表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの夏に戻れたら

作者: 柚咲
掲載日:2026/05/10



目を覚ますと、暗く蒸し暑い部屋。俺は、少し湿っている重たい体を起こし、キッチンへ向かった。

 近頃、寝苦しい日々が続いている。水切りに置いてあったコップを手に取り、蛇口から水を汲み口へと運んだ。そして、一口飲んだ後、お世辞にも綺麗とは言えない部屋と、机の上に散らかった飲みかけのペットボトルが目に入る。1つため息をこぼし、俺は寝室に戻り目を閉じた。


 カーテンの隙間から漏れ出た光で目を覚まし、こなれた手つきでスマホを見る。

 ――8時49分。それは、いつもの起床時刻では見慣れない時間だった。


 ……今日は、遅刻をしてしまった。ちなみに、出勤時間は9時までだ。俺の家と会社までは電車で15分くらいかかる。5年くらい前だったら、言い訳することを企んでいただろうが、今はそんな気力もない。大人しく、大人らしく怒られているほうがよっぽどいいと思えてしまった。(いや、怒られないのがいいのだが)そして案の定、ものすごく叱られた。

 

 いつもの各駅停車に足を踏み入れ、近くの椅子に身を投げた。少しすると、重たく今までこじ開けていたものが目を覆ってしまった。

 ……ひんやりと冷たい物が頬に触れ、息を飲み目を開いた。初めに視界に入ったのは、自宅の最寄り駅の看板が動きだしているところだった。どんどん俺から離れていくのをどうすることもなく、ただ見ていることしかできなかった。

 とりあえず、次の駅で電車を飛び出し、見慣れない景色のなか、改札に向かう。

 

 ――ぴんぽーん。こちらで拝見いたします。

 

 ……今日は本当についていない。自分に怒りさえ覚えた。俺は一人じゃ何もできないのか。そんなことを考えながら重たい足を進めていた。

 もう少しで家に着くところで、どこか温かく懐かしい明かりと、夏の香りを感じた。光にたかる虫のごとく、俺もその懐かしい明かりの中へ足を運ぶ。

 祭りに来たのはいつぶりだろうか。たくさんの屋台が並んでいる。今日の晩飯は屋台で適当に買って済ましてしまおうなんて考えていると、前までよく見ていた彼女のあの服が視界に入る。その方向に目をやるとどんどん人ごみに飲まれていく、彼女の後姿があった。俺は思わず人をかき分け、彼女の名前を呼んだ。

 「――すい!」

 彼女は振り返ってくれた。それと同時に俺の後ろから、火薬のにおいとまばゆい光が俺を追い越した。驚いて振り返ると、とても大きなひまわりのような花が空に咲いていた。あの夏、最後に彼女と一緒に見たものと、とても似ていて、声を上げて彼女に話しかけようとした。

「あの花火……」

 話しかけようとしたのだが、そこには彼女の姿はなかった。我に返って、視界がどんどんぼやけていく。そんな中、スマホが1つの通知を伝えた。


 ――すいの誕生日。忘れない。


 それは、いつも当日2人で祝うなんてしてやれなかったが、言葉だけでも彼女を喜ばせたい一心のほのかな表れだった。

 今日は彼女の誕生日だ。忘れていた俺はどうにかしていた。今からでも間に合うだろうか。

 それから俺は、彼女のいる自宅へ急ぎ足で帰った。


 「 ただいま 」

 「 誕生日おめでとうって遅すぎるよな いつもごめん」

 「 プレゼントは明日買ってくるからな。別に許してほしいなんて言わないよ。でもこれ……」


 俺はさっき屋台で買ってきた、彼女と祭りに行くとよくねだられた、彼女の好きなりんご飴をおそろいの指輪の横に置いた。

 

 「 いつも待たせてばかりだが、明日まで待っててくれるか? 」

 

 俺が好きな優しい笑顔で、君はいつまでも写真の中で笑っていた。

 そして彼女の指輪の宝石が少しばかり輝いた気がした――。




出会いがあると、別れがある。今を大切にしたいですね。


柚咲です。処女作はいかがだったでしょうか。正直なところ、まだあまり納得がいっていないところもありますが、読んでいただけてうれしい限りです。感想やアドバイスお待ちしています。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