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私は続けて質問した。
「ねぇ、魔王ってどんな人?」
「……偉大な方だ。無慈悲で強欲で、圧倒的力を持っている」
それ、偉大っていうのかな?
「じゃあ、今の状態で魔王のとこに戻ったらまずいね」
「まずいもなにも、極刑だろうよ。んでもって、この町の人間どもも死ぬ。まぁ、最後に一撃与えられるから、少しは魔王様のお役には立てるんだろうな」
「どうして魔王に仕えているの?」
「お前は質問が多いな。……はぁ、そういうもんじゃねえの? お前だって聖女として国王に仕えているから、こうして俺を倒しにきたんだろ?」
そういうもん。…………私はどうしてクリフが人間に危害を加えるのかが知りたかった。返ってきた答えはつまらなかったけど、私もクリフと少し似ていた。
「俺からも一つ聞いて良いか?」
「どうぞ」
「お前は魔族を心の底から憎んでいるのか?」
私を射抜くようにクリフは私と目を合わせた。この視線から逃れられないと直感が言っていた。一瞬固まったが、すぐに私は「良い質問だね~」と小さく笑った。そして、軽い口調で話を続けた。
「私の両親は魔族に殺されたんだ。住む家も友も何もかも。弟以外はね。……けど、憎しみの感情は長く続かない。悲しみはあるけど、憎しみは薄い。もちろん、当時は魔族を恨んで全滅させてやるって思わなかったこともないけど、今は……そんなんじゃない。君と同じで『そういうもん』だからしている。大義も名分もない」
私がそう言うと、彼はハハッと声を出して短く笑った。
「そういうのは、復讐に生きるもんじゃねえのか」
そう、本当にその通りだと思う。復讐が人を強くする。両親が殺された時も仲間が殺された時も強くなろうと思えた。けれど、復讐に私の全てを注ぎたくなかった。
訓練に日々励んだ時の気持ちは「魔族に殺したい」よりも「守れる力がほしい」だった。
「復讐に生きる方が楽だもん」
私の言葉にクリフは「え」と声を漏らした。
「辛くて重い世界を明るく面白くする方が大変でしょ? 人生は短い。どうせなら憎しみで終わらせるよりも楽しんで終わらせたい。そっちの方が私の性に合っていたの。それにさ、憎いのは魔族だけじゃないよ。人間も変わらないほど冷酷だよ」
「……けど、お前は聖女だから」
「聖女ってだけで崇拝されるわけじゃないよ」
私はクリフの言葉を遮って、笑みを浮かべた。クリフはそれ以上踏み込んでこなかった。
頭の悪くない男だ。それに、雑魚魔族どもと比べたらかなり強い。近くに置いていたら、いつか役に立つかもしれない。
…………ハッ!! けど、また私の悪い噂が出回るんだろうな~~。盲点!!
聖女が魔族と手を組んだと思われるに違いない。……今のクリフは完全無害なんだけどね。
そんなこと言っても、誰も信用してくれなだろうし……。国王を説得できたとしても、世間が私を見る 目は更に酷くなる。というか、クリフ、王都に戻ったら私の評判を聞いてびっくりするんじゃない?
いや、まずクリフの見た目を変えないと。このままだと完全に「敵」だもん。角を引っこ抜くのは……流石にダメだよね。
私が頭を抱えながら脳内でぐるぐると考え込んでいると、クリフが訝し気に私を見ながら口を開いた。
「なにをそんなに考え込んでいるんだ?」




