇ。構いませんよ。」
録音機の再生ボタンを押し、カメラを手元に置いて姿勢を整えた。よし、いよいよである。
「高山社長の商業施設は全国でも人気が高いですが、今回の地方出店についての目的をお伺い致します。」
俺は予め浅海先輩と用意した取材カンペを見ながら、質問を投げ掛けた。
「そうですねぇ。今のところお陰様で全国各地に出店させていただいてるので、地方の方でも多くの方にご利用していただける機会をと思いまして。」
「ありがとうごさいます。では、価格についてなのですが、地元でも格安だと評判を招いています。その低価格の秘密を教えていただけませんか?」
俺は思いっきり腰を低く保った。これは浅海先輩の作戦。「相手が答えにくいところにはとことん腰を低く保っていけ!」が今日唯一の教えである。
「秘密なんてほどのものはありませんよ。ただ沢山の年齢層のお客様にリーズナブルな商品をご提供させていただいているだけです。」
謙遜するように高山氏は笑いながら答えた。
何だか嘘くさい。
「その商品の仕入れに何か工夫があるのではないですか?」
俺は思わず尋ねてしまった。高山氏の顔が一瞬強張った。
「…お若い記者さんだと思いきや、中々鋭い耳をお持ちですなぁ。しかし、うちの生鮮商品は安全性の高い国内産を使用してますし、ブランド店の高級な商品につきましても本場のものをご提供しています。そこで低価格な商品が求めやすくなるのは、卸業者を介せず直接仕入れているからでしょう。そうすることで他の施設に比べて低価格なイメージがついたのかもしれませんなぁ。」
俺は新しく建設されたレジャーランドにはまだ行ったことがないので実際の商品を見たことがない。が、前に家に帰った時に妹のめのこがショッピングに行って安かったと喜んでいた気がする。
「なるほど。参考になります。今後も地方の商業施設展開の方は推進なされますか?」
「えぇ、そうですねぇ。よりリーズナブルな商業施設の展開は進めて行く予定ですし、今ある施設にも娯楽施設を2つ、ブランド店を5つ、それから温泉などのリラクゼーション施設なんかも追加していく予定です。」
なんとまぁ豪快な目標だなぁと心で呟きながら相づちを打った。
沢山話を聞いているうちに、あっという間に予定の時間になってしまった。
「本日はありがとうございました。」
「とんでもない。また是非いらしてください。」
帰宅する準備をしながら、緊張が少しずつ和らいできた。よかった、無事終わりそうだ。
「ところで君、長野には一人で来たのかね?」
初めて社長から質問された。少し驚いた。まずい。浅海先輩が商業施設を回っていることは内緒の約束だ。
「は、はい。そうです。」
「君のような若い子だけでか?よくここまで来れたねぇ。」
いかにも疑っているような質問だ。だが、完全に怪しまれている。
「あ、あの…姉が!姉と二人で長野まで来まして。姉が長野に詳しいので。ついでなので長野観光でもしようかと。」
俺は思わずでっち上げてしまった。あぁ、記者として一番やってはいけないことである。
「ほぉ、そうかね。それはよかった。だが残念なことに、今晩から長野は天気が崩れるそうでねぇ。山間部はすぐ崩れるところが多いから今日はこのまま立った砲がよろしいですなぁ。お忙しいのに向こうに帰れなくなると大変だからね。」
「はぁ、そうですか。わかりました、ありがとうごさいます。」
何とか信じてもらえたようだ。よかった。
ビルを降りて駐車場で浅海先輩と落ち合った。
「おぉ!お疲れ!どうだった?」
何やら大量に紙袋を下げ、上機嫌で戻ってきた。この女、まさか自分だけ思いっきり楽し んできてないか?
「何とか頑張れました。で、何ですか、そのブランド店ばっかの袋は。」
「あ、これ?ま、後から後から!それよりどっかでご飯食べて帰ろうよ。」
完全に遊んでるじゃないか!!!
