68
今、こいつなんて言った?
私がクリフを殺せば、ここの町にいる者たちが全員死ぬ……?
「ちょっと~~!! どういうこと!!」
私はクリフの首を掴み、彼の体を持ち上げた。少々乱暴だけど、仕方ない。相手は魔族だもん。
クリフは咳き込みながら、口を開く。
「……ここに、来る時に見ただろう? 人間どもがお前たちを監視しているのを……」
「あ~~、気味悪かったね、あれ」
「あいつらは全員俺に命を捧げたものたちだ。……俺がここに来た時、俺に逆らった人間どもを何人か殺した。この俺に敵わないと思った他の連中は、俺に命乞いをしてきた。……だから、契約してやったんだよ」
クリフはにやりと不気味に笑みを浮かべた。私は「何を?」と眉をひそめながら聞き返す。
「命を奪わねえ代わりに俺の下僕になれってな!」
……もうこんなに元気に話せるんだ。まだへばってくれてても良かったのに。
「俺の恐ろしさにひれ伏したんだよ! あいつらの命は俺の手の中だ。その俺を殺せば、どうなるか分かるよな? 嬢ちゃん」
「だから~、嬢ちゃんじゃないって。ちゃんと大人。全く、みんな私のことをなめてかかるんだから……。本当、全部この見た目のせいだよ」
「あ? お前が大人だと?」
『彼を放すな』
私はクリフの言葉を無視して、詠唱を発した。それと共に、彼は凄まじい勢いで壁に吹っ飛び、壁に背を付けたまま私の魔力の圧で抑えつけられている。
この期に及んで、私にまだ喧嘩を売れるとはなかなか度胸があるじゃない。
「カハッ」と苦しそうに顔を歪めるクリフを冷静に見据えて、質問をする。
「なぜ、支配をこの町だけにしたの?」
「ハッ、誰が……お、お前になんか答えるか……」
私は更に魔力を込めて、クリフを抑えつける力を強める。壁が軋む音を立てて、さらにめり込む。
「……そ、それが魔王の、め、命令だったからだ。……俺の範囲、は……この町だ、けだ……」
「貴方と契約した者たちを解放する方法は?」
「な、ない……。あ、あいつらの胸には全員契約の紋章が刻まれている。それを消すには俺を殺すしかない。……だ、だが、さっき言った通り」
「貴方を殺せば、全員死ぬのよね……」
ああ、面倒なことになった。
魔王の血縁者め、なかなか反則級の魔法を使ってくれるじゃない。
ガンガンガンッと突然、扉が強く叩かれる。古びた扉の木目に亀裂が走る。気づけば、大勢の人々が修道院を取り囲み、中に入ってこようとしていた。次の瞬間、パリンッと破裂音と共に窓ガラスが砕け散った。誰かが石を投げたようだ。
こんなおんぼろ修道院、そう長くはもたない。
「もぉ~~なにこれ~~」
私が顔を顰めている間に、レイはすかさず詠唱を発して結界を張る。
やるじゃんレイ! 負けるなレイ! それいけレイ!
私は他人事のようにレイを応援した。彼は深刻な表情で結界に意識を集中させて、町の人々からの襲撃に耐えていた。
「俺が黙ってやられると思うなよ? ここの人間を支配しているのが俺だということを忘れるな。お前もそろそろお前も俺の恐ろしさにひれ伏せ」
「ねぇ、あんた、私のこと本当になめてるでしょ?」
私はまっすぐクリフを睨みながら、口の右端を少し上げる。
まぁ、少しは頭を使ったことは褒めてあげる。私たちが人間に対して攻撃をできないことを知っていて彼は人間を使ったのだろう。……だけど、大きな誤算がある。
「私だって隷属の魔法を使えないわけじゃないのよ?」




