だいすきっ!! 『たつじんっ!!』
お兄はクラスメイトの家にやってきていました。
「しっかし、家に呼び出してまで相談ごとって何なんだ・・・教室でもあんまり話したことないのに」
インターホンを鳴らします。
『はい。どちらさまですか?』
「あ、里見つばめです。ののさんいますか?」
『ああ、キミか。―――ちょっと待っていてくれ』
「さっきと声違う!?」
だいすきっ!!
だいごわ 『たつじんっ!!』
「やあ、わざわざすまないな」
「やあ。―――相沢さんって、電話だと声変わるタイプ?」
「いきなり挨拶だな。―――まあ、確かにそうかもしれないが」
「びっくりしたよ。家族の人だと思ったのにさ」
「今日、家族は誰もいないから気兼ねなくくつろいでくれ。―――さ、あがってくれ」
誰もいないって、なにやら危険なカンジ? おにいのみさおのききですかっ!? わふ! ゆあは野生の勘で分かるのです!
「お兄の危機!?」
「うわっ、ゆあちゃんいきなり何よ?」
「なんだかいけない雰囲気の予感です! あひるちゃん!」
お兄、ゆあは信じてますよっ!
「リビングがいいか? それとも私の部屋のほうがいいかな?」
「どっちでもいいよ、そんなの」
「ふふっ、では、私の部屋に来てくれ。こっちだ」
「あのさ、相沢さん。ちなみに家族の人はどうしたんだ?」
「ああ、私の『ねこ』を連れて旅行に行ったよ。まったく、私が飼っている子だというのに勝手なものだ―――さて、ここが私の部屋だ。女の子の部屋にしては、いささか殺風景だが我慢してくれ」
「確かに何もない部屋だな。姉ちゃんの部屋とは大違いだ」
「ああ、キミの家は姉三人だったか。―――それにペットも女の子だと聞いているぞ」
「ゆあのことか? ―――あいみから聞いたのか?」
「愛河とはよく話すからな。キミのこともよく聞かされているよ」
「アイツからの話じゃ、俺はずいぶん悪いイメージなんじゃないか?」
「そうでもないさ。愛河はともかくとして、少なくとも私は」
「―――あー、ところで、相談って何なんだ?」
「そう急くこともないだろう? もう少し話を聞かせてくれないか? 例えば、キミのペットのこととか」
その頃、ゆあは玄関の前でお兄を待っています。
「わう。お兄・・・」
「ゆあー。そんなトコで待っててもお兄はまだ帰ってこないわよ」
そんなこと分かりません。もしかしたらお兄の勘が働いて早く帰ってくるかもしれないです。ゆあのさみしがりなオーラを感じ取って一刻でも早く帰ってきてください!
「―――それでさ、ゆあってばなんでか知らないけど泥遊びが好きで。今日もここに来る前にあいつ泥だらけになっててさ」
「へえ、そういう手のかかる子はいいじゃないか。かわいくて。私の『ねこ』はそういうのが一切ないからうらやましいよ―――と、もうこんな時間か。そろそろ帰らないとご家族が心配するだろう」
「え? いや、でも・・・相談事は?」
「ああ。あれは・・・いや、別に構わないさ。次の機会にしよう。送っていくよ」
「いや、そこまでしてくれなくても」
「―――せっかく休日を割いてまで来てくれた好意には好意をもって返さないといけないだろう―――それとも、私は嫌いか?」
「いや、かなりどうでもいいが」
「なら、好意は受け取っておけ。さ、行こうか」
その頃ゆあはすっかり涙目。早く帰ってこないと不安とさみしさでおしっこ漏らしそうです。
「わう・・・」
「すずめ~。あんたがろくでもないことゆあに吹き込むからよ。まったく、あんたは女のクセに女心が分かっていないのかね」
「う・・・悪かったってば。―――でも、あひる姉ちゃんに言われたくないわよ」
「お兄・・・ゆあは捨てられる子じゃないですよ」
すっかりしょんぼりです。でも次の瞬間、ドアが開いたではありませんか! ゆあは一気に飛び掛ります。
「お兄~!」
「うわっと、ゆあ。何よいきなり」
「お姉さま・・・なんだぁ・・・・」
ゆあはがっかりして隅っこでいじけてます。
「うわ、何このいきなりの空気読めてない感」
「ホントに空気読めてないのよ、鷹子姉ちゃん」
「ただいまーって、何やってるのさ。全員揃って」
「お兄~っ! ゆあは捨てられない子ですよ~!」
お兄にすぐさま抱きつきます。しかしすぐさま引き剥がされます。
「ゆあ、人が帰ってきたときになんて言うんだっけ?」
「わふ・・・お帰りなさい」
「はい、ただいま」
そこでお兄の後ろにいる女の子に気が付きます。なっ! まさか、この子が新しいペットですか!?
「お兄! その子は・・・?」
「ん? ああ、クラスメイトの相沢野乃さん」
「やあ、キミがゆあちゃんか。キミの飼い主から話は聞いているよ」
「お兄から?」
「ああ。話の通りかわいい子じゃないか」
ののさんはそう言ってゆあを撫でます。
「わふ・・・」
「ふむ・・・『ねこ』もいいが『いぬ』もいいものだな」
「わふ・・・わう・・・」
「そういえば相沢さんのペットはどんな子なんだ?」
「ん? うちのムーンは・・・そうだな、愛想は良くないな」
「わう・・・う」
「ペットというよりも話し相手といった感じかも知れないな」
「わふ・・・・ぅ」
「相沢さん。それ以上は・・・ゆあがもたないと思うぞ」
「ん? ―――ああ、これは失敬」
「わ、わふ・・・昇天寸前でしたぁ・・・」
こんなに気持ちのいいなでなでができる人は初めてです。まさか四十八の殺『いぬ』技を使える人がいるなんて驚きでした。危うく魂的にも性的にもいってしまう所でした。
「じゃあ、私は帰るよ」
「ああ、じゃあ、また学校でな」
「ああ、またな『お兄』」
「ちょ、相沢さん! その名で呼ばないでくれ」
「ふふっ、気に入った。これからは私もお兄と呼ばせてもらうよ」
「ちょ、ちょい待て相沢さん! それだけは勘弁してくれ!」
相沢野乃さん。もしかすると、あの人はものすごい方なのかもしれません。また会えたら撫でてもらえるかな・・・。おしまい。
次回予告
「ゆあ、道端にこんな子落ちてた」
「わふっ! それは『かわうそ』っ!?」
嘘です。そんな次回はないです。
四十八の殺『いぬ』技は伝説のわんこマスターが編み出したという伝説の必殺技です。これを使えばどんな『いぬ』でもたちまちモノにできるというお話です。お兄も覚えてくれないかな・・・。
次回『だいすきっ!!』は、
『すにーきんぐっ!!』
こちら「ゆあーク」。学校に潜入した。ミッションを開始する。
お兄を探して、学校を探検ですっ!