「あ、でも今から天気崩れるらしいですよ?社長さん曰く、崩れないうちに戻った方がいいって。」
「えー?!そうなの?!仕方ないなぁー、じゃあドライブスルーするか。」
車に乗り込み(今度は俺が運転席で)そのままドライブスルーで昼食を調達し、帰路に向かった。
「え?!海外からのパッチもん輸入?!」
少しずつ降り始めた雨のなかを走りながら俺は大声を上げた。
「そう。私が買ってきたブランド店の品、どうやらパッチもん疑惑あんのよねー。」
ハンバーガーを頬張りながら浅海先輩は今日の収穫について教えてくれた。
「お店の人は商品の仕入れ先ははっきり知らないらしいのよ。有名なブランド店にしては確かに安すぎるしさぁ、私は韓国とか中国なんかの安っすーいブランド品を買い占めて自分の店で売ってるんじゃないかなぁーって思うんだけど。」
「え、それって浅海先輩のただの予想じゃないですか。」
「いいえ、ちゃんと話も聞いたわよ!このブランド店のオーナーさん曰く、お財布とかバックとか、パッチもんと比べて分かりやすいものじゃなくて、指輪とかネックレスとか、アクセサリー系やコスメ系、時計なんかの小物品が怪しいんじゃないかって。前に鑑定士さんにお店のもの鑑定してもらったらいくつかパッチもんが混ざってたらしいしね。そうと分かってて『全て本物です』なんて言って商売してるとなると、これは完全なる悪徳商法よね!」
まるで難事件を推理する探偵のように浅海先輩が真相を推理した。
「確かに…そういえば高山社長、韓国と中国にも姉妹店出してるって言ってたな。」
「ほらぁ、ね?どう?ちょっと面白そうな記事書けそうになってきたでしょ?」
「え?!俺が書くんですか?」
「当たり前じゃん。あんたが取材したんだから。今回私の名前入れないし。」
「だって、浅海先輩も取材してるじゃないですか。」
「バカねぇ。私はあんたの記事の説得力をより強くさせるために動いたに決まってるでしょ?一消費者の意見として『本社の別記者が長野にある商業施設に以前訪れていたことがあり、商品の中には偽物と判定されたものも含まれていたと証言している。』とか書けるでしょ?ま、ここにある買った商品の中にパッチもんがあればの話だけど。これは『何故低価格で提供しているのか』がテーマなんだから、あんたの取材文と私の行動力を合わせて答えを突き止めるんだ。」
俺は驚いた。浅海先輩はいつも自分の思うまま、感じるままに記事を書く人だが、より事実を追求するために、聞き取り取材だけでは明らかにならない部分を補う取材をしていたのだ。そしてハッと気づいた。
俺は普段から浅海先輩の取材を補うような取材をしているだろうか。
いつも浅海先輩の後ろに引っ付いて回るだけの活動を繰り返し、先輩の盗める業をどんどん吸収していこうとしていた。
が、これではダメだったのだ。そうだ、何のためにうちでは記者たちがバッテリーを組んでいるのだろう?より、真実に迫った現実味のある記事を読者に提供するためにバッテリーがいるのではないだろうか?俺自身が浅海先輩の記事に出会った時からずっと憧れ、追い続けていることではないか。
俺は自分のポジションを勘違いしていたことに気づいた。そして、それを言葉などで叱り教えつけるのではなく、自らの行動をもって大切なことに気づかせてくれた浅海先輩が改めて偉大な先輩であることを目の当たりにした。当の本人は、今俺がこんなことを思っているなんてこれっぽっちも気づいてないと思うけど。
「ん?何?泣きそうな顔して。何か悲しい女の別れ話でも思い出した?」
ニヤニヤしながらこっちをのぞき込んでくる。
「別に、何でもないです。」
我が家についたのは、この前のような夕陽がキラキラ輝く時間だった。
運転席を交代し、車を浅海先輩に返した。「今日はお疲れ様。ゆっくり休んで明日から執筆頑張ろ!」
「はい、本当にありがとうございました。」
「せっかくの初長野だったのに何もお土産ないのが残念だけど……あっ!」
突然何かを思い出した浅海先輩は、後ろに積んである紙袋をむさぼり、探し始めた。
「あ、あった、これこれ。ほら、金にやるよ。」
「?何ですかこれ。」
小さな袋の中のテープを剥がし、中に入っているものを取り出した。これは…
「縁結びにご利益あるお守りだってさ。あんた女性運ないみたいだし。あのお店がパッチもんだらけじゃなかったらご利益あるかもねー。じゃ!また明日、お疲れ!」
ブーン…っと白の軽自動車ははぎれの良いエンジン音を鳴らしながら去っていった。俺は、手のひらにある小さな赤いお守りを見た。
俺、浅海先輩のこと恐いとか思ってたり、仕事の愚痴ばっかりこぼしてたけど…
いい仕事と上司に恵まれたな。
「ただいま~」
家の中に帰って行った。半日ぶりの我が家からは
「おかえり~」
と、沢山の声が聞こえた。