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「行くよ」
私が呆れた様子でそう言って、私は町へと足を踏み入れる。
視界に広がったのは雪国だった。私が最近した村全体を凍らせた時とはまた違う。
しんしんと雪が降り、浅く積もっていた。吐息が白くなり、私は方をすくめながら、両腕を胸の前で交差させ、交互にさすった。
うう、やっぱり寒いよ~~。こんなの拷問だよ~~。
早く魔族を見つけて倒してやるんだから。覚悟してなさい。寒いの苦手な私をこんな目に遭わせたことを後悔させてやる。
「お前、何者なんだよ……。さっきの壁をあの短い詠唱だけでぶっ壊すなんて……。桁違いの強さじゃねえか」
「聖女様だよ~」
私は舌をベエと出して、レイを見る。
レイは私の力を少しも理解していない。私はこの国でトップの強さだよ?
「……信じられない。…………本当にすごいです!! あれを一瞬で消してしまうなんて、ケイト様は素晴らしいです!!」
「えへへ~~、そんな風に見つめられることないから照れちゃうよ。この任務が終わったら、何が食べたい? 奢るよ?」
自分の力をこんな風に褒められることがないから、思わず間抜け顔になってしまう。
過去、こんなキラキラした目で私のことを見た者はいたか? いや、いない。
ミミが王都で育っていたら、私のことを見る目は変わっていたに違いない。しょっちゅう私に対しての根も葉もない嫌な噂が出回っていた。
「おい、あれ見ろ」
レイは目を丸くしながら、町に入ってすぐにある家の窓の方へと指をさした。私とミミは彼の指の先へと視線を向ける。
女性が窓の近くに立って、覇気のない死んだ瞳を私たちに静かに向けていた。彼女のその表情と姿に背筋が凍り付いた。頬はこけており、肌は青白く、目の下にクマができていた。
その気味悪さに私は辺りを見渡した。住人は誰一人として外にいない。ということは全員家の中にいるの?
足を進めながら、それぞれの家の窓へと視線を移していく。皆、同じ表情で家の中から私たちを見ていた。
なんなの……。まるでホラー小説に連れ込まれたような世界線じゃない……。
私が右へ動くと、彼らの視線は右へと動く。私が左に動くと、彼らの視線は左へと動く。サイドステップでも踏んでみようかな。
私はその場で大きく左右へとジャンプしながら動いた。全員の視線が右へ行ったり、左へ行ったりと私の動きを追う。
「ヒィ! 怖いんだけどぉ」
私は動きを止めて、情けない声を上げる。
「何してんだよ」
レイの呆れた声に私は「私のサイドステップお披露目会」と冷静に返す。ミミ相手なら「ちょっとみんなの動きを確かめたくて」と深刻な表情で言っていたけれど、相手はレイだ。冷たい反応で返しても問題ない。
「やっぱり馬鹿なんだなお前」
「この雪のように粉々にしてやろうかい?」
私はレイの言葉に笑顔で返しながら、町の奥へと足を進めた。町の人々の奇妙な様子を無視して、邪悪な気配を感じる方へと向かう。




