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君のことだよ、全く。
私は心の中で小さくため息をつきながら「ちょっとね~」と再び笑みを浮かべた。
世間体を気にするのは二の次! というか、別に考えなくてもいい。今までだって無視してきたのだから、これからも無視が一番! さよなら世間体! 爆ぜろ! ……おっと、火力強すぎちゃったかも。
「聖女ってのは案外大変なんだな」
少し間を置いて、クリフは口を開いた。私はその言葉の意味が分からず、思わず少し首を傾げてしまう。
……なんの話? クリフの対処に悩んでいることに対して?
「こんなクソだりぃ魔法をかけられた以上、お前がいくら魔族の足元にも及ばない劣等生物であっても、俺はお前に従うしかない。お前の生き方に付き合ってやる」
めっちゃ貶された。けど、なんか慰められたよ。これが俗にいう、飴と鞭ってやつ?
ワンセンテンスで一気に詰め込まれることあるんだ。てか、あんたその劣等生物に負けているんだからね?
めちゃくちゃ上から目線だけど、勝者は私だからね?
一拍置いて、私はクリフの言葉に吹き出した。
決して彼の言葉を馬鹿にしているのではない。ただ、嬉しかったのだ。まさか魔族に気を遣ってもらえるとは思いもしなかった。そんなおかしな状況に思わず心が温かくなった。
「おい、何笑って」
「私に付き合ったこと後悔させないぐらい楽しませてあげるよ」
私は笑いを止めて、クリフに向かってニッと口角を上げた。クリフは私の目を真っすぐ見つめたまま固まっていた。
ふと、その瞬間、自分がなりたかったものが分かった気がした。
聖女になりたいわけでもない。ヒーローになりたいわけでもない。世界を救いたいわけでもない。……だけど、大切な人を守りたい。私に関わった人間に後悔させたくない。
戦場では残虐な天使と謳われ、この国の誰も私を「素晴らしい聖女様」として見ない。ケイト・シルヴィとしても見られない。闇に堕ちた冷血な女として扱わない。汚名返上なんて今更願わない。
それでも私は復讐を軸に生きたりなんてしない。私の人生だもの、誰にも奪わせない。
――――何になりたいか。
「私は……優しい怪物よ」




