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セスはアヴィンからの言葉に少し躊躇いながらも答える。
「……魔族との戦いで多くの仲間を見殺しにし、さらに遺族への言葉を冷たいものだったという一件が始まりですよね」
「そう、その一件で彼女は民衆から非難を浴びるようになる。美少女の仮面をつけた悪魔だ、なんて言われたりね」
アヴィンはどこか楽しそうに話す。セナはアヴィンの考えていることが分からずに複雑な表情を浮かべる。そんなセナにアヴィンは話を続けた。
「あの戦いがケイトにとって何歳の戦いか知っているか?」
「いえ……」
「十歳だ」
「えっ、じゅ、じゅっさい、ですか」
アヴィンはセナへと視線を向けて、セナの驚いている様子を眺めながら「それが彼女にとっての初陣だった」と言葉を付け加えた。
セナは目を大きく見開いたまま、言葉を失う。
「『聖女』と多くの期待を背負って最前線で戦ったのさ。実戦は初めてで、魔族との戦いにかなり苦戦していた。……そして、一部隊をまるまる囮として切り捨てた。その犠牲のおかげで一夜で魔族を倒すことができた。その部隊で生き残って帰ってきたのはケイトだけだ」
「…………私が聞いてた話とは少し違います」
「それもそうだろうな。あの戦争記録を読まない限りは知るはずのない事実だ。……世間では仲間を殲滅させて、勝利した戦いと印象に残っている。更に、血を浴びた小さな女の子が屍の上で笑みを浮かべていたのを見た兵士もいる。恐ろしい噂が回るのは当然だ」
アヴィンとセナの間に重い空気が漂う。アヴィンは一呼吸置いて、話を続けた。
「……加えて、遺族に対して謝罪の言葉は一切なかった。民衆に嫌われ、憎まれても仕方がない」
アヴィンは「仕方がない」と言いつつも、どこか苦く沈んだ気持ちになる。十歳の女の子が背負っていい罪の意識ではない、と。
「『聖女』だからという理由で戦場に立つことになり、『聖女』だからという理由で非難を浴びる。……なぁ、セナ。彼女のことを人々は残酷だと言うが、本当に残酷なのは民衆じゃないか?」
「……それは」
セナは言葉に詰まる。
「今ではケイト・シルヴィは最強兵だなんて言われているが、元々強かったわけじゃない。聖女認定を受けたが、彼女はただの少女だったんだ。確かに魔力は強かったが、どれだけ強くても扱えなければ意味がない。彼女は未熟なまま戦場へと足を運んだ。……初陣を終えてからのケイトの成長力は凄まじいものだったと聞く」
「初陣がきっかけで、ケイト・シルヴィは強くなることだけに身を投じたのですね……」
「ああ。……多くの者が勘違いをしているが、彼女が心を捨てたのは両親に魔族を殺されたからではない。初陣での犠牲を許せなかったからだ。ケイトは普通の女の子として生きることを放棄して『戦いに勝つ』という道を選んだ。そして、今では父からの頼みを何度も断り続けているという。彼女は世界を救うほどの資格はないのだと考えてるのかもしれない。それか、単に大きな責任を負うのが嫌か。……今日、それを確かめたかった。『優しくない聖女』と呼ばれているケイト・シルヴィがどんな人間なのか、この目で見てみたかったんだ」
「……どうでしたか?」
「期待以上だった」
アヴィンのその答えがよく分からず、セナは「というのは?」と少し首を傾げた。
「世界を救う資格がないと思っているわけでもなく、責任を負うのが嫌だとも考えているわけでもなく、悲劇のヒロインぶるわけでもなかった。ただの変な女だった」
「はい……?」
セナの眉間に深い皺が刻み込まれる。
アヴィンは人を見る目がある。いわゆる鑑識眼というものだ。しかし、そんなアヴィンでもケイトのことを掴むことはできなかったのだ。




