それでは皆様御機嫌よう。
「貴様との婚約も今日までだ!」
殿下が声を上げるとそれまでざわついていら夜会会場が静まり返った。
楽団の指揮者も曲の続きを演奏すべきか指揮棒を上げたまま困惑している。
「陰気なお前を見ているだけで気が滅入る。」
壇上でふんぞり返る殿下に勝ち誇った笑みを浮かべた義妹がぶら下がっている。
第三王子の殿下は王命で私と婚約していたが庶子の義妹に乗り換えるつもりなのでしょう。
どうでもいい。
いや、本当にどうでも良かった。
王命でなければ殿下の機嫌取りなんて御免だし。
そんな事より、お腹が痛い。
心あたりは飲水として用意されていた水差しの中身。
王家の侍女が用意したものなので毒見済と思っていたが下剤が混ぜられていた可能性がある。
「どうしてもと懇願するなら妾として置いてやっても良いぞ。」
他にも何かおっしゃられているようですが激しい腹痛で内容が頭に入ってきません。
ヒヤリ…と冷たい汗が背中を伝うのがわかります。
シクシクと痺れるような腹痛と下半身から湧き上がる寒気…限界でした。
額の脂汗に張り付く髪。
痛みに耐えるため力の入った眉間。
腹痛を庇うよう顔を上げると無意識に上目遣いになる。
周囲がざわり…と揺れた。
「殿下、了承いたします。では御前を失礼致します。」
絞り出すようなか細い声で遮るようにカーテシーを行うと淑女に許される範囲内で広間を後にした。
「公衆前で粗相させて社交界から抹殺する予定なのになんでもう少し粘らないのよ!あの薬高かったのよ!!」
「知るかよ!何だよ薬って!!」
背後で義妹と殿下がヒステリックに叫ぶ声がしたがどうでもよい。
人目をさけるようお手洗いに駆け込んだ。
腹痛が落ち着くと思考が戻ってくる。
この国は女性でも爵位が継げる。
女侯爵だった母が亡くなり正当な継承者の私が成人するまでは父が後見を務めているが恐らく爵位を継いだと勘違いしている。
母亡き後に家に入れた愛人の継母は元は平民で義妹は庶子なので爵位の継承は血を重んじる貴族社会では不可能と思われる。
あれ?殿下は義妹を娶って平民になるつもりかしら?
何事も絶対ではないので裏技があるかもしれないけど。
自宅に帰っても継母や義妹と顔を合わせるのは気不味い…。
広間からかなり離れた王宮のエントランスまで来た所で陛下の割れるような怒号が響いてきた。
反響して何を言っているか分からないがこの音量は尋常ではない。
兎に角、逃げよう。
そう思ったところで辺境に嫁いだ叔母が茶番で気分を害して帰る所に遭遇しましたの。
一緒に辺境に行かないか?と言われまして丁度良いのでご一緒する事にしました。
昔から逃げるが勝ちって言いますものね。




